児童文学作家を目指す日々 ver2

もう子供じゃない20代が作家を目指します。ちょっとしたお話しと日記をマイペースに更新する予定です。

鈍くわらう

2019-01-24 | 物語 (電車で読める程度)
「鈍い」ということに関して、わたし以上に語彙力が豊富な人間はいないだろう。それはわたしが言語学者だからじゃない。世間一般からみて「鈍くない」方々からたくさんの類語のシャワーを浴びせかけられたからだ。
わたしは「鈍い」。それはこれまで出会ってきたすべてのわたし以外の人と比べて、自覚できる程度には相当「鈍い」。じゃあどうしようかと思ったとき、わたしはわたしよりもそう遠くないどこかへ意識を飛ばす。そしてここじゃないどこかから望遠鏡を覗き込んで、「お前、鈍い。」のシャワーを一心に浴びるわたしを観察するのだ。
社会から見たわたしという人間を示す「鈍い」という一面は、
すなわちわたしのすべてを示しているのだと思い詰めてしまうほど大きな要素だった。

「でも」と、望遠鏡をしまいながらわたしは考え直す。遠くでは自責の念に駆られた群衆が口々に叫んでいた。
「わたしのなかの鈍さはたしかに社会生活を営むうえで、特に働くということにおいて重大な欠陥だとおもう。」
「わたしは自分の鈍さに何度も何度も足元を掬われてるのだ。」
「これまでの努力や信頼をつまらない事で全部台無しにしてきたんだ。」
彼らは世間一般の方々の意を汲んで声高に主張した。
「謝れ、わたし」

けれども、
望遠鏡を担いだわたしは鈍く笑った。
「たしかに、ガム風船のようにしぼむ時は一瞬だけど。」
「でも、膨らむのもあっという間なんだ。」
「それはきっとわたしの鈍さのおかげ」
「皮肉かもしれないけれど、わたしはわたしの鈍さのおかげできっと明日も救われてるんだ。」
わたしの先に広がる彼方の空が鈍く光った。

【おわり】