引越社のトラックがマンションの正面玄関先に停まった。
インターホンで305号に到着を告げると、荷台の扉を開け、きちんと梱包された家具や荷物を降ろし始めた。
専門のスタッフが手際よく家具を運んで行く。
滝川はひとり暮らしだし、これまで使っていたものはほとんど処分してきたので家具はそれほど多くはない。
搬入は思ったより簡単に終わってしまった。
両親がまだ健在だった頃に購入した一戸建ては、ひとりで暮らすには広過ぎた。
管理の手間も維持経費も掛かり、このところちょっと持て余し気味だったところへ、家を買いたいという話が持ち上がって、しばらく前から西沢のマンションの近くに部屋を探していた。
有から西沢の健康管理を内々に頼まれていることもあって、できるだけ行き来の楽な場所で…と考えていたが、たまたま305号の老夫婦が介護士付きの高齢者専用マンションに移るというので、そこを譲り受けることにした。
マンション自体は6~7年経っているが、転勤族だった老夫婦が短期間だけ住んでいた部屋はまだ新しく手入れの必要もなくて、業者を頼んで隅々まで綺麗に掃除をして貰っただけですぐに移り住むことができた。
たとえ…すぐ隣の部屋に越してきたとしても…あの男は間違いなくあなたのベッドで寝るでしょうよ…。
305号は単なる荷物置き場よ…。
実質…あなたの部屋へ引っ越してきたようなものだわ…。
そう言って輝が鼻先で笑い飛ばしたように、同じ階に引っ越してきた後も滝川が西沢の部屋で過ごす時間は今までとさほど変わらなかった。
「襲われた外国人は交番で事情を訊かれた後…慌てて立ち去ったそうだ…。
助けに入ったノエルのことは口に出していない。
通報した目撃者は散歩中の近所の人だが、亮くんとノエルについてはまったく覚えてないらしい。
亮くんも…それなりにちゃんと後始末をしてきたようだな…。
何れにせよ…もし…おまえに何か用があるとすれば必ずまた現れるだろう…。
僕が直接確認したわけではないが…彼等の活動の拠点が隣町の繁華街にあるそうで…日本人メンバーも何人か出入りしているという話だ…。 」
ノエルを襲ったふたりの外国人に付いて調べていた滝川は、情報網を使ってそのふたりが確かに『HISTORIAN』のメンバーであることを突き止めた。
ふ~ん…もともとこの国にも拠点があったんだ…。
単なる歴史研究目的の組織としては…ちょっと規模が大き過ぎないか…?
金にもならない研究なのに…。
「あんまり知られちゃいないけれど…物凄く古い時代からある歴史研究組織なんだそうだ…。
代々カリスマ的な導師が代表に選ばれるらしくて…まるで何かの宗教団体みたいさ…。
古い時代には宗教に関する発言をすると迫害されるんで研究内容を誤魔化すのが大変だったらしい…。
まあ…この時代まで持つということは…歴史を解き明かそうとすることに興味を持つ有力なパトロンが大勢居たんだろうな…。」
歴史を…解き明かす…ねぇ…。
もっと別の目的があったような気がするんだけどな…。
西沢はふと…空っぽの籐のソファに目を向けた。
「今日も…亮くんとこか? 今回はいやに長いな…。 」
滝川がそれに気付いて訊ねた。
ああ…それが…ちょっとわけありで…さ。
「輝が…ノエルを嵌めたんだ。 ここに居づらくなるように仕向けた…。
ノエル…お調子者だからもろ引っ掛かって…さ。
そんなこと端から分かってたから…よくあることだなんて…僕も適当に誤魔化したけど…やっぱり気にしたんだろう。
おまえみたいに図太いと何があっても平気で居据わるけどな…。 」
図太い…こんな繊細な男を捕まえて…何てことを…。
20年もの間ただひとりの女の子を思い続けているこの僕に向かって…。
「はいはい…分かりました。 可愛い紫苑ちゃんにキスしていいです。 」
そう言って西沢は笑ったが…本当は笑い事じゃなかった。
実家のひとりぼっちの部屋から抜け出して…ようやく…この部屋に居場所を見つけたのに…四年目にしてやっと…新しい服を着られたところなのに…。
また…自虐がぶり返さなければいいけど…。
ノエルの居ない籐のソファが置き去りにされたように寂しげに見えた。
サンドビーズのクッションを抱えてノエルはぼんやり窓の外を見ていた。
それほどクーラーを利かしているわけでもないのに何だか寒いような気がした。
亮は悦子とデートなので…ひとり亮の部屋に籠っている。
今夜は有も居ないし…本当にひとりきりだ。
他人の家にひとりで居るというのはとっても居心地が悪い。
西沢のマンションではひとりで居てもなんとも思わなかったのに…亮の家では今までひとりになったことがなかったせいか落ち着かない。
紫苑さん…もう寝ちゃったかなぁ…。
今夜は…滝川先生…来てるかなぁ…。
帰りたい…と初めて思った。 西沢の寝室のあの籐のソファの上…大切な場所。
もう…帰れない…よね…。 紫苑さんを裏切っちゃった…。
自分から居場所失くしちゃった…。
恩を仇で返すようなことをした自分が情けなくて…許せなかった。
ノエルの中で再び自分自身への嫌悪感が増殖を始めた。
できるだけ地味なメンズタンクトップにカットシャツ…デニムのパンツ…何処にでも居るお兄さんといった出で立ちで西沢は駅裏の繁華街を歩いていた。
深めに帽子を被って、濃い目のグラスをかけ、できるだけ目立たないようにとは思ったが、如何せん…その容姿は嫌でも人目を惹いた。
何しろ人波の中から頭ひとつどころか下手したらふたつくらい出ているのだから。
モデルの時には極めて有力な武器だったこの容姿も、御使者としては目立ち過ぎて足を引っ張るだけ…。
それでもどうにか通りすがりに外人か…とじろじろ見られたり…めちゃめちゃ背の高いお兄さんだ…くらいで済んだ。
あの後…滝川の情報をもとに玲人が拾ってきた情報によると…彼等の拠点はどうやらこの街の雑居ビルの二階…会員制の英会話塾であるらしい。
街を歩きながらそれらしい場所に眼を光らせた。
袋小路の突き当たりにそれらしいビラの貼ってある建物があったが、当の英会話塾は既に閉鎖されていた。
一階にある小さな喫茶店のママに訊ねたところによると、塾を開いてまだ一年経つか経たないかというところなのに、最近、強盗に入られて講師たちが怪我をしたようで、個人経営だった塾は一時閉鎖を余儀無くされたということだった。
物騒よねぇ…治安大国なんて…ほんと昔の話になっちゃって…。
ランチタイムにはまだ間のあるせいか、おしゃべり好きなママはあることないこといろいろ話してくれた。
時々…関係者が来てるみたいだから…用事があるなら郵便受けにメモでも入れておいたらいいわ…。
ママは親切にもボールペンと可愛いメモ用紙を渡してくれた。
一枚剥がしたメモ用紙に…連絡下さい…とだけ書いて、残りの用紙とペンを返しながら西沢はママに礼を言った。
再び二階の塾の前に立つと西沢はメモ用紙を取り出した。
ドアの隙間からそれを差し込もうと手を伸ばした時、背後に誰かの気配を感じた。
振り返ると若いサラリーマン風の男が強張った表情で西沢を見つめていた。
男は何を思ったのか慌ててその場を逃げ出した。
階段を駆け下り、袋小路を抜けて、街の雑踏の中に紛れ込んだ。
逃げて逃げて…やがて…完全に西沢を撒いたとでも思ったのだろう。
繁華街を抜けた小さな時計台のある公園で力尽きたようにベンチに腰を下ろした。
項垂れてぜいぜいと呼吸するその男の眼に再び西沢の姿が映った時、最早その場を立ち上がる気力も失せていた。
「きみは…あの塾の人…? 」
穏やかな声で訊ねる西沢に男は曖昧に首を振った。
「僕は…スタッフではなくて…少し前から歴史の勉強に来ている者です…。
英会話塾の空きの時間に趣味の会があって…僕の他にも数人が参加しています。
怪我をした塾長に頼まれて…部屋に風を入れに来たんですが…あなたが居たので…また…誰かが襲撃に来たのかと…。 」
男は怯えたように声を震わせた。
おそらく…襲撃された時にも居合わせたのだろう。
よほどの恐怖を味わったと見える。
「襲撃してきたのは…外国の人だったの?
僕にも外の血が入っているからそう見えるかも知れないけど…。 」
こいつは…いったい何者だ…? 男の目が疑わしそうに西沢を見た。
「ああ…申し訳ない…見ず知らずの男があれこれ訊いたら驚くよね。
実は…少し前に…僕を訪ねてくれた人が居るらしくて…。
邪魔が入って会えなかったんで…僕の方から訪ねてきたんだけど…。
きみ…その塾長さんに会ったらこのメモを渡してくれないか…?
塾長さんが見れば…ちゃんと意味が分かると思うけど…。 」
西沢はさっき喫茶店で書いた一言メモを男に渡した。
男はそれを受け取って素直に頷いた。
「きみさ…できれば…あまり深入りしない方がいいよ…。
もともとは無関係なのに巻き添え食って大怪我でもしたら大変だよ。 」
いかにも実直そうな若い男を見て西沢は忠告した。
男はますます怪訝そうな顔をした。
やっと社会に出たばかりの…まだ何処となく大人になりきっていない顔…。
亮やノエルとそんなに違わない年頃だ…。
西沢の口元に思わず笑みがこぼれた。
それじゃあ…と声をかけて西沢はその場を後にした。
鬼と出るか蛇と出るか…後は成り行き任せ…。
とにかく種だけは蒔いた…。
出来得れば…少しでも良い芽が出てくれることを胸の内に祈りながら…。
次回へ
インターホンで305号に到着を告げると、荷台の扉を開け、きちんと梱包された家具や荷物を降ろし始めた。
専門のスタッフが手際よく家具を運んで行く。
滝川はひとり暮らしだし、これまで使っていたものはほとんど処分してきたので家具はそれほど多くはない。
搬入は思ったより簡単に終わってしまった。
両親がまだ健在だった頃に購入した一戸建ては、ひとりで暮らすには広過ぎた。
管理の手間も維持経費も掛かり、このところちょっと持て余し気味だったところへ、家を買いたいという話が持ち上がって、しばらく前から西沢のマンションの近くに部屋を探していた。
有から西沢の健康管理を内々に頼まれていることもあって、できるだけ行き来の楽な場所で…と考えていたが、たまたま305号の老夫婦が介護士付きの高齢者専用マンションに移るというので、そこを譲り受けることにした。
マンション自体は6~7年経っているが、転勤族だった老夫婦が短期間だけ住んでいた部屋はまだ新しく手入れの必要もなくて、業者を頼んで隅々まで綺麗に掃除をして貰っただけですぐに移り住むことができた。
たとえ…すぐ隣の部屋に越してきたとしても…あの男は間違いなくあなたのベッドで寝るでしょうよ…。
305号は単なる荷物置き場よ…。
実質…あなたの部屋へ引っ越してきたようなものだわ…。
そう言って輝が鼻先で笑い飛ばしたように、同じ階に引っ越してきた後も滝川が西沢の部屋で過ごす時間は今までとさほど変わらなかった。
「襲われた外国人は交番で事情を訊かれた後…慌てて立ち去ったそうだ…。
助けに入ったノエルのことは口に出していない。
通報した目撃者は散歩中の近所の人だが、亮くんとノエルについてはまったく覚えてないらしい。
亮くんも…それなりにちゃんと後始末をしてきたようだな…。
何れにせよ…もし…おまえに何か用があるとすれば必ずまた現れるだろう…。
僕が直接確認したわけではないが…彼等の活動の拠点が隣町の繁華街にあるそうで…日本人メンバーも何人か出入りしているという話だ…。 」
ノエルを襲ったふたりの外国人に付いて調べていた滝川は、情報網を使ってそのふたりが確かに『HISTORIAN』のメンバーであることを突き止めた。
ふ~ん…もともとこの国にも拠点があったんだ…。
単なる歴史研究目的の組織としては…ちょっと規模が大き過ぎないか…?
金にもならない研究なのに…。
「あんまり知られちゃいないけれど…物凄く古い時代からある歴史研究組織なんだそうだ…。
代々カリスマ的な導師が代表に選ばれるらしくて…まるで何かの宗教団体みたいさ…。
古い時代には宗教に関する発言をすると迫害されるんで研究内容を誤魔化すのが大変だったらしい…。
まあ…この時代まで持つということは…歴史を解き明かそうとすることに興味を持つ有力なパトロンが大勢居たんだろうな…。」
歴史を…解き明かす…ねぇ…。
もっと別の目的があったような気がするんだけどな…。
西沢はふと…空っぽの籐のソファに目を向けた。
「今日も…亮くんとこか? 今回はいやに長いな…。 」
滝川がそれに気付いて訊ねた。
ああ…それが…ちょっとわけありで…さ。
「輝が…ノエルを嵌めたんだ。 ここに居づらくなるように仕向けた…。
ノエル…お調子者だからもろ引っ掛かって…さ。
そんなこと端から分かってたから…よくあることだなんて…僕も適当に誤魔化したけど…やっぱり気にしたんだろう。
おまえみたいに図太いと何があっても平気で居据わるけどな…。 」
図太い…こんな繊細な男を捕まえて…何てことを…。
20年もの間ただひとりの女の子を思い続けているこの僕に向かって…。
「はいはい…分かりました。 可愛い紫苑ちゃんにキスしていいです。 」
そう言って西沢は笑ったが…本当は笑い事じゃなかった。
実家のひとりぼっちの部屋から抜け出して…ようやく…この部屋に居場所を見つけたのに…四年目にしてやっと…新しい服を着られたところなのに…。
また…自虐がぶり返さなければいいけど…。
ノエルの居ない籐のソファが置き去りにされたように寂しげに見えた。
サンドビーズのクッションを抱えてノエルはぼんやり窓の外を見ていた。
それほどクーラーを利かしているわけでもないのに何だか寒いような気がした。
亮は悦子とデートなので…ひとり亮の部屋に籠っている。
今夜は有も居ないし…本当にひとりきりだ。
他人の家にひとりで居るというのはとっても居心地が悪い。
西沢のマンションではひとりで居てもなんとも思わなかったのに…亮の家では今までひとりになったことがなかったせいか落ち着かない。
紫苑さん…もう寝ちゃったかなぁ…。
今夜は…滝川先生…来てるかなぁ…。
帰りたい…と初めて思った。 西沢の寝室のあの籐のソファの上…大切な場所。
もう…帰れない…よね…。 紫苑さんを裏切っちゃった…。
自分から居場所失くしちゃった…。
恩を仇で返すようなことをした自分が情けなくて…許せなかった。
ノエルの中で再び自分自身への嫌悪感が増殖を始めた。
できるだけ地味なメンズタンクトップにカットシャツ…デニムのパンツ…何処にでも居るお兄さんといった出で立ちで西沢は駅裏の繁華街を歩いていた。
深めに帽子を被って、濃い目のグラスをかけ、できるだけ目立たないようにとは思ったが、如何せん…その容姿は嫌でも人目を惹いた。
何しろ人波の中から頭ひとつどころか下手したらふたつくらい出ているのだから。
モデルの時には極めて有力な武器だったこの容姿も、御使者としては目立ち過ぎて足を引っ張るだけ…。
それでもどうにか通りすがりに外人か…とじろじろ見られたり…めちゃめちゃ背の高いお兄さんだ…くらいで済んだ。
あの後…滝川の情報をもとに玲人が拾ってきた情報によると…彼等の拠点はどうやらこの街の雑居ビルの二階…会員制の英会話塾であるらしい。
街を歩きながらそれらしい場所に眼を光らせた。
袋小路の突き当たりにそれらしいビラの貼ってある建物があったが、当の英会話塾は既に閉鎖されていた。
一階にある小さな喫茶店のママに訊ねたところによると、塾を開いてまだ一年経つか経たないかというところなのに、最近、強盗に入られて講師たちが怪我をしたようで、個人経営だった塾は一時閉鎖を余儀無くされたということだった。
物騒よねぇ…治安大国なんて…ほんと昔の話になっちゃって…。
ランチタイムにはまだ間のあるせいか、おしゃべり好きなママはあることないこといろいろ話してくれた。
時々…関係者が来てるみたいだから…用事があるなら郵便受けにメモでも入れておいたらいいわ…。
ママは親切にもボールペンと可愛いメモ用紙を渡してくれた。
一枚剥がしたメモ用紙に…連絡下さい…とだけ書いて、残りの用紙とペンを返しながら西沢はママに礼を言った。
再び二階の塾の前に立つと西沢はメモ用紙を取り出した。
ドアの隙間からそれを差し込もうと手を伸ばした時、背後に誰かの気配を感じた。
振り返ると若いサラリーマン風の男が強張った表情で西沢を見つめていた。
男は何を思ったのか慌ててその場を逃げ出した。
階段を駆け下り、袋小路を抜けて、街の雑踏の中に紛れ込んだ。
逃げて逃げて…やがて…完全に西沢を撒いたとでも思ったのだろう。
繁華街を抜けた小さな時計台のある公園で力尽きたようにベンチに腰を下ろした。
項垂れてぜいぜいと呼吸するその男の眼に再び西沢の姿が映った時、最早その場を立ち上がる気力も失せていた。
「きみは…あの塾の人…? 」
穏やかな声で訊ねる西沢に男は曖昧に首を振った。
「僕は…スタッフではなくて…少し前から歴史の勉強に来ている者です…。
英会話塾の空きの時間に趣味の会があって…僕の他にも数人が参加しています。
怪我をした塾長に頼まれて…部屋に風を入れに来たんですが…あなたが居たので…また…誰かが襲撃に来たのかと…。 」
男は怯えたように声を震わせた。
おそらく…襲撃された時にも居合わせたのだろう。
よほどの恐怖を味わったと見える。
「襲撃してきたのは…外国の人だったの?
僕にも外の血が入っているからそう見えるかも知れないけど…。 」
こいつは…いったい何者だ…? 男の目が疑わしそうに西沢を見た。
「ああ…申し訳ない…見ず知らずの男があれこれ訊いたら驚くよね。
実は…少し前に…僕を訪ねてくれた人が居るらしくて…。
邪魔が入って会えなかったんで…僕の方から訪ねてきたんだけど…。
きみ…その塾長さんに会ったらこのメモを渡してくれないか…?
塾長さんが見れば…ちゃんと意味が分かると思うけど…。 」
西沢はさっき喫茶店で書いた一言メモを男に渡した。
男はそれを受け取って素直に頷いた。
「きみさ…できれば…あまり深入りしない方がいいよ…。
もともとは無関係なのに巻き添え食って大怪我でもしたら大変だよ。 」
いかにも実直そうな若い男を見て西沢は忠告した。
男はますます怪訝そうな顔をした。
やっと社会に出たばかりの…まだ何処となく大人になりきっていない顔…。
亮やノエルとそんなに違わない年頃だ…。
西沢の口元に思わず笑みがこぼれた。
それじゃあ…と声をかけて西沢はその場を後にした。
鬼と出るか蛇と出るか…後は成り行き任せ…。
とにかく種だけは蒔いた…。
出来得れば…少しでも良い芽が出てくれることを胸の内に祈りながら…。
次回へ