先日読み終わった、印象に残った本のご紹介。
『心臓抜き』ボリス・ヴィアン 1953年作
ハヤカワepi文庫より2001年発行 滝田文彦訳
精神科医の主人公(ジャックモール)が精神分析の実験台を求めて訪れた、片田舎のある村。
そこでは、老人の売買や動物や子供の虐待は日常的な光景となっている。
村の慣習を知らない精神科医は、「恥」という言葉をうっかり口にして、途端に殴り倒される。
恥の引受人でありまた恥辱にまみれた仕事をしている男(ラ・グロイール)は、代償として獲た金にあふれた生活をしているが、ラ・グロイールがどれだけ金を積んでも、村の人々は誰も商品を売ってくれない・・・。
精神科医は、3つ子を生んだ母親(クレマンチーヌ)と、妻に拒絶された夫(アンジェル)、そして使用人たちとともに生活している。
愛と居場所を失ったアンジェルは舟を作って出奔、母親となったクレマンチーヌは愛故のエンドレスマイナス思考に陥り、歩き始めた子供の行く末を案じて蹄鉄を嵌め、庭の木をことごとく倒し、最終的には鳥籠の中に閉じ込めてしまう。
人間社会の暗部を露出し、積極的に肯定する世界、そう考えると、「人間の業を肯定する」落語に通じるものがある。
ボリス・ヴィアンの場合、それが露悪趣味に陥らず、倫理的にもならず、シュールに、そこはかとなくユーモラスに、そしてファンタジックに描かれているところが素晴らしい。
色彩に満ちた繊細な、若干グロテスクな自然描写からは、映画を見ているように映像が浮かび上がってくる。
ゆっくりと、しかし確実に横滑りしていく思考のバランスに、乗り物酔いしたような軽い吐き気を感じた。
『心臓抜き』ボリス・ヴィアン 1953年作
ハヤカワepi文庫より2001年発行 滝田文彦訳
精神科医の主人公(ジャックモール)が精神分析の実験台を求めて訪れた、片田舎のある村。
そこでは、老人の売買や動物や子供の虐待は日常的な光景となっている。
村の慣習を知らない精神科医は、「恥」という言葉をうっかり口にして、途端に殴り倒される。
恥の引受人でありまた恥辱にまみれた仕事をしている男(ラ・グロイール)は、代償として獲た金にあふれた生活をしているが、ラ・グロイールがどれだけ金を積んでも、村の人々は誰も商品を売ってくれない・・・。
精神科医は、3つ子を生んだ母親(クレマンチーヌ)と、妻に拒絶された夫(アンジェル)、そして使用人たちとともに生活している。
愛と居場所を失ったアンジェルは舟を作って出奔、母親となったクレマンチーヌは愛故のエンドレスマイナス思考に陥り、歩き始めた子供の行く末を案じて蹄鉄を嵌め、庭の木をことごとく倒し、最終的には鳥籠の中に閉じ込めてしまう。
人間社会の暗部を露出し、積極的に肯定する世界、そう考えると、「人間の業を肯定する」落語に通じるものがある。
ボリス・ヴィアンの場合、それが露悪趣味に陥らず、倫理的にもならず、シュールに、そこはかとなくユーモラスに、そしてファンタジックに描かれているところが素晴らしい。
色彩に満ちた繊細な、若干グロテスクな自然描写からは、映画を見ているように映像が浮かび上がってくる。
ゆっくりと、しかし確実に横滑りしていく思考のバランスに、乗り物酔いしたような軽い吐き気を感じた。