僕がここで問題にしようとする恋愛とは、どのような既成の状況をも視野に入れない恋愛のことである。たとえば、恋愛の対象が結婚しているとか、恋人がいるとかいった理由で、恋愛できないとか、歳が離れ過ぎているから、恋愛できないとか、といった、普通に僕たちの前に立ちふさがる障害を全部取り払っても、恋愛という行為は可能なのだろうか? という問題である。あり得る、とおっしゃる方は多いだろう。だって、現実に、不倫は横行しているし、お金が介在しているのかどうかはわからないが、歳のかなり離れた恋愛もあるし、妄想の世界であっても、出会い系サイトというお金の絡んだバーチャルな世界から生まれる恋愛だってある。だから、可能だ、と言う人たちは意外に多いと思うのである。そうそう、ここではっきりしておかなければならないことがある。以前僕はこのブログに出会い系サイトは妄想の世界であると書いたことがある。何故僕が3万円もの元手を手にしてサイトに登録したのかと言えば、クライアントの中に出会い系サイトにはまっていて、実際にそこでの付き合いが続いている人がいたからなのである。僕はプラグマティストであるから、そんな出会いがある世界は一体どのような形で出会うものかということを確かめるために、家内の承諾を得て3万円という元手を頂いて、サイトに登録したのであった。実際には出会わないという条件で。いくつかの悪徳サイトに出会った。不正請求もあるし、架空請求もある。あんまりひどいから、ブログに悪徳のサイトの名前を出して、もし、サイトに入る方がいらっしゃるなら、少なくともここだけは危ないですよ、と書いた。すると、サイトに僕が入るきっかけになった、当の本人がブログを読んでくださっていて、先生、あんなサイトはダメですよ。あんなところに引っかかるなんて、先生はドジですよねえ、いう批判をいただいた。何だか僕の人生は無駄な努力をすることが多いような気がして、唖然とした気分になったのを覚えている。話をもとにもどそう。僕の言うのは、スタンダールの書いた「恋愛論」であるとか、「赤と黒」のジュリアン・ソレルのような、野心があってもその底には光り輝くような純粋な愛の存在がこの現代に存在するのか、という問いかけなのである。不倫というのは初めに夫なり妻に対する裏切りあり、という事実の上に、成り立っている。要は騙し合いの世界である。初めに裏切りあり、の男女のセクシャルな物語である。歳が明らかに大きく異なる恋愛当事者たちの間にたとえば女性の金銭、これは男性側からでもあり得るが、そういう金銭が絡んでいるとか、また女性にファーザーコンプレックスという一種の精神の病があって成立しているような物語を指すのでもない。僕がいう現代における恋愛が成立するかどうか、という問題は、男女が出遇った、その瞬時になんらの計算もなく、条件が整っているかどうかでもなく、この人でなければならない、という決断を持てるような恋愛感が存在し得るのか、という問題なのである。これは若さがあれば出来るのか、というとそんなことはない。若者どうしは、年齢的に結婚という課題を抱えているから、特に女性の場合は結婚適齢期(最近はかなり高齢になってきたようだが)になると、僕が指摘したようなことがすっぽぬけても、適齢期に出会った人とあっさりと結婚してしまう人たちが意外に多いのである。これは僕が教師をしていた頃の経験からも分かる。でもそうした男女は数年経つともう離婚騒ぎになる。実際に僕が学校に勤めている間に、結婚式に出て、そのカップルが何組も離婚している。これは計算が働いているからである。計算づくの結婚なんて、いろいろな予期せぬことが起こるから、実際には非常に脆いのである。何だかとても淋しい気がする昨今なのである。もっと情熱的に、もっと何のためらいもなく、もっと無垢に、恋愛が出来ないものか? その結果は不倫とか裏切りとは言わないのではないか。そんな卑しい言葉はもはや通用しないのではないか。スタンダールの恋愛論は現代にも通用してしかるべきではないのか? 僕と妻は15歳離れているから、僕が先に死ぬのがあたりまえである。そうであれば、僕は妻に、心がとろけるような恋愛をもう一度してから死になさい、とそう言いたいのである。勿論逆も真なりであるが。ああ、恋愛、それは空虚な夢物語なのか?
〇「推薦図書」「恋は底力」中島らも著。集英社文庫。軽いようでいて、実は深い人間存在を描いている中島らもが逝ったのは最近のことだ。酒を飲み過ぎて階段を踏み外して脳挫傷で逝った。彼らしい死に方と言えば言えなくはないが、50歳でいなくなってほしくなかった。灘中出身であるから頭の出来は並ではない。高校になって、ドラックと酒に溺れて東大一直線とは行かなかったが。
〇「推薦図書」「恋は底力」中島らも著。集英社文庫。軽いようでいて、実は深い人間存在を描いている中島らもが逝ったのは最近のことだ。酒を飲み過ぎて階段を踏み外して脳挫傷で逝った。彼らしい死に方と言えば言えなくはないが、50歳でいなくなってほしくなかった。灘中出身であるから頭の出来は並ではない。高校になって、ドラックと酒に溺れて東大一直線とは行かなかったが。