渡辺松男研究2の10(2018年4月実施)『泡宇宙の蛙』(1999年)
【邑】P50~
参加者:泉真帆、K・O、T・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:泉 真帆 司会と記録:鹿取未放
73 土のなかの無数の邑(むら)が笑うなり掘りおこされてうれしげな邑
(レポート)
「うれしげな」という形容詞から、スコップか鍬で掘り起こされ、陽の光をあびてほっこりした土の塊を思い描いた。地中には「無数の邑」があるというとらえかたがとても魅力的だった。これは地中に生きる虫たちのコロニーや棲み分け、そいういったものを表現しているのだろうか。掘り起こされてたっぷり酸素を吸える土や微生物や虫たちの歓びがつたわってきた。(真帆)
(当日発言)
★私は次の歌との関連で掘りおこされたのは古墳だとばかり思っていましたが、なるほど虫たちの
コロニーというのも面白いですね。(鹿取)
★いろんな取り方ができますが、私は遺跡、縄文時代とかのイメージも重なっているのじゃないか
と思いました。虫とかあらゆる地中の生物のような感じもするし。次の歌を読むと古墳でもある
し、いろんなものが重なっている感じ。(K・O)
★何を掘り起こしたのか、敢えて言っていないところがミソかもしれませんね。また、掘り起こされ
たことで喜んでいるのもポイントでしょうか。中国の皇帝の古墳とかだと発掘されて人目にさら
されるのは苦痛で地中にひっそり眠っていたかったのにという思いもあるでしょうが、ここは喜
んでいる。古代の建物の遺構なんかは新しい風やら光が入って嬉しいかも。この作者のポケット
の多さに、とにかく凄いなあと思います。(鹿取)
(後日意見)
この歌にもまた説明しようのない豊かなユーモアとひかりがある。もしかするとこの笑う邑は動物なのではないか。発掘された途端邑は無数の土竜(もぐら)となって太陽に手をかざしているのではないか――。 (鶴岡善久)「森、または透視と脱臼」(「かりん」2000年2月号)