もうじきクリスマス。
師走の街中は、どこを向いても、クリスマスムード一色。
眺めているだけでも、楽しい気分になる。
お歳暮・クリスマスプレゼントetc、12月は、贈り物が行き交う季節でもある。
クリスマスプレゼントはないにしても、お歳暮は、私も仕事上で贈ったり贈られたりする。
それにしても、人に贈る品物を選ぶのは難しい。
少しでも高品質の品物がいいのはもちろんだけど、そうは言っても、そうそう費用はかけられない。
ただ、見るからに安物とわかるものでは気持ちは伝わりにくい。
また、自分の顔も立たない。
結局のところ、“安いけど高そうに見えるもの”を探して右往左往してしまう。
無難なのは、やはり口に入るものだろうか。
お菓子・各種飲料・酒類etc・・・
私も、季節の贈答品には、ほとんどそれらを使う。
もらって嬉しいのは、やはり酒類か。
自分の酒代が浮くし、いくらあっても飽きることはないから。
一年半くらい前になるだろうか、御中元とか御歳暮ではなかったけど、比較的高級と言われるウイスキーをもらったことがあった。
ただ、元来、私はウイスキーが苦手。
これまで生きてきて、ずっとマズイ水割りしかのんだことがなく、そのマズさにはとっくに愛想を尽かしていた。
そんな訳で、私は、そのウイスキーをいつか人手に渡すつもりで、棚に置きっぱなしにしていた。
ところが、今秋のある晩のこと。
いつも通り、缶ビールと缶チューハイで晩酌していたのだが、それだけでは物足りなく思えた日があった。
「濃い酒が飲みたいなぁ・・・」
しかし、家の在庫は缶ビールと缶チューハイくらい。
訳あって(たいした訳じゃないけど・・・)、好物のにごり酒は断っているので、それもなし。
あるのは、ブランデー・各種焼酎(全て頂き物)と前記のウイスキーくらいだった。
「ちょっと飲んでみるか・・・酔ってしまえば、マズさも気にならなくなるだろ」
珍しく、ウイスキーに気を引かれた私は、口に合わないのは覚悟の上で、それを開栓。
注ぎ口に鼻を近づけて、香りを嗅いでみた。
「んー・・・匂いはいいな・・・」
ボトルからは甘い香り。
普段、例の悪臭ばかり嗅いでいるせいか、もしくは消毒用アルコールの刺激臭しか嗅いでないせいか、それがとてもいい匂いに感じられた。
「さてと、飲んでみるか」
琥珀色の液体を注ぐと、ザラザラしていた氷の表面は瞬時に滑らかに。
私は、氷からでる蜃気楼がグラスをひと回りするまで待ち、それから、ウイスキーを小さく口にふくんだ。
「何これ?美味いじゃん!」
私の舌は、ピリッとしたアルコールの辛味の奥にある重厚な甘味を感知。
そして、思わず、グラスを掲げて目を見張った。
それは、私が知っていたウイスキーとは異なり、極めて美味なものだった。
「やっぱ、ウイスキーもピンキリなんだなぁ・・・ということは、もっと上のものは、もっと美味いのか?・・・そういうの、飲んでみたいなぁ・・・」
想像するだけで、ヨダレがでそう・・・
ケチで欲深な私は、自分では手が出せない代物を、再び誰かが贈ってくれることを期待しているのである。
ある年の師走、ひと包みの宅配便が、会社に届いた。宛名は私。
何かを贈られる覚えがなかった私は、怪訝に思いながら伝票に目をやった。
すると、発送者欄には女性の名。
その名前を見た私は、すぐにその人物を思い出した。
そして、その贈物が、差出人の女性が少しは元気を取り戻したことの印のように思えて、ホッとした。
その差出人は、その年の夏、私が特掃を請け負った時の依頼者だった・・・
中年の女性から、特掃を依頼する電話が入った。
一報を受けて話をしたのは私ではなかったが、たまたま現場にもっとも早く到着できる場所にいたのが私だったため、とりあえず、私がその現場に向かうことに。
現場住所とそこで人が亡くなっていたこと以外の情報をほとんど持たないまま、私は現場に向かって車を走らせた。
到着した現場は、都心の小さなアパート。
依頼者の女性は、建物前に車をとめ、その中で私の到着を待っていた。
そして、私の姿を見ると、すぐに何者かがわかったらしく、私が車を降りるよりも先に女性の方から近寄ってきた。
その表情は何かに怯えているようで、私は、そこから事態の深刻さを読み取り、この現場に臨む上での自分のスタンスを定めた。
「お待たせしました」
「いえいえ、先程お電話した○○(女性の名前)です」
「どうも・・・」
「ちょっと、臭ってまして・・・」
「何か言われてます?」
「えぇ・・・不動産屋さんからもご近所の方からも・・・」
「そうですか・・・」
「とりあえず、ニオイだけでも何とかしていただきたいんですけど・・・」
「わかりました・・・早速、部屋を見せていただけますか?」
女性は、近所から“臭いから、早く何とかしろ!”と責められているよう。
また、不動産会社も大家も女性側には立ってくれず、女性に早急な原状回復を要求するばかり。
女性は、一人で事の収拾に奔走しているようだった。
「失礼しま~す」
玄関を開けると、濃い腐乱臭。
いきなり入ってきた私を警戒(威嚇?)してか、ハエはブンブンと飛び交い始めた。
「あの人(女性)が、片付けたのかな・・・」
部屋は、一般的な1DK。
家具・家電以外、ほとんどのものはダンボール箱とゴミ袋に梱包され、壁際に積まれていた。
「ここか・・・」
本来、毛布は床に敷くものではない。
しかし、それがクローゼットの前に床に敷かれていた。
「なるほどね・・・」
手袋を着けた指で端をつまみ上げると、下からはワインレッドに液化した血肉と琥珀色に光る脂が漏洩。
そこを泳ぐように、無数のウジが徘徊していた。
「はぁ・・・」
クローゼットの扉は、不自然に傾いて破損。
それが物語っていることに、私は深い溜息をついた。
亡くなったのは、30代の男性。
クローゼットの扉を使ってのエキ死だった。
故人は、亡くなるまでの数年間、仕事もせずアパートに引きこもり。
自分の方から母親(女性)に連絡してくることもなく、沈黙の生活を送っていた。
女性は、故人の母親。
以前に故人の父親と離婚し、女手一つで故人の生活を支えていた。
ただ、何年経っても回復の兆しさえみせない息子の病状に、自分までノイローゼ気味に。
それでも、女性は、息子の回復を信じて耐え続けた。
女性は、ウジが這い・ハエが飛び交い・悪臭が充満する中、女性は、自らの手で、部屋の家財生活用品を分別梱包したよう。
女性をそう突き動かしたものは何であるかは計りかねたが、女性にとって、それが辛苦を極めた作業であったことは容易に察することができた。
しかし、そんな女性でも、腐敗液の処理とニオイの始末はできず。
困り果てて、うちに相談してきたのだった。
「“絶対、よくなる”って信じていたのに・・・」
「どうして、助けてやることができなかったんでしょう・・・」
「母親として、間違ったことをしてきたんでしょうか・・・」
「何が足りなかったんでしょうか・・・」
女性は、堰を切ったように、抱える思いを吐き出した。
そして、両手で顔を覆ってその場にうずくまった。
子の死・・・自死を受け入れる苦痛は、産みの苦しみとは比較にならないだろう。
しかし、女性に、それを受け入れる他に道はなく・・・
震え泣く背中に掛ける言葉はなく、傍らに立つ私は、ただ時が過ぎるのを待つしかなかった。
女性は、故人(息子)に対して、大きな愛情を注いでいたはず。
そして、女性にとって、故人の存在は大きかったはず。
息子(故人)の存在を通してでしか得られない幸せがあっただろう。
苦しんでいても、病んでいても、社会に適応できなくても、とにかく生きていてほしかっただろう。
そう・・・自分の存在が、虚しくつまらないことのようにしか思えなくても、人が人に対して存在するということは、決して小さいことではない。
そして、どんなに弱くても・どんなに愚かでも、その存在から人が幸せを受け取っていることってあると思う。
私も、貴方も、誰も彼も、存在する意味と存在しなければならない理由があるから存在しているのである。
そして、今、“現実”という名の“夢幻”の中に自分が存在していること・生きていることそのものが誰かへの贈り物となり、それを受け取っている誰かがいるのだと思う。
過去にも・現在にも・未来にも・・・ただ、自分が、気づいていないだけで。
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師走の街中は、どこを向いても、クリスマスムード一色。
眺めているだけでも、楽しい気分になる。
お歳暮・クリスマスプレゼントetc、12月は、贈り物が行き交う季節でもある。
クリスマスプレゼントはないにしても、お歳暮は、私も仕事上で贈ったり贈られたりする。
それにしても、人に贈る品物を選ぶのは難しい。
少しでも高品質の品物がいいのはもちろんだけど、そうは言っても、そうそう費用はかけられない。
ただ、見るからに安物とわかるものでは気持ちは伝わりにくい。
また、自分の顔も立たない。
結局のところ、“安いけど高そうに見えるもの”を探して右往左往してしまう。
無難なのは、やはり口に入るものだろうか。
お菓子・各種飲料・酒類etc・・・
私も、季節の贈答品には、ほとんどそれらを使う。
もらって嬉しいのは、やはり酒類か。
自分の酒代が浮くし、いくらあっても飽きることはないから。
一年半くらい前になるだろうか、御中元とか御歳暮ではなかったけど、比較的高級と言われるウイスキーをもらったことがあった。
ただ、元来、私はウイスキーが苦手。
これまで生きてきて、ずっとマズイ水割りしかのんだことがなく、そのマズさにはとっくに愛想を尽かしていた。
そんな訳で、私は、そのウイスキーをいつか人手に渡すつもりで、棚に置きっぱなしにしていた。
ところが、今秋のある晩のこと。
いつも通り、缶ビールと缶チューハイで晩酌していたのだが、それだけでは物足りなく思えた日があった。
「濃い酒が飲みたいなぁ・・・」
しかし、家の在庫は缶ビールと缶チューハイくらい。
訳あって(たいした訳じゃないけど・・・)、好物のにごり酒は断っているので、それもなし。
あるのは、ブランデー・各種焼酎(全て頂き物)と前記のウイスキーくらいだった。
「ちょっと飲んでみるか・・・酔ってしまえば、マズさも気にならなくなるだろ」
珍しく、ウイスキーに気を引かれた私は、口に合わないのは覚悟の上で、それを開栓。
注ぎ口に鼻を近づけて、香りを嗅いでみた。
「んー・・・匂いはいいな・・・」
ボトルからは甘い香り。
普段、例の悪臭ばかり嗅いでいるせいか、もしくは消毒用アルコールの刺激臭しか嗅いでないせいか、それがとてもいい匂いに感じられた。
「さてと、飲んでみるか」
琥珀色の液体を注ぐと、ザラザラしていた氷の表面は瞬時に滑らかに。
私は、氷からでる蜃気楼がグラスをひと回りするまで待ち、それから、ウイスキーを小さく口にふくんだ。
「何これ?美味いじゃん!」
私の舌は、ピリッとしたアルコールの辛味の奥にある重厚な甘味を感知。
そして、思わず、グラスを掲げて目を見張った。
それは、私が知っていたウイスキーとは異なり、極めて美味なものだった。
「やっぱ、ウイスキーもピンキリなんだなぁ・・・ということは、もっと上のものは、もっと美味いのか?・・・そういうの、飲んでみたいなぁ・・・」
想像するだけで、ヨダレがでそう・・・
ケチで欲深な私は、自分では手が出せない代物を、再び誰かが贈ってくれることを期待しているのである。
ある年の師走、ひと包みの宅配便が、会社に届いた。宛名は私。
何かを贈られる覚えがなかった私は、怪訝に思いながら伝票に目をやった。
すると、発送者欄には女性の名。
その名前を見た私は、すぐにその人物を思い出した。
そして、その贈物が、差出人の女性が少しは元気を取り戻したことの印のように思えて、ホッとした。
その差出人は、その年の夏、私が特掃を請け負った時の依頼者だった・・・
中年の女性から、特掃を依頼する電話が入った。
一報を受けて話をしたのは私ではなかったが、たまたま現場にもっとも早く到着できる場所にいたのが私だったため、とりあえず、私がその現場に向かうことに。
現場住所とそこで人が亡くなっていたこと以外の情報をほとんど持たないまま、私は現場に向かって車を走らせた。
到着した現場は、都心の小さなアパート。
依頼者の女性は、建物前に車をとめ、その中で私の到着を待っていた。
そして、私の姿を見ると、すぐに何者かがわかったらしく、私が車を降りるよりも先に女性の方から近寄ってきた。
その表情は何かに怯えているようで、私は、そこから事態の深刻さを読み取り、この現場に臨む上での自分のスタンスを定めた。
「お待たせしました」
「いえいえ、先程お電話した○○(女性の名前)です」
「どうも・・・」
「ちょっと、臭ってまして・・・」
「何か言われてます?」
「えぇ・・・不動産屋さんからもご近所の方からも・・・」
「そうですか・・・」
「とりあえず、ニオイだけでも何とかしていただきたいんですけど・・・」
「わかりました・・・早速、部屋を見せていただけますか?」
女性は、近所から“臭いから、早く何とかしろ!”と責められているよう。
また、不動産会社も大家も女性側には立ってくれず、女性に早急な原状回復を要求するばかり。
女性は、一人で事の収拾に奔走しているようだった。
「失礼しま~す」
玄関を開けると、濃い腐乱臭。
いきなり入ってきた私を警戒(威嚇?)してか、ハエはブンブンと飛び交い始めた。
「あの人(女性)が、片付けたのかな・・・」
部屋は、一般的な1DK。
家具・家電以外、ほとんどのものはダンボール箱とゴミ袋に梱包され、壁際に積まれていた。
「ここか・・・」
本来、毛布は床に敷くものではない。
しかし、それがクローゼットの前に床に敷かれていた。
「なるほどね・・・」
手袋を着けた指で端をつまみ上げると、下からはワインレッドに液化した血肉と琥珀色に光る脂が漏洩。
そこを泳ぐように、無数のウジが徘徊していた。
「はぁ・・・」
クローゼットの扉は、不自然に傾いて破損。
それが物語っていることに、私は深い溜息をついた。
亡くなったのは、30代の男性。
クローゼットの扉を使ってのエキ死だった。
故人は、亡くなるまでの数年間、仕事もせずアパートに引きこもり。
自分の方から母親(女性)に連絡してくることもなく、沈黙の生活を送っていた。
女性は、故人の母親。
以前に故人の父親と離婚し、女手一つで故人の生活を支えていた。
ただ、何年経っても回復の兆しさえみせない息子の病状に、自分までノイローゼ気味に。
それでも、女性は、息子の回復を信じて耐え続けた。
女性は、ウジが這い・ハエが飛び交い・悪臭が充満する中、女性は、自らの手で、部屋の家財生活用品を分別梱包したよう。
女性をそう突き動かしたものは何であるかは計りかねたが、女性にとって、それが辛苦を極めた作業であったことは容易に察することができた。
しかし、そんな女性でも、腐敗液の処理とニオイの始末はできず。
困り果てて、うちに相談してきたのだった。
「“絶対、よくなる”って信じていたのに・・・」
「どうして、助けてやることができなかったんでしょう・・・」
「母親として、間違ったことをしてきたんでしょうか・・・」
「何が足りなかったんでしょうか・・・」
女性は、堰を切ったように、抱える思いを吐き出した。
そして、両手で顔を覆ってその場にうずくまった。
子の死・・・自死を受け入れる苦痛は、産みの苦しみとは比較にならないだろう。
しかし、女性に、それを受け入れる他に道はなく・・・
震え泣く背中に掛ける言葉はなく、傍らに立つ私は、ただ時が過ぎるのを待つしかなかった。
女性は、故人(息子)に対して、大きな愛情を注いでいたはず。
そして、女性にとって、故人の存在は大きかったはず。
息子(故人)の存在を通してでしか得られない幸せがあっただろう。
苦しんでいても、病んでいても、社会に適応できなくても、とにかく生きていてほしかっただろう。
そう・・・自分の存在が、虚しくつまらないことのようにしか思えなくても、人が人に対して存在するということは、決して小さいことではない。
そして、どんなに弱くても・どんなに愚かでも、その存在から人が幸せを受け取っていることってあると思う。
私も、貴方も、誰も彼も、存在する意味と存在しなければならない理由があるから存在しているのである。
そして、今、“現実”という名の“夢幻”の中に自分が存在していること・生きていることそのものが誰かへの贈り物となり、それを受け取っている誰かがいるのだと思う。
過去にも・現在にも・未来にも・・・ただ、自分が、気づいていないだけで。
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