特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

きのこ狩り(前編)

2024-11-06 05:00:58 | 特殊清掃
秋がやってきた。
食欲の秋、行楽の秋、勉強の秋、人によって色んな秋があるだろう。
私にとっては、やっぱ「食欲の秋」かな。
・・・食欲については一年中だが。
意地汚い私は、年柄年中、食い物のことばかり考えている。

若い頃はいくら飲み食いしても体重に響かなかったのに、歳を重ねると少しの飲み食いでも体重が増える。
身体の基礎代謝が落ちているからしい。
んー、悩ましい。
でも、食欲と食物があることだけでも感謝した方がよさそうだな。

老朽アパートの特掃依頼が入った。
木造1R、かなり古いアパートだった。
長い間、掃除や片付けをしていなかったらしく、中はゴミだらけ。
そして、この部屋の主は病院で亡くなって間もなかった。

玄関から中に入り、目に飛び込んできた部屋の光景に溜息がでた。
例によって、「こりゃヒドイなぁ」

暗~い部屋には家財道具・生活用品、そして大量のゴミがあった。
「この部屋で死んでいた」と言われてもおかしくないくらいの汚れ具合いで、私は、「病院で亡くなった」という依頼者(遺族)の説明を疑った。
私は、警戒しながら部屋に踏み入った。
そして、注意深く部屋を観察した。

カビ臭いような異臭(ゴミの臭い)はあるものの、例の腐敗臭はなく、「とりあえずは遺族の説明を信じるしかなかないな」と思った。
それでも、慎重派の私は、「腐敗痕がゴミに隠れている可能性はあるな」という疑いを捨てることはできなかった。

依頼内容は、「中にある家財道具・生活用品・ゴミの撤去だけで、ハウスクリーニング・内装工事は不要」とのこと。
このアパートは、近々取り壊される予定らしかった。

作業の日、念のため私は腐乱汚物が出たとき用の装備も整えて行った。
依頼者は、都合が悪くて現場には来なかった。

まずは、ゴミを袋に詰めたり、梱包したりしながら大型の家財を搬出。
ゴミを動かすごとに種類の違う悪臭が漂った。
「そのうち腐乱臭がでてくるかも」と、私は気を緩めなかった。

ゴミをだいぶ撤去したところで、床の方に布団らしきものが見えてきた。
だんだんと全体が見えてくる布団にイヤな汚れを発見。

「ん!?これは汚腐団か?」
心臓がちょっとドキドキしてきた。
そのうち、布団は全体像を現した。
黒く腐ったそれは、完全に汚腐団だった。
しかし、腐乱臭がしない。居るはずのウジもハエもいない。

「!?おかしいなぁ」
見た目には腐乱死体が寝ていただろう汚腐団にソックリなのに、実際は、長い間ゴミに埋もれて腐った、ただのゴミ布団だった。
かなりの長い間、ここがゴミ屋敷だったことが想像された。

別に、腐乱死体痕を期待していた訳ではないが(職業病?)、拍子抜けした私はさっさとその布団を丸めて袋に入れた。
それから、布団の下の畳を見て少し驚いた。
布団だけじゃなく、畳まで黒茶色に腐ってフニャフニャになっていたのだ。

「これじゃ、床板も相当イッちゃってるな」
「でも、どうせ取り壊されるアパートだから関係ないか」

幸い、畳は撤収する契約ではなかったので、そのままにしておくことができた。
普通は、汚染された畳をそのまま残していくことは滅多にないのだが、近々に取り壊されるこの現場ではそれが許された。

とりあえず、依頼通りに作業は完了。
ゴミだらけの部屋だったのに、いざトラックに積んでみると大した量ではなかった。
「余裕で終わった」
「楽勝だったな」

依頼者に、作業が無事に終了したことを電話。
そして、都合のいい時に現場を確認をしてもらうよう頼んだ。

「腐乱痕があるかも」と警戒していた私だったが、結局ただのゴミ処分で済んだ現場だった。

気分も軽快にトラックを走らせた。

その時は、この後に起こるトラブルを、知る由もない私だった。


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2006-09-17 18:09:19
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