ガソリン税のトリガー条項について、岸田文雄首相は、自民、公明、国民民主の3党で協議することを表明した。鈴木俊一財務相は「国と地方で1・5兆円の財源が必要」と発言している。これまで政府は、重油や灯油が対象外になるなどとして発動に否定的だったが、導入される可能性はあるだろうか。
2022年春にも似たような議論があった。国民民主党の玉木雄一郎代表は、トリガー条項を検討するとの岸田首相の言葉を受けて、22年度予算に賛成した。
その後、自民、公明、国民民主3党の協議が行われ、4月には、「日々大きく原油価格が変動する状況では、当面、補助金による対応が機動的だ。他方、現行の補助金制度には課題がある」という旨の文書がまとめられた経緯がある。
当時はロシアとウクライナの戦争が勃発し、レギュラーガソリン価格は1リットル=160円程度だったが、さらなる上昇が懸念される状況だった。しかし、結果としてトリガー条項は発動されずに補助金政策が選択された。その後、ガソリン価格は大きく上昇することなく推移した。
現状は、イスラエルとハマスの戦闘が勃発し、中東情勢の先行きが不安視されている。エネルギー価格上昇が懸念されるという意味では22年春と似ている状況だ。
筆者は本コラムで減税と補助金との違いについて、官僚に依存しないか、するかだと論じた。トリガー条項の発動(ガソリン税減税)と補助金の違いは、大胆にいえば恩恵を受ける人の違いだ。トリガー条項ではガソリン消費者と減収補塡(ほてん)を受ける地方自治体が、補助金ではガソリン消費者と石油元売り業者がそれぞれ恩恵を受ける。ガソリン税は一般財源化しているが、実際には特定財源だった当時の惰性が働いており、その引き下げは官僚に不評だ。補助金の場合、元売りに有利なので、この点で官僚に文句は少ない。結果として、官僚の意見を聞いていると、トリガーでなく補助金が選ばれがちだ。
トリガーが採用されないことが典型だが、補助金が多いのは先進国で日本だけの特色だ。補助金と減税の比率について日本は補助金が8割程度だが、他の先進国では5割以下であった。
減税は、消費者に明快であるなど明らかに利点が多い。今回、再び自公の背後にいる官僚主義が勝つのか、国民民主の政治主導が勝つのか興味深い。
官僚主義からみれば、補助金は立派な前例であり、微修正をすることはあっても、採用しないという答えにならない。
それをどのように政治主導が打ち破るのか。自公国民の顔ぶれは22年春と全く同じである。ただし、岸田政権のレームダック(死に体)化が進む中、当時より国民民主党は分が悪い。
自公の背後にいる官僚は、財務省、経産省、国交省など手ごわい。国民民主に頑張ってほしいが、これらの強力官庁を打ち破る何か特別の秘策がないと厳しい。
歴史は繰り返すというが、秘策がなければ、以前と同じように、3党で協議したが、結論はトリガー見送り、補助金継続となってしまうだろう。
(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一) 産経新聞