かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 392

2022-01-03 14:14:15 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究47(2017年3月実施)『寒気氾濫』(1997年)
    【睫はうごく】P157
     参加者:泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、A・Y、渡部慧子、鹿取未放
      レポーター:鈴木 良明     司会と記録:鹿取 未放


392 おそろしきひたすらということがあり樹は黒髪を地中に伸ばす 

       (レポート)
 この歌を読んだ時、能の『定家』を憶った。そのなかに、昔、式子内親王が藤原定家と誰にも知
られてはいけない「忍ぶ恋」をしたが、ふたりの仲は裂かれて離れ離れになって死ぬ。定家の執心は定家葛となって蔦紅葉のように色焦がれて彼女の墓に纏わりつくと、地中の彼女のからだから髪が伸びて、定家葛と絡まる、という下りがある。「おそろしきひたすら」とは、前の歌の「ひとの嬬」を思い、思われる執心のことなのだろう。その執心が黒髪(若き女性の象徴)を、樹の根が水を激しく吸い求めるように地中に伸ばしてゆく。(鈴木)


    (当日発言)
★樹の根っ子というのはほっておくとどこまでも伸びてコンクリでも壊すほどの勢いですよね。そ
 れを黒髪と見ておそろしきひたすらと見ていらしゃるのかなと。(M・S)
★前の歌の「ひとの嬬を吾はおもうなり六月の樹をよぎるとき魚のにおいせり」、次の歌は「黒髪
 にあっとうさるるわれの上にわらわらと解きはなたれにけり」との関連で黒髪が出てくるんです
 よね。だから樹の歌だけど情念とエロスがもろに出ている。(鹿取)
★この歌には根っ子という言葉は出てこなくて、黒髪というどろどろした情念のようなものが出て
 くるのですね。(慧子)

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