江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

新説百物語巻之一の6、但州の僧あやしき人にあふ事 

2020-04-05 21:06:23 | 新説百物語
新説百物語巻之一の6、但州の僧あやしき人にあふ事  
                        2020.4
但馬(たじま:兵庫県)の山の方に何寺とか言う寺があり、道幸(どうこう)と言う四十歳ぐらいの僧がいた。
その寺の後ろの山は、昔より魔所と言って、人々が怖れる場所であった。
たとえば、大きな山伏に出会ったとか、又は高入道を見たとか、言われていた。
確かに見きわめた事はなかったが、その奥山へ行く人はなかった。

道幸は、こう言った。
「化物(ばけもの)も魔障(ましょう)も人によりけりである。私が行って見よう。」
と、ある日、その山の奥に至って、とある岩根に腰をおろした。
たばこなどのんでいたが、何の不思議な事もなかった。

それで、「やはり、化物も人によってであろう。」
つぶやいて、木の皮をけづって、ここに来たしるしとして帰ろうとした。
すると、にわかに嵐がさっと吹いて来た。
すさまじく空がかき曇って、恐ろしいこと、表現に出来ないほどであった。

しかし、道幸は少しも騒がず、ゆうゆうと山を下っていった。
山も半ばと思う頃、しわがれた声で、「この度は、許すが、ついには命を取るぞ。」と言った。
さしもの道幸も、ぞっとして足ばやに寺へ帰った。

その後、四五日も過ぎて、道幸がこんな夢をに見た。
身長が壱寸ばかりの衣冠正しい人が、輿車(くるま)に乗り、その外、供の者達を連れて枕もとに来た。
「我は、この山のうしろに住むものである。
先日は、思いもよらず山に上って来たが、実に無礼である。
その返報に、今日より、その方の命を毎日毎日縮めよう。そのために我等が来たのだ。
明夜よりは、下官どもが、代わる代わる来るだろう。」
そして、配下の者に、「まず、今夜より命を縮めよ」と命令した。
そして、下役と見える一寸ばかりの二人の男が、ちいさい鍬と鋤とを持って、耳の穴より入った。
しばらくして何やら白い油のような物を指さきほど持ち出してきた。

それより、毎夜毎日このような事をされたが、この僧は、段々と痩せおとろえてきた。ついに二月ばかりして死んだ。

これは、元文の頃の出来事であって、まさしく、自分自身が見た、とある人が言った。


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