天地を 照らす日月の 極みなく あるべきものを 何をか思はむ 

わびぬれば 今はたおなじ 難波なる みをつくしても あはむとぞ思う

神経細胞の成長段階

2010年04月02日 | 科学
 受精すると受精卵は細胞分裂し、増殖して胚になります。受精してから約2週間で細胞は役割分担を始め、神経細胞は約1ヶ月後、神経管に全哺乳類共通の脳を形作ります。受精から約1ヶ月半で脊髄の神経細胞がほぼ出そろい、約2ヵ月で指先まで伸びて筋肉を動かすことが出来るようになります。このころには胎児の外観もヒトらしい要素を多く備えるようになります。妊娠4ヶ月の終わり頃まで神経細胞は盛んに分裂増殖を繰り返し、この時すでに全生涯で最大の数にまで増加します。神経細胞の結合部は、実際に使われるよりも多く作られます。妊娠5ヶ月後頃からは、軸索が高速で安定した神経伝達を行えるように髄鞘化が始まります。こうして、脳の神経細胞の数は、出生直前にはだいたい決まります。

 出生後、感覚器官から入ってくる刺激が、結合部を増やし強化したり、使わない結合を消したりしながら、脳の配線を仕上げていきます。しゃべり始める1歳頃からは自分に必要最小限の体勢に整えていき、使う言語などが限定されたりします。数の定まった神経細胞を効率的に働かせるためです。こうして「三つ子の魂百まで」3歳ぐらいまでに、八割方をつくりあげます。そして、十歳頃までに、一人の人間の脳ができあがります。「物心がついた頃」一人の人間の活動に必要な大量の情報がスムーズに運ばれるためには、たくさんの神経細胞同士が連携しなければなりません。それに適した神経回路ができるのです。

 このように、人類の進化の中で環境によって規定されてきた遺伝子が、受精する環境、受精して以降の環境の中で順序正しく発現することによって、脳、神経回路が発達していきます。人間特有の脳、社会性や高次脳機能に関する神経回路は、環境に応じて成長していきます。3歳時を基盤として、物心つく頃、思春期、20代前半と成長していきます。

 とくに重要なのは、「シナプスの形成と刈り込み」です。神経細胞は誕生と同時に大量に死滅します。生後1年以内で20~80%にものぼり、神経細胞は新たに増えることなく減り続けます。これに逆行して急速に発達するのが、シナプスです。シナプスは、誕生と同時に急速に形成されていきますが、5~6歳をピークに今度は急速に消滅していき中学校を卒業する頃には大人並みの密度となり、以後ゆっくりと減り続けます。5~6歳にまでに、その環境で生きていくために必要な五感、運動神経などを最小限に定めます。1つ1つのニューロンは数千~数万ものシナプスを持つので、そのネットワーク網はまさに無限と言えますが、シナプスはせっかく出来ても使わない、そのルートを使わないでいると、やがて消失してしまいます。つまり、刺激のあるシナプスは強化されるので、情報を良く通し、脳の活動が活発となりますが、刺激のないシナプスは消失してしまうので、これが個人差となって現れます。

 新しいことを考えると神経細胞に新しい結合部(シナプス)ができます。シナプス形成によって新しい神経回路が生まれます。神経細胞の数自体は変わらなくても、シナプスが増えることによって、脳はどんどん若返ってきます。同じことをワンパターンにやっていると衰えるばかりです。

神経細胞

2010年04月01日 | 科学
 神経系を構成しているのは「神経細胞」と「グリア細胞」(神経細胞を覆っている細胞の総称)です。
 神経細胞の細胞体の構造は、他の細胞と変わらず、遺伝情報が書かれたDNAを含む「核」、エネルギーをつくり出す「ミトコンドリア」などで構成されています。核の周辺部には染色されたニッスル物質が存在し、神経細胞でも細胞体でタンパク質が合成されます。他の細胞と大きく違うのは、細胞体から長い「軸索」と、木の枝のように複雑に分岐した短い「樹状突起」が伸びていることです。これらの突起は、別の神経細胞とつながり合い、「神経回路」を形成しています。隣接する細胞に接続する数ミリメートル程度のものから、脊髄中に伸びる数十センチメートルのものまであります。
 神経細胞は、ひとつの神経細胞に複数の細胞から入力したり、活動電位がおきる閾値を変化させたりすることにより、情報の修飾を行います。神経細胞の中には、光や機械的刺激などに反応する感覚細胞や、筋繊維に出力する運動神経の細胞などがあります。

 神経細胞は、細胞体と軸索と樹状突起で一つの単位として考えて、「ニューロン(神経単位)」とも呼びます。軸索の末端は、こぶ状に膨らんだ形をしていて、「シナプス」と呼びます。シナプスは次の神経細胞と密着しているのではなく、数万分の1mmほどの隙間「シナプス間隙」があります。シナプスでは、電気信号を化学物質の信号に変えて、次の神経細胞に情報を伝達しています。電気信号が伝わってくると、シナプスにある小胞から「神経伝達物質」という化学物質が、シナプス間隙に分泌されます。神経伝達物質が、次の神経細胞の細胞膜にある受容体に結合すると、電気信号が生じて情報が伝達されます。
 軸索は、細胞内外のイオンの濃度勾配を利用して情報を伝達します。一般に、動物の体液には多量のカリウムイオン、ナトリウムイオン、塩化物イオンなどが含まれていますが、細胞外液と神経細胞の細胞質のイオン構成は通常大きく異なっていて、細胞内外で電位差があります。これらのイオンは細胞膜を透過して拡散します。
 軸索は「髄鞘(ミエリン鞘)」と呼ばれる、絶縁体の鞘で覆われています。脳の中では軸索が密集していますが、髄鞘が電気信号が混ざってしまうことがないようにしています。髄鞘は、一つごとに少しの隙間があり、軸索がむき出しになっています。このくびれを「ランビエ絞輪」と呼びます。電気信号は、くびれからくびれへと絶縁体である髄鞘をジャンプしながら伝わっていきます(跳躍伝導)。
 ニューロンの種類によっては、樹状突起の上に小さなとげ状の棘突起(スパイン)が無数にあってシナプス部位として機能しているものがあります。神経活動などによりスパインの形態が変化し、電流の流れ方が変化したり、シナプスそのものが形成・消滅したりします。このことが、神経可塑性に関連していると考えられています。樹状突起には小胞体やリボソームが存在しますが、軸索にはほとんどありません。

 グリア細胞は神経系を構成する神経細胞ではない細胞の総称であり、神経細胞を覆い、神経系の維持に関与する細胞群のことを言います。神経細胞に対し、位置の固定や栄養素の供給など恒常性の維持を担う細胞、髄鞘(ミエリン)の構成などの機能をもつ細胞、免疫系のような振る舞いをする細胞などがあります。近年、シグナル伝達への関与を示唆する証拠が見つかりつつあり、ヒトの脳では、細胞数で神経細胞の50倍ほど存在していると見積もられています。  
 グリア細胞は、神経細胞を支えたり、栄養を供給したりして神経細胞の働きを助けています。最近、グリア細胞は神経成長因子や栄養因子などを分泌しており、神経細胞の維持さらには再生にとって非常に重要であることがわかってきています。