江戸の妖怪、怪奇、怪談、奇談

江戸時代を中心とした、面白い話を、探して、紹介します。

新説百物語巻之一の7、修験者 妙定 あやしき庵に出づる事

2020-04-06 10:54:46 | 新説百物語
新説百物語巻之一の7、修験者 妙定 あやしき庵に出づる事  
                                                          2020.4

越後(えちご:新潟県)の方に下った妙定(みょうじょう)と言う山伏がいた。

諸方の霊場霊社を残りなく拝みめぐったが、越後の国に到って、ある日、宿をかりそこなった。
そこで、ある寺に到って一夜の宿を頼んだ。
しかし、その夜、その寺に法事あったので、僧の泊まり人が多かった。
それで、寺の者は、山伏に
「上の山の小さい庵に、お泊まり下さい。」
と言って、夜食など与えて、寺よりは一町ほども上の小さい庵(いおり)に泊まらせた。

山伏も旅のつかれで、宵のほどは、よく寝入っていた。

八つ時(午前二時位)と思う頃に、雨がさっと降って来て、風はすさまじく身も毛もよだつばかりであった。
ふと上の方を見ると、庵の棟木(むなぎ)の上より、そろそろ這(は)い下りるものがあった。
枕元の火ですかして見れば、およそ二十四五歳の出家であった。
痩おとろえて、さかやきが長く、白い小袖を着て、首に縄の五尺ばかりなのをまとっていた。
そして、口よりたらたらと血をながしながら、山伏の寝ているあたりをはいまわった。
その顔の怖ろしさは、表現のしようがなかった。

どうすることも出来なくて、唯、心の内で不動明王の真言を唱えて、夜着を打ちかぶっていた。

そのうちに、雨風もやんで、布団から、そつと顔をさし出して見れば、最早何の姿も見えなかった。

夜も明け方になったので、寺に到って、いとまごいの挨拶もそこそこにして、足早にその場所を立ち退いた。

しかし、その時の顔の様子は、今思い出しても身の毛もよだつばかりである、
と語ったそうである。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿