避難者に昼食をふるまう大阪府派遣のキッチンカー=29日午後、石川県輪島市(彦野公太朗撮影)
能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県輪島市の避難所で、大阪府が食を通じた支援を進めている。輪島市の各避難所では県内最多の計約3千人が生活しており、府が派遣したキッチンカー5台で出来立ての食事を提供。唐揚げや豚汁といった温かい食べ物は被災者の空腹を満たすだけでなく、心の支えになっている。
1月29日の正午ごろ、約420人が身を寄せる市立輪島中学校に止まったキッチンカーの前に、お盆や段ボール箱を持った避難者が列を作った。調理担当の男性が「いっぱい食べてくださいね」と声をかけながら昼食を渡していく。
この日のメニューは「大根と鶏のうま煮丼」とみそ汁。高齢で自分で取りに来ることができなかったり、体調を崩したりしている人には、手の空いた避難者や府職員が運んでいく。
避難所の食事はレトルトやカップ麺が続きがちだ。栄養バランスの偏りと運動不足の影響による高血圧を心配していた50代の女性は「食生活は大事。ありがたいこと」と笑顔。自宅周辺は断水が続き、電気も復旧していないという坂本藍さん(44)は「作ってくれた人の温かさが伝わってくる」と語った。
キッチンカーは、輪島市の支援を担当する大阪府による「対口(たいこう)支援」の一環。現地に派遣された府職員から「温かい食べ物が足りない」という報告を受け、府が一般社団法人「地域活性化プロジェクト縁GIN」と連携し、1月16日から4台で活動を始めた。その後、さらに1台を追加した。
市内で最大の避難所となっている輪島中では2、3人のスタッフが昼300~400食、夜は約500食を目安に作っている。調理担当の蜜浦翔さん(25)によると、高齢者の避難者が多いため、当初は野菜中心の食事を提供。唐揚げが思いのほか好評だったため、揚げ物を加えるなど被災者の声を反映し、献立を工夫している。
「温かい食事と心を届けたい」という蜜浦さん。提供する際には、元気な声で「お待たせしました」「どうぞ」と一言添えるよう心がける。被災者からの「ありがとう」という言葉がやりがいにつながっているという。
市内では仮設住宅の建設が進むが、避難生活の長期化が懸念される。輪島中の避難所のまとめ役の一人、三谷みはるさん(68)は「先のことも考えられない日々が続くが、食事が安定すれば心が落ち着く」と府の支援に感謝していた。(吉田智香)産経新聞