水道事業を「民営化」しやすくする水道法改正案が4日の参院厚生労働委員会で採決され、可決する見通しだ。海外では民営化後の失敗例が目立つが、政府は問題への対応策をとることや「自治体からの要望」などを挙げて理解を求める。だが、この民営化の必要性は依然はっきりしない。
「水道の基盤強化のために運営権の売却であるコンセッション方式が必要なのか。ほんまにわからん」。11月29日の参院厚生労働委員会。共産党の倉林明子氏は、コンセッション方式と呼ばれる今回の民営化に疑問を投げかけた。この手法は、自治体が公共施設の所有権を持ったまま運営権を長期間、企業に売却する仕組みだ。
改正案は、経営悪化が懸念される水道事業の基盤強化が主な目的。水道を運営する自治体などに適切に資産管理を求め、事業を効率化するために広域連携を進める。コンセッションを導入しやすくする制度変更もこの文脈で盛り込まれてはいるが、もともとは成長戦略の一環で政府が広めてきたものだ。
政府は空港や道路、上下水道の公共施設を重点分野に指定し、7兆円の事業規模を目標に掲げる。空港や下水道で導入例があるが、水道はゼロだ。厚労省の15年の調査では、コンセッション導入が「検討対象」と答えた水道事業者は4%だったこともあり、改正案では、自治体が給水の最終責任を負う事業認可を持ったまま導入できるようにし、導入を促す狙いがある。
ただ、水道関係者の間で導入を求める声は小さい。
厚労省は「自治体から要望があった」とするが、実際に要望書を出していたのは宮城県のみ。宮城県は水道水を市町村に「卸売り」する事業でコンセッションを検討しており、家庭に飲み水を配る市町村の水道事業とは事情が違う。新潟、福井の両県議会では改正案に反対や慎重審議を求める意見書を可決している。全国の水道事業者から業務委託を受ける水処理業者「水ing」(東京都)の鮎川正雄・総合水事業本部事業推進統括は「業界として、官民連携の推進や水道事業の基盤強化は要望してきたが、コンセッション導入は特に求めていない」という。「業務委託より自由度が広がるのでビジネスチャンスだと思う」とする一方、「リスクや責任が増え、水道料金も自由に決められず、自由度は限定的」と見る。
全国の水道事業者や関連業者が加盟する日本水道協会も「事業者それぞれが将来の事業環境などを踏まえて十分に検討することが必要で、一概に賛成・反対とは言えない」との立場だ。
旗振り役の政府は推進策を用意する。コンセッション実施を21年度までに条例で定めれば、自治体が企業からもらう運営権の対価で水道事業の借金を前倒しで返す場合、本来生じる補償金が免除される。
また、企業の参入を促すため厚労省は改正案成立後、物価変動を水道料金に転嫁しやすくする計算方法の検討を始める。政府の未来投資会議「第4次産業革命」会合(竹中平蔵会長)が、上下水道のコンセッションで、物価変動リスクをすべて企業に転嫁するのは「非現実的」とし、「一定の定義された範囲を超える物価変動が生じた場合、料金に転嫁できる仕組みが必要」と求めていたためだ。