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なおしのお薦め本(41)『わたしの台所手帖 119のメモ』

  クリエイト速読スクール文演第1期生の小川なおしさんから、お薦め本が届いています。

 わたしの台所手帖 119のメモ

             平松 洋子

 料理の仕方やら、うつわの使い方やら、お気に入りの調味料やら。旅や生活で得た、食に関するチエが紹介されています。まずは「叩く」と題された文章をお読みください。

   「力強く叩くわけです、かたちが崩れることなど意に介さず遠慮なくトントン、コツコツ元気よく。

  叩いてどうするの? それはね、叩くことで香りが鮮烈になる。繊維がほどよく壊れて味がしみこみやすくなる。てんでばらばらになったぶん、ほかの素材としっくり馴じみ合う。たとえばそんな効果がついてくる。

  石うすで叩くおいしさを、わたしはタイで知った……などと冷静に構えている場合じゃない。タイ料理の味はうすを使わなければつくることができないのだった。にんにく、小さな玉ねぎ、唐辛子やスパイス、ハーブ……まずは石うすに入れ、石棒でコツコツ軽やかな音をさせながら叩く。または、さらに野菜をそこに加えて、いっしょに軽く叩く。すると、お互いの繊維のなかへそれぞれの味がぐぐっと奥深く入りこみ、味は複雑に絡み合いながらひとつのまとまりをみせる。『壊しながら、新たなおいしさを引き出して全体をまとめ上げる』。ひとことで言うなら、これが石うすが果たす類いまれなデカい仕事である」

  叩いて料理をする経験がない私は、これを読んで、今まで大事なことをし忘れていたという気分になりました。こういうことをすることが豊かな生き方なのではないか、とも。まあ、そう思わせるほどの迫力ある文章です。メモなんて、そんな軽いものじゃありません。

  もうひとつ、「うつわと料理。おなじ愛情を注ぎたい」と題された文章から、引用します。

   『うつわ』という言葉は、『空』や『虚』につながっている。なにもない、からっぽ。しかし、そこをたっぷりと満たすのは、手間ひまなんかいらない、ただこころをかけた料理である。そう考えれば、今さらながらに胸を突かれる。わずか1分、ちゃっちゃっと鍋を振っただけのもやし炒めでも、そのしゃきしゃきの歯ごたえに気持ちがかけられてさえいれば、さっきまでからっぽだったうつわには確かな気持ちの往来が生まれており、じつはそれをこそわたしたちは味わっているのかもしれない

  なんだか背スジが伸びる思いがしますが、いかがでしょう。

 あとがきで著者は「119のなかから使えそうなものを自在に、または台所仕事の手掛かりに、自分のやりかたにぐいと引き寄せて役立てていただけたら、とてもうれしい」と締め括っています。著者は本当に心からそう思っているのだろうと思われる、そんな出来ばえの本です。    なおし


 

         ※クリエイト速読スクールHP


  ■小川なおしさん参考記事

  ※もりぞう爺さんの話(上)

  ※なおしのショートショート「鼓動」

    ※なおしのお薦め本(11)池上彰の情報力

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