かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 181

2024-01-12 10:04:43 | 短歌の鑑賞
 2024年版 渡辺松男研究22(2014年12月)
      【非常口】『寒気氾濫』(1997年)75頁~
      参加者:S・I、泉真帆、崎尾廣子、鈴木良明、
          曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
       レポーター:S・I   司会と記録:鹿取 未放



181 夕闇に真闇ひたひた寄せてきて孤独というは橋杙に似る

     (レポート)
 橋杙というのは橋を支える橋脚のことをいうが、昼間でも薄暗い雰囲気が漂っている、夕闇はそのあたりの闇を一層濃く、深くしてゆくのである。一方、暗闇迫る暮れ時、氏は、人間存在の闇―虚無を思い、「人間は宇宙の中で、孤独に打ち震え、たったひとりで死に行く存在」『パンセ』と、パスカルにも似た孤独にじっと対峙している。そのような人間存在の根源にある孤独を橋杙に重ねている。(S・I)


     (当日意見)
★人間は水から生まれてきたというのに橋杙、水の中に立っているものの孤独を言って
 いるところが面白いと思いました。(真帆)
★橋杙という言葉が憎いところ、私なんかだと橋脚とか言っちゃうけど橋脚だとこの感
 じは出てこないですね。杙というと刺さってくる感じがする。(鈴木)
★橋杙という語の選びで詩になっていますよね。濁ってくぐもった音が、この孤独の一
 筋縄ではいかない感じによく合っている。やはり人間存在の根源的な孤独ですよね。
 直接関係ないけど、辰巳泰子の「橋桁(はしげた)にもんどりうてるこの水はくるし
 むみづと決めて見てゐる」(『紅い花』)を思い出しました。場面は似ているけど。
 松男さんの歌と違って、辰巳さんは個人的な情念を詠んでいます。辰巳さんのは苦し
 んでいるのは水そのもので、もっと具体的でどろどろした人生上の苦を見つめてい
 る歌ですね。(鹿取)


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