かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

清見糺の一首鑑賞  67

2020-09-25 17:34:02 | 短歌の鑑賞
     ブログ版 清見糺の歌 8(修二会)   鎌倉なぎさの会


67 若狭井のふたはずすおと水のおと闇のそこより聞こえきて、春
「かりん」95年7月号

 「おと」を二度重ねて春を待つ思いがこころよいリズムとなっているさわやかな歌。「若狭井」は「お水取り」の名の由来になった香水(きおうずい)を汲み出す井戸で、二月堂から離れた「閼伽井屋」という建物の中にある。この若狭井から汲み上げたお香水を二月堂の本尊である一一面観音にお供えするのが「お水取り」の儀式なのである。
 もっともこのお香水、三月一三日の午前一時半頃、一本の蝋燭の火だけをたよりに汲み出すそうで、「閼伽井屋」に入れるのは決まった人だけ。練行衆が何重にもガードしているそうで二月堂内陣にいる作者に「若狭井のふたはずすおと」は聞こえない。作者のこころの耳が聞いた音である。だが闇の底でうずくまる作者には、長い冬を越えて世の中に春をもたらす音として聞こえたのだ。読点を置いて「春」で収めたリズムが力強い。(鹿取)
 

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清見糺の一首鑑賞  66

2020-09-24 19:55:12 | 短歌の鑑賞
     ブログ版 清見糺の歌 8(修二会)   鎌倉なぎさの会


66 毛のごとき性欲なびく低くのびる声に青衣(しょうえ)の女人よぶとき
                「かりん」95年7月号

 「青衣(しょうえ)の女人」には有名なエピソードがある。一二一〇年頃だというが、修二会の過去帳奉読の際、目の前に青衣をまとった女性が現れ、「なぜわが名を読み落としたるや」と恨めしげに言ったので、とっさに「青衣(しょうえ)の女人」と言ったのが始まりだという。それから八〇〇年、素性の分からない「青衣(しょうえ)の女人」の名は過去帳に記され読まれ続けているという。胎内にいるような感覚でうずくまって聞いている奉読、妖しく艶なエピソードをもつ「青衣(しょうえ)の女人」のイメージが、毛のごとき性欲につながったのだろう。青い衣を纏った女人の髪の毛のように細くて、しかし後を引くようなそんな性欲。(鹿取)


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清見糺の一首鑑賞  65

2020-09-23 15:13:45 | 短歌の鑑賞
     ブログ版 清見糺の歌 8(修二会)   鎌倉なぎさの会


65 過去帳は超早口に唱えられ西行法師もたまゆらに過ぐ
     「かりん」95年7月号

 過去帳は、東大寺、二月堂にゆかりのある人々や寄進者の名前。その読み上げが修二会の五日目と十二日目に行われる。大伽藍本願……聖武天皇、光明皇后、弘法大師、源頼朝右大将……ここまで四〇分だそうで、作者ごひいきの西行法師の名前もあっという間に過ぎてしまった、というのだ。「超早口」という俗語が効いているのは、「たまゆら」というやわらかい古語でバランスをとったからだろう。(鹿取)

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清見糺の一首鑑賞  64

2020-09-22 16:48:12 | 短歌の鑑賞
     ブログ版 清見糺の歌  8(修二会)   鹿取 未放


64 地上には関係者という族ありて点火まぎわによき位置を占む
    「かりん」95年7月号

 「関係者」はまさにどこにでもある。ちょうど本日(2004年11月11日)の朝日新聞の朝刊は八戸の教育改革ミーティング参加の半数が「関係者」だったと報じている。
 作者はもちろん「関係者」ではないので、早くから並んでそれでも「よき位置」から外れたところにいるのである。(鹿取)

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清見糺の一首鑑賞 53

2020-09-21 20:50:10 | 短歌の鑑賞
     ブログ版 清見糺の歌  8(修二会)   鹿取 未放


53 胎内に子守唄など聞くようにうずくまり聞く修二会声明(95/7)
                 「かりん〉95年7月号

 「修二会」一連は作者の自信作だった。第二歌集のメインに据える歌群だと言っていた。一連は敬虔な真情が簡潔に詠われていて力がある。
 ここでうたっている「修二会」は、東大寺二月堂のもので、いわゆるお水取りのことで3月1日から14日までの2週間行われる。寒くて暗い場所でうずくまって声明を聴いている姿勢が胎内の感覚を導いたのだろう。未生以前の懐かしい記憶。ちなみに作者がいるのは「内陣」と呼ばれる女人禁制の場所である。(鹿取)

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