歌舞伎座へのチケットをMさんから頂き、4月25日(金)に妻と、夜の部を観て来た。外からは何度も歌舞伎座を眺めたが、そこでの歌舞伎を見るのは初めてのことで、興味津々の思いで、久しぶりのギンブラを兼ね早めに家を出た。丁度、歌舞伎座は新開場1周年を迎えての、「鳳凰祭四月大歌舞伎」と銘打っての記念公演だった。
以前の歌舞伎座は知らない。新橋演舞場との比較だが、会場は二回りくらい大きく感じられる。観客席もゆったり作られていて座り心地がよい。観客はいかにもオシャレをしたという感じの人が多い。(自分たちも歌舞伎座オノボリさん)
さて、夜の部は
一・一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)
二・女伊達
三・梅雨小袖昔八丈 髪結新三
の三本立て
三の髪結新三以外は初めての観劇で、取り分け「一條大蔵譚」での吉右衛門の演技に酔った。
世は平家全盛のとき、源義朝の妻であった常盤御前(配役:魁春。以下同じ)は、子の命を救う為、清盛に身を委ねるが、その後、一條大蔵長成(吉右衛門)と再婚。その大蔵卿は、能や狂言にうつつをぬかす阿呆と噂されているが、それは、実は世を忍ぶ仮の姿なのだ。
彼は狂言師お京(芝雀)を雇い、屋敷に連れ帰る。その夫鬼次郎(梅玉)は屋敷に忍び込み、再嫁した常盤御前の真意を探ろうとする。鬼次郎は、楊弓に興じてばかりの常盤を打ち据えるが、実はその矢は平家調伏の願がかけられたもの。そのことを知った家老八剣勘解由(由次郎)は清盛に注進しようとするが、御簾の中から延びた刀で切られてしまう。そして御簾の中から現れるのが、常とは異なる、威厳を湛えた大蔵卿。あっと驚く変身である。
言葉を発しなくても、見るからに阿呆の表情をし、お京の舞に見惚れ、床几から落ちるしぐさが、わざとらしくなく、いかにも自然の、作り阿保さを演じる吉右衛門が、一瞬の、正気の、真実の姿を見せたのち、また阿呆に戻ってしまう。その演じ分けがこの芝居の見どころだと思うが、見事にそれを自在に演じ分けた吉右衛門。彼は人間国宝なのだと改めて感じる芝居であった。