馬場あき子の外国詠51(2012年4月実施)
【中欧を行く ドナウ川のほとり】『世紀』(2001年刊)P96~
参加者:N・K、崎尾廣子、鈴木良明、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:渡部 慧子 司会と記録:鹿取 未放
365 旅人は何を見るべきただ静かなハンガリーの秋を漁夫の砦に
(レポート)
ハンガリーには来たけれど、名高い漁夫の砦には来たけれど……こんな気分が初句、2句、結句から伺える。あらかじめ得ていた知識が役に立たないほど重厚で悠然たる景観に圧倒されたのか。作者の立つ「漁夫の砦」は王宮の丘と呼ばれる地にあって、ビューポイントとして最適らしい。そういう地は街音が届きにくいのであろう。他の季節ならばまた違った趣であろうを「ただ静かなハンガリーの秋」との3句、4句をうなずける気がする。ユーモラスな「漁夫の砦」への興味がそそられる一首。(慧子)
漁夫の砦:ドナウ川に沿ってネオロマネスク様式で建立された、数個の尖塔と廻廊。砦といっ
ても闘いに使われたものではなく、マーチャーシュ教会を改修した建築家シュレッ
クが街の美化計画の一環として建造した。この名はかつてここに魚の市がたってい
たことや、城塞のこのあたりはドナウの漁師組合が守っていたいたことなどから付
けられた。白い石灰石でできた建物自体も幻想的で美しいが、ここはドナウ川と対
岸に広がるペスト地区を一望できる絶好のビューポイント。(「地球の歩き方」)
(当日発言)
★1、2句が眼目。最初から風景に入っていくのが普通の歌い方だが、ここで気分をしらしめてい
る。一呼吸おいてから焦点を絞っていく見せ方。(鈴木)
★「ハンガリー」と大きく出ているところがおもしろい。「漁夫の砦」は、レポーターがいうよう
なユーモラスなネーミングとは思えない。(鹿取)
(後日意見)(2013年10月)
レポーターは1、2句にとまどわれたようだが、鈴木さんの発言にあるようにここがこの歌の眼目。例えば「ケンピンスキーホテルの一夜リスト流れ老女知るハンガリー動乱も夢」など一連の終わりの方の歌を読むと、365番歌の初句と2句がそれらの終わりの方の歌の伏線になっているのが分かる。つまり漁夫の砦からはドナウ川に沿って美しい町並みが広がっている。静かな秋の景観に旅人である〈われ〉はうっとりしてしまう。しかし美しい景観の背後にはハンガリー動乱はじめ歴史上の戦いの傷が隠されているのだ。〈われ〉はそれを見なければならないし、見ようと思う。それら戦いの記憶に、(たとえ戦さに使われたものでなかったとしても)「漁夫の砦」という名称の選びは意識の中で繋がっているのだろう。(鹿取)
【中欧を行く ドナウ川のほとり】『世紀』(2001年刊)P96~
参加者:N・K、崎尾廣子、鈴木良明、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:渡部 慧子 司会と記録:鹿取 未放
365 旅人は何を見るべきただ静かなハンガリーの秋を漁夫の砦に
(レポート)
ハンガリーには来たけれど、名高い漁夫の砦には来たけれど……こんな気分が初句、2句、結句から伺える。あらかじめ得ていた知識が役に立たないほど重厚で悠然たる景観に圧倒されたのか。作者の立つ「漁夫の砦」は王宮の丘と呼ばれる地にあって、ビューポイントとして最適らしい。そういう地は街音が届きにくいのであろう。他の季節ならばまた違った趣であろうを「ただ静かなハンガリーの秋」との3句、4句をうなずける気がする。ユーモラスな「漁夫の砦」への興味がそそられる一首。(慧子)
漁夫の砦:ドナウ川に沿ってネオロマネスク様式で建立された、数個の尖塔と廻廊。砦といっ
ても闘いに使われたものではなく、マーチャーシュ教会を改修した建築家シュレッ
クが街の美化計画の一環として建造した。この名はかつてここに魚の市がたってい
たことや、城塞のこのあたりはドナウの漁師組合が守っていたいたことなどから付
けられた。白い石灰石でできた建物自体も幻想的で美しいが、ここはドナウ川と対
岸に広がるペスト地区を一望できる絶好のビューポイント。(「地球の歩き方」)
(当日発言)
★1、2句が眼目。最初から風景に入っていくのが普通の歌い方だが、ここで気分をしらしめてい
る。一呼吸おいてから焦点を絞っていく見せ方。(鈴木)
★「ハンガリー」と大きく出ているところがおもしろい。「漁夫の砦」は、レポーターがいうよう
なユーモラスなネーミングとは思えない。(鹿取)
(後日意見)(2013年10月)
レポーターは1、2句にとまどわれたようだが、鈴木さんの発言にあるようにここがこの歌の眼目。例えば「ケンピンスキーホテルの一夜リスト流れ老女知るハンガリー動乱も夢」など一連の終わりの方の歌を読むと、365番歌の初句と2句がそれらの終わりの方の歌の伏線になっているのが分かる。つまり漁夫の砦からはドナウ川に沿って美しい町並みが広がっている。静かな秋の景観に旅人である〈われ〉はうっとりしてしまう。しかし美しい景観の背後にはハンガリー動乱はじめ歴史上の戦いの傷が隠されているのだ。〈われ〉はそれを見なければならないし、見ようと思う。それら戦いの記憶に、(たとえ戦さに使われたものでなかったとしても)「漁夫の砦」という名称の選びは意識の中で繋がっているのだろう。(鹿取)