徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

続・現世太極伝(第二十七話 …で…どうすりゃいいんだ…?)

2006-06-24 23:54:51 | 夢の中のお話 『続・現世太極伝』
 智哉に許可を貰った次の週には家族と仲間だけで簡単なパーティを開いた。
派手な挙式も豪華な披露宴もなく…西沢のマンションでのホーム・パーティ…。
 僕…女の服なんか着られない…!という花嫁の事情を考慮して、いつもどおりの気軽な服装で…。

 西沢と滝川の手料理の他に紅村の自慢料理が並び、桂のお勧めのワイン各種…。
怜雄の奥さんの手作りウェディングケーキと英武・千春コンビのオードブル…ノエルのお母さんのバラ寿司…玲人が手配した珍しい果物などなど…。

 なんだかんだみんなの持ち寄りで結構それらしく見える。
今日は亮と悦子が給仕を買って出て…忙しく動き回っている。

 有と智哉、相庭は親父同士和やかに会話を楽しみ、谷川店長と怜雄はジョッキ片手に冗談の飛ばし合い…さすがに同級生…まったく遠慮なし。
  
 輝がクリスマス生まれのノエルのために作った12種のピアスが西沢の手からノエルに渡され…それが一応挙式の代わり…。
 
 西沢家からは豪華な花籠…宗主からも高価な祝いの品が届いた。
参加者全員の手作りみたいな披露パーティだけれど参加したすべての人々が…このちょっと変わったカップルの門出を心から祝ってくれた。

 西沢の養父母…祥と美郷が現れなかった理由は美郷が病身のせいもあるが…西沢家の体面を考えれば容易に予想できることだった。
それでも渋々ながら許可したのはノエルの後ろ盾を考慮したからだ。

 両親も本人も知らないが…ノエルも裁きの一族の血を引いている。
但し…ノエルの場合は対の一族の方の血で、宗主にとっては内室の血となる。
 何かの事情で縁が途切れていたが、西沢との縁組によって対の一族はノエルの家を登録名簿に復活させた。
 こうなると…西沢家もそう簡単にノエルを追い出すことはできない。
頭痛の種ではあるが…紫苑を黙らせておくための玩具だと思うことにした。
それで祝いの花籠だけは贈ってきたというわけ…。 

 ともあれ…家族や仲間たちの祝福が在れば西沢家の意向なんかノエルにとってはどうでもいいことだった。
…というかノエルの頭の中では…やっぱり西沢との結婚を現実として捉えることが出来なかったから…。
 ずっと傍に居たいとか…心から愛しいと想う気持ちはあっても…それが男女どちらの自分が望んでいることなのか…と考えるとよくは分からない。
だから…ずっと西沢と一緒に居ていいという許可を周りのみんなから貰ったんだ…と思うことにした。



 終始和やかで寛いだ雰囲気のパーティがお開きになって、気分の華やいだ招待客が名残惜しげに暇を告げた。
 玄関先でふたりが招待客の見送りをしている間に、いつものメンバーが猛スピードで部屋を片付け、酔い覚ましの濃いコーヒーが配られた。

 「現段階で核保有国とされているのがアメリカ・ロシア・フランス・イギリス・中国…その他インド・パキスタン…だ。 あと…持ってるかもしれないって国がイスラエル…。 イランと北朝鮮が開発中…。 
 ロシアとアメリカに至っては核弾頭保有数10,000を軽く越えるぜ…。
かつては20,000~30,000って時代もあったんだ。
今では廃棄したと言われているが…。

 その他の国は200弱~400強ってところかな…。
これだけの国が一斉にドンパチやれば…世界は一巻の終わり…。
それこそ…宇宙にでも逃げ出す以外…助かる道はない。 」

滝川が半ば呆れ気味に言った。 
 
 「核兵器を管理している人間に異常が起これば…その一巻の終わりがやってくるってわけね…? 
 HISTORIANという組織はそうならないための布石ではないか…と紫苑は考えた…そうでしょ? 」

輝の問いに西沢は頷いた。 

 「そう…おそらく…第二次世界大戦の日本への原爆投下という事態になって彼等はようやく自分たちの組織の存在する本当の意味を知ったんだ。
世界の指導者及び管理者に誤った判断をさせてはならない…とね。

 保有国の政府や軍事の中枢部には多分…HISTORIANの組織員が入り込んでいて、核を使うなんて状況に陥らないように上手く立ち回っているのだろうけれど…その他の国にまでHISTORIANだけではなかなか手が回らないんじゃないかと思うんだ…。 」

 あ…それで手紙を出したわけね…。
保有国でないおまえたちの国はおまえたちで何とかせい…ってことで…。
そのわりには何人か国内に潜伏しているみたいだけれど…。

 「この国は保有国ではないけれど…核処理施設がある…。
核兵器に関する技術的なノウハウもある。 
 歴史的な国民感情と法律での規制がなければ、明日にでも他の保有国と並ぶくらいの生産能力は持ってるんだ…。
 HISTORIANの立場からみればこの国だってイランや北朝鮮と変わらないんだよ。
だから注意を促している…中枢部に眼を向けろとね…。 」

 万が一…国を動かす人間たちが磯見たちのような夢遊状態に陥ったら…。 
自分でもそれと知らぬ間に人心を混乱させ…国家にとんでもない事態を招く…。 
それが世界各国同時期に起きたとすれば…第三次世界大戦の勃発だ…。

 「この前…紫苑から電話を貰った後で考えてみたんだが…潜在記憶…というものがどうしても引っかかるんだ。
そこに重要な鍵がありそうなんだが…いまいち掴めなくてね…。 」

怜雄が顔を顰めた。

 「そう言えば…古代にも核戦争があったのではないかという説がある…。
それを確かだと証明できるものがあるわけではないんだけど…背徳の街に降った火の雨は核爆弾によるものじゃないかと…。 」

亮が呟くように言った。

 「あ…それ聞いたことがあるよ…。 
カッパドキアとかに残っている古代地下都市の址は核シェルターじゃないかって話でしょ…?」

英武が思い出したように言うと、亮はそうそう…と頷いた。

 「この前は洪水だとか言ってなかった…? 世界が滅んだ理由…。 」

ノエルが怪訝そうに西沢を見た。

 「いろいろあるんだ…考えられる原因には…ね。 真実が分からないから残っている僅かな形跡で想像するしかないんだよ…。 

 だけどノエル…僕が言いたいのはこれから起こりうること…で過去に何が起こったかじゃないんだ…。 
 状況から核戦争を思いついたけど…ひょっとしたら氷河が融解することによる大洪水だって考えられるんだよ…。 」

 現在の状況からどちらがより在り得るかって可能性の問題…西沢はそう答えた。
そっか…洪水起こそうってのなら…磯見たちを操る必要はないもんな…。
気温上げて氷河を融かせばいいだけで…とノエルは妙に納得した。

 「まあ…原因が何だったにせよ…世界規模の災厄で超古代に滅びた文明があって…その文明の残した負の遺産とも言うべき何かのせいで再び災禍が降りかかろうとしているわけだ。
 誰がそうさせようとしているのかは…ともかく…何だろうな…それは…?
時空を超えて過去と現在を繋ぐもの…だろ? 」

 みんなの顔を見回しながら…タイムマシンとか言って…また物理の講義にするなよ…と滝川は思った。

 「氷河…氷河期…マンモス…DNA…DNA…だよ。 」

 ノエルが突然…何かを連想したように言った。
DNA…? みんなの眼が一斉にノエルに向けられた。
 
 「以前…どこかの学者が凍ったマンモスのDNA取り出して象を使ってマンモスを甦らせようなんて言ってたじゃない…。
 他にもアイスマンと現代人の女性をかけ合わせるとか…琥珀の中の蚊からDNA取り出して恐竜を甦らせようとか…。

 DNAって確かすべての過去の記憶が詰まってるんだよね。
それなら…時間を越えて過去が現在と繋がってるってことでしょ? 」

 それを聞いて西沢が、あっ…と声を上げた。
五行の気の言葉…そこの部分は気にもしていなかったけれど…。
『おまえたちの言う40億年の記憶は…我々の記憶領域だけではなくて…おまえたちの中にも存在するものだ…。』

 「怜雄…どう思う…?  DNAの持つ記憶を操れるかい? 」

 西沢が怜雄の意見を訊いた。
怜雄はひとつ大きく息を吐いてから西沢の問いに答えた。

 「ヒト・ゲノムという言葉を聞いたことがあるかもしれないが…常染色体22本とX染色体・Y染色体2本…XYの組み合わせは男女で異なるけど…その中の30億対ほどのDNAの塩基配列をいうんだ。

 人間を構成している細胞はどの細胞も同じゲノムを持っていて、そのままだと全部の細胞が同じものになってしまうので、ゲノムの中の遺伝子の情報は必要な情報だけが使われていて、要らない情報は休止状態にある。
だから脳とか心臓とかいった違った働きや形のものができるわけだ。

 これは僕個人の想像の域を脱しないんだが…もし眠っている部分に細胞を形成するための情報の他に…何か…特別な行動に関する記憶のようなものが存在していたとしたら…或いは故意に情報として組み込まれていたとしたら…それが目覚めた時にはどういう状況になるかは想像できる…。 
 そういうことが実際に可能かどうかとなると…僕の知識だけじゃ証明のしようもないんだが…。 」 

 遺伝子に…情報を組み込む技術が…超古代にあったかどうか分からんしな…。
自信なさそうに怜雄は言った。

 怜雄に分からないことは他の誰にも分からない…それがみんなの共通した見解でもあった。 
 遺伝子レベルとなると専門的に勉強している者でもなければ、そう簡単に理解できる話じゃない。

 その場に重苦しい沈黙の時間が流れた…。
…で…どうすりゃいいんだ…というのが正直なところ…今のみんなの心境だった。







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