石川 博雄(記憶の作り方)Hiroo Ishikawa (How to make the memory)

オイラと妻とチクワ(11歳めす猫)ムギ(9歳おす猫)マメカン(7歳おす猫)二人と三匹のその日暮らしアレコレ

落ちたファインダー

2006-03-16 | 独り言
富永さんのことばかり書いて申し訳ないが、富永さんに始めて実際に会ったのは、篠島です。1月3日に篠島の祭りがあり、そこで会おうということになり撮影に出かけたのです。富永さんは6人の写友一緒に民宿に泊まるので、一緒に泊まらないかと言われ、私も仲間に入れてもらった。でも女性は富永さんだけで、度胸があるなぁ同じ大部屋で寝るなんて、思いました。でも富永さんだけ個室でした。当たり前か。まぁそんなことではなく、初めて路上で顔と顔を始めてあわせて立ち話をしたとたん、胸元からコロッと落ちたのです。それはアベノン21ミリのファインダーでした。「よく落ちるのよ」と言って平気な顔なんです。大丈夫かと思い見せてもらったら、丸いファインダーの外観が奇妙にゆがんでいてレンズ部が貝状に欠けていました。覗いてみると、デスーションがひどく「なんなのこのゆがみは」こんなのは使えないなぁと思いましたが。それが今では、私の手元にアベノンの21㎜レンズと落ちてデコボコのファインダーがあります。写友が引き取ったのを、後日、無理に譲ってもらったのです。今でもファインダーはもっと奇妙にゆがんでいます。それがなかなか味があるんです。
21㎜レンズの写りは、すばらしく良く、線が細い描写です。ずーと私の手元において置きます。ずーとです。

新宿の空

2006-03-16 | 独り言
富永さんは毎晩9時30分になると電話をかけてきた。なにも伝える話はないのだが、私と馬が合ったのだろう延々と1時間以上写真を話題にしてしゃべった。でも実際面と向かってしゃべったのは、数回ほどしかなく、撮影地で偶然会っても、いつのまにかいなくなってしまう人だったから、何もないことは明白なのだが、毎晩かけてくることで妻が疑惑をもった。でもそのうち妻ともしゃべるようになり、悋気は消えていった。富永さんの写真は、人が見向きもしない打ち捨てられているような植物や物を「ここに居たんだね。私は見ているよ」というような写真です。複雑な生い立ちがあるようだが、あえて聞き出すこともなく、また聞いてはいけないような気がしたのだ。写真はその人の人間性がでてくるので、寂しい子供時代を過ごしたのではないかと推測している。その富永さんが新宿ニコンサロンで初の個展の開催が決定したのだ。その当時(2000年)ニコンサロンは京王プラザホテル1Fにあった。せまいが雰囲気がよく富永さんの写真にふさわしい会場でした。そして、その1週間前に、突然亡くなってしまったのです。人生において一番華やかな幕が開くという時に、自分から降りてしまったのでは、残念でありません。
6年たった今でも電話が鳴ると「富永です」と言う声が聞こえてくる気がしてなりません。