政府は、自衛隊や在日米軍施設周辺で陸上風力発電の風車建設を規制する新たな法案を今国会に提出し、成立させる方針だ。ミサイルや航空機を探知する警戒管制レーダーなどへの影響を防ぐ目的だが、風力など再生可能エネルギーを巡っては、中国など外国資本の参入が安全保障面で懸念されている。政府は安保上重要な土地の利用を規制する法律も施行しているが、実効性の確保が課題になる。
防衛省によると、現在、自衛隊の警戒管制レーダーは全国28カ所に設置されている。レーダーは、航空機やミサイルに対し電波を発信し、反射した電波を受信することで位置を特定する。レーダー周辺に大型風車が建設されれば、風車の反射波が障害となり、目標の正確な探知が妨げられる恐れがある。
航空機の運航への悪影響も懸念される。同省関係者によると、在日米軍の三沢対地射爆撃場(青森県)周辺では、風力発電に適した地理的条件から、すでに50基以上の風車が建設され、安全運航の妨げになっている。今後も300メートル近い風車建設が予定されているという。
同省は現在も防衛施設周辺で大型風車を建設する際には、事前協議を事業者に呼びかけているが、法的根拠はない。
政府が1日閣議決定した「防衛・風力発電調整法案」は、防衛相が「電波障害防止区域」を指定し、新たな風車建設にあたって、事業者に事前の届け出を義務付ける。自衛隊電波の障害になると判断された場合、事業者と対策を協議するため、建設を2年間制限できる。届け出をしなかったり、協議に応じず建設を強行したりした場合には罰金などが科される。
法案策定にあたって防衛省は当初、風力発電設備の建設を許可制にすることを目指した。だが、再エネ導入の旗振り役である経済産業省が反対し、規制は弱まった。背景には政府がカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)の実現に向けて、風力発電の導入を促進していることがある。
防衛施設周辺では、中国資本などによる土地買収が問題視されてきた。
このため、政府は令和4年、自衛隊の司令部や原子力発電所など安保上重要な土地の利用を調査・規制する土地利用規制法を施行し、これまでに25都道府県の計399カ所を規制対象区域に指定した。
外資が戦略的な意図を持って防衛施設周辺の土地を取得し、大型風車を建設すれば、日本の安全保障が脅かされる懸念がある。ただ、風力発電調整法案は施設の建設を止める強制力はなく、土地利用規制法も土地の売買規制にまでは踏み込んでいない。
防衛省幹部は「本来なら風力発電も許可制にすべきだ」と訴える。(小沢慶太)
産経新聞