今人気のミステリーです。3ヶ月前に図書館にオンライン予約して漸く順番が巡って来ました。
物語の主人公は北鎌倉駅付近で「ビブリア古書堂」を営む栞子さん。初対面の人とは満足に口もきけないほどの人見知りで、接客商売には向いていない人柄ですが、古書の知識は並大抵ではなく、本には人一倍情熱を燃やす、若き女性です。
物語の語り手はやはり北鎌倉に住む”俺”五浦大輔23歳。
第一話は 夏目漱石『漱石全集・新書版』。祖母亡き後、本の整理をしていた母は、漱石全集『第八巻 それから』の表紙の見返しの右側に細い文字で
”夏目漱石
田中嘉雄様へ”
と書かれているサインを発見します。これは夏目漱石の本物サインかも知れないと期待する母に頼まれ、俺は「ビブリア古書堂」を訪れ、そこで初めて栞子さんと言葉を交わします。
実は、”俺”は6年前の高校2年生の夏、この古書店の中から出て来た綺麗な若い女性に出会っていました。その時の彼女こそ栞子さん(と語り手は書きます)と思い至るのでした。
豊富な古書に関する知識から、サインの真贋のみならず、”俺”のおばあちゃんの過去の謎と自分の出生の秘密にまで迫る栞子さんの推理。”俺”はこれが縁で「ビブリア古書堂」で働き始めます。
第2話 小山清『落穂拾ひ・聖アンデルセン』。第三話 ヴィノグラードフ・クジミン『論理学入門』。第四話 太宰治『晩年』。いずれの物語も、高価な古書をテーマにして、栞子さんと大輔が古書にまつわる謎を解き明かします。入院中の栞子さんに謎を持ちこむのは大輔。その謎を居ながらにして解くのが栞子さんです。
表題に「事件手帖」の文字が入りますが、いずれの事件でも血なまぐさい殺人が起こるわけではありません。古書にまつわる謎を解くこの小説、「それから」以外、具体的にその古書を読んでいない私でも充分に楽しめました。そのパート2も既刊されていて、順番が来て読める日を心待ちしています。