2023年3月11日、久しぶりに醍醐寺へ出かけた。第57回「京の冬の旅」の特別公開が醍醐寺でも行われ、上図の如く三宝院と理性院が対象地となったからである。
三宝院は以前にも何度か特別公開を行なっていて、私自身も二度行っているが、理性院は初めてであった。というか、「京の冬の旅」の特別公開企画にて理性院が対象となる事自体が初めてであった。
それで大いに興味を持ち、嫁さんと行く予定でいたが、前日になって嫁さんが急な仕事で出られなくなり、当日は「一人でゆっくりと見学して楽しんで下さい」と送り出された。それで、原付のビーノに乗って出かけた。
醍醐寺には、2019年8月に京都に凱旋移住した直後に、報告を兼ねて一度参拝しているが、その時は仁王門の前で一礼して報告を述べたのみで退出しており、どこへも拝観に行かなかった。
それで、今回が久しぶりの拝観見学となったわけであるが、醍醐寺は、私が京都で好きな古寺四ヶ所の一なので、大学時代から何度も訪れており、上下の伽藍とも境内全域をくまなく回っている。
だから、上図の三宝院唐門(国宝)も馴染みの建物である。三宝院は常時公開されているために何度も入ったが、そのたびにこの唐門の内側も見ている。上図の外側よりも、内側から見たほうが面白い建物であることは余り知られていない。
三宝院唐門は、以前は黒漆が剥落していて古色蒼然としていた印象があったが、平成23年(2011)に修理を受けて黒漆塗が施され、創建時の姿を取り戻した。いかにも桃山期の豪壮な門、という雰囲気である。
この日は理性院だけを拝観する予定であったので、三宝院の門前は素通りして東の中心伽藍域への参道を進んだ。奥に仁王門が見えた。
歩いて行くうちに、仁王門がだんだんと近づいてきて、ぐーっと大屋根の軒下が頭上に広がってくるさまが、昔から個人的に気に入っている。何故なのかは分からないが、とにかく仁王門に向き合う一瞬の心地よい緊張感というものが、たまらなく好きなのである。
今回も、仁王門の真下で立ち止まり、頭上にぐーっと広がってくる大屋根の軒下を見上げた。見上げつつ、小さく一礼した。大学時代の昭和61年に初めて訪れた時から、毎回この所作を欠かしていないので、ここにくるとどうしても体が自然に動いてしまう。
仁王門の左右に立つ金剛力士像は阿吽の二躯とも藤原期の基準作例として名高い。上図は向かって左の吽形。
もとは南大門に祀られていた像で、長承三年(1134)に仏師の勢増と仁増によって造立された旨が銘文によって明らかである。
向かって右の阿形。藤原期の仏像彫刻史を学んだ身にとっては、重要な参考資料の一つであり、その基調概説を恩師の井上正先生が書いておられたため、何度も読んで要点は全て把握している。
日本に現存する藤原期の金剛力士像は少ないうえ、在銘の遺品ともなれば、京都府では他に峰定寺像が知られるのみである。そんななかでの、最古の在銘彫像として貴重な、醍醐寺仁王門の金剛力士像である。国の重要文化財に指定されている重要遺品だが、それが現在も仁王門の左右の開いた空間にて、風雨にさらされているのだから、個人的には本当に何とかして欲しいものだ、といつも思う。 (続く)