9月は防災月間。地震大国と言われる日本ですが、ここ最近は台風や豪雨による水害や土砂災害も増えており、災害に対する考え方や備えにも、アップデートが必要です。
全国1万2000人の母親が参加する備災講座「防災ママカフェ」を主宰する、かもんまゆさんに伺いました。
© ESSE-online 防災 災害について知り、子どもにもきちんと教えることが大切です(写真はイメージです)
まずは「敵を知る」~自宅に起こりうる災害とリスクを正しく知ろう
東日本大震災際の被災地の母親や子どもへの物資支援活動をきっかけに、その後も全国の行政団体や学校、企業などで備災講座を行ってきたかもんさん。
「防災のお話というと、どんな防災グッズをそろえたらいいのかという話を期待する方が多いです。しかし私は、家族を守りたいのであれば、『まず戦う相手を知りましょう』と伝えています。どんな相手かもわからないのに戦う武器(防災グッズ)ばかり気にしていても、適切なものを準備することはできませんから」
© ESSE-online ハザードマップ 自分の住む土地の危険度を調べておくのは重要。ハザードマップをPDFで配布している自治体も。「戦う相手」とは、自宅の周りで起こりうる災害のこと。その場所で起こりうる災害を示す「ハザードマップ」を自治体のホームページで確認したり、地形や地盤など、土地の成り立ち、そして過去にその地であった災害を知ることがとても大切です。
「同じ市や区、町でも、少し場所が違うだけで、土地の成り立ちが異なる場合もあり、起こりうる災害や規模が違ってくることも。『ここは大丈夫』などという先入観やイメージだけで判断せず、まずは正しい情報を手に入れてください」
<自分の住んでいる場所の5大リスクについて調べておこう>
・地震(揺れやすさ)・津波・浸水・土砂災害・液状化
・サイト「国土交通省ハザードマップポータルサイト ~身のまわりの災害リスクを調べる~」では、洪水・土砂災害・津波、道路防災、土地の成り立ちなどを、住所や地図から調べることができます。
●次に「自分を知る」~赤ちゃん、高齢者…家族のリスクを考える
次に考えるべきは、起こりうる災害に対し、「自分たちがどれくらいの力があるか、ないか」について。乳幼児や老人、アレルギーをもつ方がいれば、避難が困難だったり、がまんや代替え品がきかなかったりなど、リスクは高くなります。
「敵が震度7の地震だとして、自分たち家族が立ち向かう実力がどれくらいあるのか、そして弱点になりかねないところがどれくらいあるのか考えてみましょう。たとえば、普通の大人の避難に比べ、赤ちゃんや高齢者は避難をするのが大変ですし、乳幼児はミルクやオムツなど用意しなくてはいけないものも多い。障害やアレルギー、薬を飲んでいるなどの場合も、対策を考える必要がありますね。小さい子どもがいれば、不特定多数の人が暮らす避難所生活は大変。おうちの備蓄を増やし、あえて避難所に行かないという選択も考えておきましょう」
●境遇が似ている体験談を読み、被災後10日間をリアルにシミュレーションしてみる
自分の家族と似た家族構成の人が、災害時にどのような体験をしたか、テレビや書籍、講演などで見聞きし、イメージしておくのも大切です。
「たとえば避難所で困ることひとつとっても、同じ子どもとはいえ0歳と3歳では異なります。今、被災体験はインターネットなどで検索して読むことができますし、私たちの団体でもママのための防災ブックを販売しています。自分と同世代の子どもがいる家庭でどんなことが起きたのか、リアルな体験談を読むことで、『もしうちだったらどうなるのか』というシミュレーションができるようになるはず」
●「地震=タブー」にせず、普段から親子でよく話しておく
もうひとつ、子どもがいる家庭におすすめしていることがあるとかもんさん。
「地震=怖いものではなく、日本では毎日300回起きている自然の現象です。普段から地震をタブー視せず、地震や地球の絵本を読み聞かせるなど、子どもと一緒に学んでおくことが大切。地震がいきなり起こったら子どもはパニックになります。地面は大きく揺れるし、大人は怖い顔をしている。反対に、熊本や大阪の地震のときも、事前に地震はなぜ起きるのか、起きるとどうなるかを知っている子は必要以上に怖がりませんでした」
地震は家族が一緒にいる時間に発生するとは限りません。
「大阪北部地震が発生したのは朝の7時58分で、小中学生は通学途中。たった一人で被災した子もいました。子どもが親とは別の場所で被災しても大丈夫なように、子どもにも『自分のいのちは自分で守る』方法を教えておきましょう」
地震について学べる絵本としておすすめしていただいたのはこの3冊。
<子どもが地震について学べる本>
・『じめんがふるえる だいちがゆれる (かこさとしの自然のしくみ地球のちからえほん)』・『クレヨンしんちゃんの防災コミック 地震だ!その時オラがひとりだったら』・『じしんのえほん―こんなときどうするの?(地震防災えほん)』
震度7は「自分の意志では動けない」!その瞬間を生き延びるためには?
命を守るために重要な、家の中の安全の確保についてもお聞きしました。
「震度7の地震はケタ違いの大地震。安全な場所に動こうと思っても、地震の最中は自分の意志で動くことはまずできません。地震で亡くなる原因の多くは家屋の倒壊、家具の転倒による圧死、窒息死。阪神大震災では、室内で亡くなった方の9割は最初の15分で亡くなっています。事前に家の中をいかに安全にしておくかが重要です」
家具の固定、高い場所に重いものを置かないことを徹底し、家族が過ごす時間の長いリビングや寝室はとくに念入りにチェックすることが大事です。
「その瞬間は『落ちてくるものとの戦いだった』と東北のママが言っていました。その戦いを1つでも2つでも減らすためにも、家の中の家具を『落ちない』『倒れない』『動かない』ように、地震の国に生まれた子どもたちへのしつけの意味も込め、親子で相談しながら固定してほしいと思います。素足だったために、ガラスが飛び散った室内を歩けずソファの上から何時間も動けなかったという方も。こういうときのためにも、普段から薄いカーテンを閉める、スリッパを履く習慣をつけておくといいですね」
<家の中の安全を確保する>
・家具の固定(寝室ではエアコンの下に寝ない)・高い場所に重いものを置かない・避難経路にガラスが飛散しないようにする・薄いカーテンを閉める・スリッパを履く
●人間は「逃げない」生き物。避難は事前に明確なルールを用意して
最後に避難について伺いました。これからの時季に増えてくるのが台風。台風と地震の大きな違いは、事前に情報が入ること。ですが、その情報を生かしきれていない人が多いとかもんさんは警鐘を鳴らします。
「人間は『まだ大丈夫』『だれも避難していない』など、逃げない理由を探してしまう生き物。これは『正常性バイアス』といって、『自分だけは大丈夫』と思い込む、脳の危険なメカニズム。災害時にだれもが陥る思考です。だから、いよいよ避難しようとしたときには、もはや逃げられるような状況ではないといった事態がよく起きてしまうのです」
西日本水害で亡くなった方の4割は、避難することなく自宅で亡くなっていたそう。そうならないためにも、自分なりに避難のルールを明確にしておくことが大切です。
「子どものいる女性におすすめしているのが『ママ友避難』。ママ友と事前の情報をチェックして、『避難準備情報が出たら』『降水量がこれくらいになったら』など、『何時にこういう状態だったら●●に避難する』と一緒に決めておきましょう。自分たち親子だけだとなにかと言い訳をして逃げ遅れるかもしれませんが、ママ友と一緒に避難すると決めておけば、避難所でも心強いですよね」
<避難する際のルールを決める>
・ママ友やご近所と「こういう状態になったら●●に避難する」と決めておく・家族それぞれの避難場所やルールを確認し、話し合っておく
災害はいつ、どんなことが起きるかわかりません。家族がずっと笑顔でいられるように、事前の備え「備災」を進めましょう。