■メロン50個「悔しい」
「メロンがないよ。お母さん」。今月10日朝、農園スタッフから報告を受けた下妻市の女性(73)は悲惨な現実を突きつけられた。ハウス内に整然と並んでいた収穫間際のメロン約50個が、ツルからハサミのようなもので切り離されていた。
女性が育てていたのは1個約1500円の高級品種「アールスメロン」。7月下旬に苗を植えて以来、茎を適度に切断したり、実が日焼けしないように新聞紙をかぶせたりして手塩にかけて育ててきた。女性は「我が子を盗まれた気分だ。どこに傷があるのかも全部分かっているほどだったので悔しくて仕方がない」と肩を落とす。
県警によると、農作物被害は鹿行地区や県西地区を中心に多発しており、今年の被害件数は9月末時点で74件に上る。昨年同月と比べると4件少ないが、農家が被害届を出さないケースもあり、実際の被害はさらに多いとみられる。被害件数は9月の15件が最も多く、収穫期を迎えた農作物を狙った犯行が多いという。
被害はメロンだけではない。9月21日頃には筑西市内の農家から梨が約1100個盗まれたほか、鉾田市の農家でも約8000株の小松菜が盗まれるなどの被害が相次いだ。他にも、ブドウやサツマイモのほか、パクチーなどの被害も確認されているという。盗品の中には市場で1キロ3000円以上で出回ることもあるシャインマスカットなどの高級品種も確認されている。犯人らはインターネットなどを通じて、売却目的で大量に盗んでいるとみられる。
県警は今春に運用を始めたスマートフォン用の無料防犯アプリ「いばらきポリス」を使った被害状況の発信や、パトロールの強化を進めていく方針だ。県警幹部は「農作物盗難は誰でも被害に遭う可能性があるという危機感をもってほしい」と話す。 JAでも対策の強化が進む。筑西市に本店を置くJA北つくばでは、出荷時期に職員と生産者が協力して夜間にパトロールを行ったり、関連施設に盗難被害防止を呼びかけるポスターを掲示したりする活動を行っているという。担当者は「農家だけで盗難を防ぐのは難しい。生産者が心を込めて栽培した農作物を、地域一体で守っていければと思う」と話した。
読売新聞