サロンのお客様で「スケベニンゲン」と「キンタマーニ」という地名を「こんなに面白い名前があるんだよ」と大声で連呼したという強者の方がいる。
その方が半年ほど前、年齢もさまざまな男女8人で、その中の一人が持っている別荘に行った。
別荘といっても、その家は別荘地に建っているわけではなく、普通の建売住宅である。
でも空気がきれいで、何よりも水が美味しいらしい。
広い4LDKで8人でもゆったり泊まれる。スーパーも近くにある。
別荘地ではないから妙な土産物屋もない。
「いいねぇ、いいねぇ」と皆で喜んでいた。
しかしそれも束の間、あることが発覚してから、その強者がパニックに陥ったらしい。
彼女はトイレに行って帰ってくると顔がこわばっていたらしい。
「どうしたの」と聞いたら「ここのトイレ、汲み取りなんですよ」と暗い声でいう。
「ああ、そうね。懐かしいわよね」と皆が言うと「あんなトイレじゃ、私、できません!」とキッパリ言いきったそうだ。
彼女は同行した23歳の女性と妊娠7か月の女性に聞いてまわった。
「私は大丈夫です。アウトドアで慣れているし、野原でだってできますよ」
「うーーん」
仲間になれると思った若い女性にそう言われて次に彼女は妊婦に期待をかけた。
「妊娠してて便秘気味だから、どっちでも大したかわりはないんだけどね。でも水洗の方が安心して力めるわよね。汲み取りだと力んだついでに子供まで出てきちゃったらまずいじゃない。ま、そうなったら落ちないように,股ぐらに挟んじゃえばいいんだけどさ」妊婦はトイレの種類など、殆どどうでもいい状態なのであった。
「やだー、あんなトイレ」彼女は心底、嫌がっていた。
強者の彼女が、たかが、穴がぽっかりと開いてるだけの汲み取り式を嫌がるなんて想像すら出来なかった。
皆が嫌がっても彼女だけは「あーら、あたしこんなの、へっちゃらよ」と言いながら、天を仰いで笑いながら用を足すタイプだと思っていたのである。
かつて私の家のトイレも汲み取り式だった。
うちだけではなく、殆どの家がそうだった。
大雨が降ると、母から「下手をするとおつりがくるから、気をつけるように」とお達しがあり、私は競馬の騎手のような恰好で用をたした。
学校で友達がこそこそと寄ってきて「トイレにはおばけがいるんだ」と深刻そうな顔をしていったこともある。
つづく
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