【霊告月記】第三十二回 演劇『薄明の彼方へ』感想
ユニットX日和(えっくすでーびより、と読む)の『薄明の彼方へ』を観劇しました。語呂あわせになりますが感激の舞台でした。
まずユニット名の「X日和」。この命名からしてユニークです。言葉の選択にセンスのよさを感じます。オリジナリティがある。そして主宰者谷口由佳さんの公演の謳い文句もふるっています。
<明治維新150周年の2018年、5月。【平成】最後の1年が始まる。「新しい時代」へ目が向けられる一方、今まであったことを見返してみる昨今。時代が変わっても、きっと忘れちゃいけないことがある>
ユニット名「X日和」のコンセプトにふさわしく、幕末のXday=新天皇即位の一瞬に、新旧時代の転換の様相を写し取ろうというアイデアから出発した劇です。
まず、戯曲が素晴らしい。それにユニットの相方である宮坂有貴さんの才能が加わって、この劇のパワーが倍増されているなと直観しました。宮坂さんは「演出補佐」をされていると同時に、この劇では「維新」役で存在感を示しています。
宮坂さんが演じた「維新」という役はいかなるものか? まず、「維新」とは時代の転換を象徴する言葉です。この劇の中の「維新」の役割は、シェイクスピアの「マクベス」の中の三人の魔女に匹敵する重要なキャラクターです。
マクベスの「魔女」は三人で一つの役割を果たすのですが、「維新」は一人でマクベスの「魔女」三人分の働きをこなします。この難しい役どころを宮坂さんはその華麗な演技力でカバーし存在感を示しています。
宮坂有貴さん(左) 作・演出の谷口由佳さん(右)
舞台は、Xday前夜の江戸の裏長屋に西から武家の娘・一如(いちにょ)がやってくるところから始まります。再び主宰者の紹介文を引用すれば、劇の設定はかくのごとし。
<【あらすじ】 江戸の片隅にたたずむ、とある貧乏長屋。そこで気ままに暮らす人々の元に、やってきた新参者。それは、武家の娘・一如だった。
「貴殿らに、私の兄の、仇討ちを手伝ってもらいたい。」
苦しみも、弱さも、抱えたまんま、時代が変わる。
烏合の舟(しゅう)、薄明の彼方へーー。> (公演チラシより)
仇討ちというのは、江戸時代の価値観であって、明治時代には時代遅れの考えです。「ええじぇないか」の踊りが乱舞する転換期の世相の中においては、仇討ちなど時代遅れの行為であることを一如は充分に意識しつつも、あえて自らの決断としてこの旧時代の価値観を選択したのです。この決断を見守るのが裏長屋に住む多彩なキャラクターたちというわけです。
この裏長屋に住むキャラクターの中で、特に重要な役が盲目の噺家「風来(ふうらい)」です。そしてこの風来にとりついた妖精というか、守護霊というか、他界の生き物が、「維新」です。維新は、奇妙に華やかな衣装をまとい、風来と意味深な対話を交わします。
この対話の部分は思想的にも深く、台本の密度を宮坂さんは立派にこなしていらっしゃいます。風来役の役者もその役どころを存分に演じきって、この劇の孕む思想的濃度を増すことに貢献しています。この二人の掛け合いと存在感が、戯曲の孕む世界観の奥行きを鮮やかに可視化し作品の完成度を高めていました。
登場人物の衣装は斬新であり、役者たちの熱演に心うたれました。黒子が回り舞台を廻す仕掛けや花道まで作られており、照明や美術等も立派な出来です。明治大学演劇学科の知識・経験を総動員させた感があって、立派にプロの舞台として通用するレベルでした。
この劇は、幕末のXdayに照準を合わせ、善と悪が反転し、美と醜が交代し、真と偽がまじりあう時代の転換の様相をみごとに写し取った総合芸術であり、傑作時代劇です。マクベスの魔女は、「きれいはきたない、きたないはきれい」とまじないを唱え、「さあ、霧の中を飛んで行こう」と叫んで、「マクベス」という劇は始まっています。 霧の中を飛ぶという経験。時代が転換するとはそのような経験を指すのでしょう。
ユニットX日和の第2回公演『薄明の彼方へ』は、演劇でしか味わえないこの「霧の中を飛ぶ」という経験を存分に味あわせてくれた。ユニットX日和は多彩な劇的術策を施して、平成のとある劇場に新たなXdayをまざまざと現出させることに成功したのです。
詩的言語の特徴はその多義性にあると思います。ここで述べたのは私なりの一解釈に過ぎません。おそらくもっと違う色々な解釈をこのユニットの当事者達は考えだし編み出して、今後それを新たな演劇行為として実践し、われわれを啓発してくれることでしょう。
演劇ファンの皆さん、ユニットX日和の今後に期待することと致しませう。
そして愛する母校の後輩であるユニットX日和にはこのエールを贈ります。
⇒ ユニットX日和は、日本の新しい紫式部をめざせ!
※ユニットX日和【Twitter】→ http://twitter.com/yu2tXm
】 霊告【 孫子の兵法が完成するのは人類が戦争を廃棄した日である。その日こそ孫氏のXdayなのだ。諸国民よ、孫氏に学べ。そして孫氏の兵法を完成させよ。
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