かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞  351

2021-11-04 18:02:59 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究42(2016年9月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【明快なる樹々】P143~
     参加者:M・S、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:鈴木 良明     司会と記録:鹿取 未放


351 行く雲の高さへ欅芽吹かんと一所不動の地力をしぼる

    (レポート)
欅の大木。その繊細な枝は、「行く雲の高さ」を目指して高く高く芽吹こうとしている、根を下ろした「一所不動の地力」を絞りだすようにして、と詠む。「地力」は本来そなわっている力のことだが、欅自身の力というより、背後に自然そのものの生命力の力強さが思われる。(鈴木)


    (当日意見)
★「行く雲の高さ」っていうところがはるかな志みたいで好いですね。空高くとかなら誰でも歌え
 るけど。(慧子)
★下句も生きていますよね。(鈴木)
★松男さんらしい歌ですね。「一所不動」というところ、木っていうのは動かないところが本来で、
 動かないことを選択したというような歌もあったように思いますが、動かないことによって本来
 の力を発揮するところが面白い。(鹿取)
★「一所不動」であることで自然の力を全部吸い上げてしまう。地力ってそういう感じなんだと思
 う。(鈴木)
★辞書には「地力」は「①仏・菩薩の加護の力。②他人の助力」と出ています。松男さんは「土
 地の、土そのものの持つ力」という意味合いも込めてうたっているように思います。自分では
 どうしようもない「他力」をしぼるといういい方が私は非凡だと思います。(鹿取)
★「一所不動」という言葉はあるんですか?この人の作った言葉ですか?(M・S)
★合わせた言葉ですね。凄く力強い言葉ですね。(鈴木)
★私もこの歌この言葉で出来ていると思う。これが一生懸命だったらつまらない。(M・S)
★ここが松男さんですね。(慧子)
★「行く雲の高さ」はまま出ることばですが、「一所不動」は凄いと思います。(M・S)
★私は上の句が凄いと思います。「行く雲の高さ」は言えても、欅がそこの高さに向かって伸びる 
 と言った人はいない。(慧子)
★「雲の高さ」にあこがれるという言い方はありますけどね。(M・S)


     (まとめ)(鹿取)
 以前にも引用したが、この歌と関連のありそうな渡辺松男のエッセー「樹木と『私』との距離をどう詠うか」(「短歌朝日」2000年3,4月号)より引用します。
 木の内側の大部分が死んでいるということは木の不動性と垂直性とに関連している。木は生き方として不動性を選択したときに垂直性を宿命づけられた。一所に生き続けるためには上に伸びなければならないからだ。伸びることを、内側の死という塊が支え、そして塊は年々太っていくのである。  

コメント
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