老朽アパートの一室で、腐乱死体が発見された。私が駆けつけたときは既に遺体は警察が回収して、火葬を待っている段階だった。亡くなったのは中年男性。遺族といえば兄弟くらいしかいない人らしく、遺族の到着を待ってから部屋に入ることになっていた。その部屋は、外から見ても窓に無数のハエが貼り付いていて、中の様子がほぼ想像できた。
しばらく待っていると、遺族(故人の兄弟達)がやって来た。
東北の某県からわざわざ来たらしく、話す言葉は東北弁で、ゆっくり話してもらわないと何を言っているのか分からなかった。
「だいぶ臭いはずですから、気をつけて下さい」(気をつけようもないのだが)
と言いながらドアを開けて中へ。
案の定、中はいつもの悪臭とハエだらけで、汚染部分にはウジが這い回っていた。
驚いたのは、その後の遺族達のアクティブな動きだった。
「大して臭くないでねぇか」(スゴク臭いのに)
と言いながら、私を通り越してズカズカと中に入り込んでいったのである。ほとんどのケースだと、始め、遺族は私の背中に隠れるようにしているか、外で待っているかのどちらかなのに、この人達は違った。まさに強者達。
そして、更には、腐敗液のついたカーペットを素手で捲り挙げて、その下の畳の汚染具合を確認したり、ウジやハエのついた家財を気にもしないで触りまくっていた。
「使えるものがたくさんある」「田舎に帰らないといけないからあまり長居はできない」等と言いながら、腐敗液もウジもハエも、悪臭さえも気にする様子もなく家財道具・生活用品をまとめはじめたのである。しかも、マスクどころか手袋もせず、普段着のままで。
呼ばれて来たのはいいけれど、私が出る幕なし。遺族が私に依頼する作業内容がハッキリしないので見積りのしようがなかった。その前に、「この人達だったら、私の作業は必要ないかも」と思った。
そういう状況なので、私に依頼する内容が固まったら、再度見積もりに参上することにして、一旦は退散。
数日後、連絡が入り再び現場へ。中の荷物はほとんどきれいにまとめられていた。「まだ使える」「捨てるのはもったいない」ということで、ほとんどの物を持ち帰ったようで、残された不要品は少なかった。物を大切にすることはいいことだが、図太い神経だ。
ただ、それからが問題だった。大家は殺菌消臭をはじめとするフルリフォームを要求、遺族は荷物の撤去だけで充分と主張し、意見が真っ向から対立していた。
私は、第三者(専門家)として意見を求められたので大家側に立った。そりゃそうだ。腐敗死体の臭いがする部屋に新たに入居する人がいる訳がない。ただでさえ、完全リフォームしてでも、死人がでた部屋には入居者は入りにくいというのに。
遺族は
「このくらいの臭いは平気」「ウジやハエなんて、普段だってそこら中にいるもんだ」
と勝手なことを言っていた。この人達は普段どんな暮らしをしているんだ?腐敗液やウジのついた物を平気で素手で触れるような人達だから、もともとの感覚が違うのだろう(私が言うのもおかしいかもしれないが)。
とりあえず、私は不要品の撤去と簡単な消臭作業のみをやった。大家は自分の味方として加勢してほしそうだったが、大家vs遺族のトラブルに巻き込まれたくなかったので、作業をそそくさと済ませて退散した。
それにしても、特殊清掃を本業とする私が顔負けするほどの肝の据わった遺族だった。脱帽である。
トラックバック 2006/06/22 08:57:23投稿分より
葬式で臭いがあるのは当たり前なのだとか。
死体や臭いに怖気づくのは、へたれ近代人、都会人の証拠なのかもしれませんね。
ご親族がごねたのは、単純にお金を払うのが惜しいのと、イヤがる人間が存在するということ自体を理解できないからだと思いますよ。
飛び降りて飛び散った肉片を片している
奥さんを見たことがある。
あなたにはできますか?
遺品を持ち帰ってまた大事に使う、という姿勢には
頭が下がるし、尊敬に値する。
でも「自分たちは大丈夫なんだから他の人も平気なはず、フルリフォームなぞ必要ない」
という姿勢は遺族としてどんなもんだろう?
私たち酪農系の人間からすると、都会の工業臭(排ガスや汚い川のヘドロ臭等)や
ケバい女どもの香水臭のほうがよっぽど堪え難いですね
なんにせよ、様々な臭いを経験してきているであろう管理人様に脱帽です
自分自身が抱いている死生観、或いは当り前の価値観というものを改めて見つめ直してしまいます。
東京からすごい田舎に引っ越したのですが、離れたところに牛舎があり、距離はあるものの風向きによってすごい匂いがやって来ます。蝿も多い。はじめはその匂いがきつくて窓を閉めたりしてたんですが、数年経つと慣れるもんですね。最近は実家から戻ってきてその匂いを嗅ぐと帰ってきたなぁと実感しちゃいます。
悪臭慣れというのはあるかもしれません。
多分この程度なら余裕かも・・・
どうでしょう。彼らを勧誘してみては?(笑)
一応町の中で暮らしている私じゃ、とてもじゃないけど、いくら身内とはいえ腐乱液やにおいが染み付いた遺品に触ることすら絶対嫌がるなと思います
でも、百年ほど前までの日本人ではごく当たり前のことだったかもしれませんが
世の中にはホントいろいろな仕事があるんだなあ,と感心し,また,自分が死ぬ時は他人に迷惑を掛けたり嫌な思いをさせたりしたくない,とも考えさせられました。
毎日の更新,大変ですね。ネタ切れになったりはしないのでしょうか?週1の更新でもいいので,末永く続くことを期待します。
これからも陰ながら応援しています。
手間がめんどいですが価値観の違う人間に納得…というか
強制的にでも払わせるには、この場合訴訟しかないかな。
身内の不始末は自分達で片付けて当たり前、他人にやらせては申し訳ない、といった感覚。
古き良き日本人の姿かも・・・
それでいて、都会の人間ってのは変なところに潔癖症なんだよね。
それと物を大切にする心が都会の人間には無くなっている。何でもかんでも使い捨ての時代になっているんだよね。
まぁ、田舎も最近は都会と似たような感じになってきているけど…
でもフルリフォームはやった方が良いでしょうに。
自分が大丈夫だから他人も大丈夫、ってーのは……
人糞を畑に使っているところもありますし、夏の蒸した状態での人糞の匂い、草むらに野良猫の死骸がそのままでの腐乱臭など慣れもあると思います。
残った家財などを持ち帰ったことも図太い神経だとは思いませんね。
家族の遺品ですよ?大切に使って当然なのでは・・
と思うのは、使い捨てがもったいないと言うしつけを受けた田舎者だからですかね(笑)
人間は何万年も死と隣り合わせで生きてきたんですから。
もしその場に死体があったなら、いくら図太い遺族でも流石に反応が違ったのでは・・・?
牛舎の臭いは想像を絶します。
3キロ以上離れているのに風上が牛舎の方になっただけで家の窓を閉めなければなりません。
そうしないととても食事を出来る状況ではなくなります。
でも、その臭いに慣れたからといって腐乱死体
に免疫がつくとは言い切れない気がします。
やはり他の要因が大きいのではないかと思いま
す。
爆笑しつつもほんのりと心が温かくなりました。
きっと仏様も「んだんだ」と兄弟と一緒に郷里に帰られたのでは?
雪の多い所の人は我慢強いって聞きますから。
寒いとかキツイとか、肉体的につらいこと全般
「このくらい平気」って言う人たちなのではないかな。
飄々としたところも、ちょっとカッコイイと思った。
自分の田舎もハエとか普通に居ますし触れます。
今回がどんなか想像はできないですが、
自分の兄弟がもし似たような状況だったら、
汚いって思わないかも。
最愛の奥さんや子供、恋人が腐乱してたら。
僕なら抱きかかえる事はできる様な気はしますけど...
他人には死体でも、家族にとっては遺体だから汚くない・・・なんて、そんなキレイな話でもないですね。
牛の穴に手をつっこんだりする方達にとっては腐敗臭はそれほど怖く無いのですかね
すいません
生物(人間含)の死や腐や臭に耐性があるんやろうね
今回も特別な事でもなく自然の摂理やからそりゃ死んだら腐るし臭うしウジも湧くよって感じなんやろうか
耐性の無い大家さんからしたらたまったもんじゃないやろうけどね
悪意はないでしょ~(笑)
ですが、ド田舎住民さんの意見に同意。
私の亡くなった祖母が農家をしていたのですが、農家では匂いのきつい飼料や肥料が普通に土間に置いてありました。
匂いへの耐性は一般の方よりもあるかもしれません。
トイレも汲み取りで、汲み取りから・・・それ以上はきつくて言えませんが(笑)
蛆や蝿、匂いにはへっちゃらなのかもしれませんねぇ。
clean110さんに
脱帽!
有機農法や酪農の現場を見ると「エッ」と驚くような方法がとられていることがあります。
田や畑、または牛舎や放牧場に虫や生き物が多いのは、体に安全な環境という証だそうで。
伝統的な方法で農業や酪農を行っていると、匂いや虫に耐性がつくとか…?
このご遺族は、農業や酪農をなさっている方なのかもしれませんね。
管理人様が脱帽するなんて…本当に驚きです。
そう思うのも、後にも先にもこの遺族の方々だけではないでしょうか?
確かに実際やりたくは無いと思うが、孤独な状態で死を迎えさせてしまっているというのは、残された者達にも責任があるのではないかと。
本来人間は誰かに見取られて死を迎えるものではないかと感じさせられますね。