ウクライナと台湾から日本が学ぶべきセキュリティー上の教訓、そしてその教訓を踏まえてどう行動に移していくべきかについてお話ししたい。
2022年2月24日、ロシアによるウクライナへの軍事侵略が始まった。軍事侵攻前、サイバーセキュリティーの専門家たちは、ロシアがウクライナの通信網などの重要インフラに大規模なサイバー攻撃を仕掛け、広範囲に被害を与えるだろうと考えていた。14年のクリミア併合だけでなく、その翌年以降も、毎年のようにロシアのサイバー攻撃で停電を含む深刻な被害を出してきた経緯があるためだ。
だが、ウクライナは、こうした度重なるロシアからの苦い経験から学び、通信や電力などの重要インフラを絶対に止めないためにサイバー防御能力を高めていった。だからこそ、侵略から2年近くたった今も驚異的な粘り強さを見せ、ロシアの度重なるサイバー攻撃をかなり防げている。
加えて、米英政府や大手IT企業からサイバーに関する脅威情報やクラウドのサービスの無償提供を受け、サイバー防御の能力をさらに向上させた。
世界経済が落ち込む中、ウクライナへの国際支援が続くのは、全面戦争、本土決戦の中でサイバー防御を確保する一番の知見を持っているのがウクライナだからだ。ウクライナを支援すれば、代わりに知見を学べ、自国や自社の防御に反映させられる。ウクライナ政府や軍の関係者だけでなく、民間企業の経営者も、戦争当初から海外の国際会議や英語メディアに積極的に出演し、自らの経験を生々しく共有してきた。
また、ウクライナの大手通信事業者であるキーウスターのコマロフ最高経営責任者(CEO)は、軍事侵攻から半年後に米ワシントンDCを訪問している。「いかなる経験も喜んで共有する」「新しい技術を試すための実験場になる」と訴えた。
想像していただきたい。自国が戦争に巻き込まれ、住んでいる町が激しいミサイル攻撃を受けている最中、海外の国際会議に足を運び、他国を助けるために情報共有するといえるだろうか。
同時に、有事における企業の役割と苦悩も考える必要があろう。平素から民間企業はサイバー戦の最前線に立たされている。有事になれば、民間企業、民間人はミサイル攻撃や暴力などのリスクにもさらされる。それでも、ウクライナの民間企業は自国にとどまり、製品やサービスの提供など、それぞれの責務を果たしている。だからこそ、経済が回り、国民の命が守られ、ウクライナ軍が戦い続けられる。
中国は、こうした状況から教訓を学び、台湾侵攻に生かそうとしていると米英の政府高官が指摘している。台湾国防部は1984年以降、中国の台湾侵攻を想定した大規模軍事演習「漢光演習」を毎年行ってきた。2021年以降は通信大手や鉄道、空港、エネルギーなどの重要インフラ企業も加わり、来るべき有事に備えようとしている。
これだけ経済活動や安全保障がITに依存するようになっている今、有事には必ずサイバー攻撃が使われる。現に、今年10月、イスラム原理主義組織ハマスのイスラエルへの攻撃直後から、100ものハッカー集団がイスラエル側とパレスチナ側にわかれ、サイバー攻撃に「参戦」している。
また、台湾有事が勃発した際、日本と台湾がウクライナのように国際支援を受けられるかどうかも見通せない。日本は国際社会から協力に値する相手とみなされるよう、役立つ知見の発信が平素から重要となる。
産経新聞