服部先生にいただいた本。医学書院刊2100円。
出だしから素晴らしい。
有名人列伝かしらとおもって読み始めたんですが、第一章がすばらしい。
ニューヨークに赴任した服部夫妻の近所に住むハロルドさん(75年当時喜寿の77歳)の幼少期から97歳で逝くまでの生涯記。
精神科医が脳の内科医になる以前、主たる精神科医は患者との会話を重視する面接という臨床を最重要視していたとおもいます。
服部先生はそうした、いわゆる精神科医。
心理のスタッフを大切にし、こよなく愛を振る舞う一世代前の先生。
お部屋に顔を出すと、その朝あったできごとから、出会った人との奇遇なつきあいにいたるまで、瞬く間に尽きない会話がはじまります。
1975年、服部先生が医師免許を取得して数年後、結婚した商社マンとニューヨークに赴任したての頃というから、まさに生き生きとした、精神科医魂と生来の文学少女気質からのハロルドさんとの会話が想像できます。
ハロルドさんの立場で考えると、突然近所に引っ越してきた日本人主婦。どんなにうつったでしょう。
次から次へと話がはずみ、日本という異国の怪しさと児童精神科医という奇異なステータスは、どんなふうにうつったんだろう。
きっと、服部先生と出会ったハロルドさんは、地球上でただ一つの人生を77年も過ごし、神の招きをどう受け付けるかだけを考えていたはず。
それが人生最後の20年間を、服部先生と出会ってからの20年間をまた奇異なものにしたとおもいます。
ハロルドさんは、日本贔屓になっていったそうです。
医師と患者という関係ではなく。精神科医のなんたるかを知ったのかもしれません。
会話を楽しむウィットにとんだユーモアのセンスを最後まで保持されたハロルドさん。
アメリカにいちばんよい時代を生き抜いたまじめなドイツ系アメリカ人の人生。
新鮮な気持ちで読み切りました。
なお2章以降もすばらしい人物評と服部先生独特の世界観が回目見える、活字好きには堪えられない一品エッセーでした。
090310記
p.s.
表紙の絵は、ハロルドさんの筆によるものとのこと。いいなーこの風景。
フォスターの故郷が聞こえてきそうな場所なんでしょうね。