短大1年の冬休み、私は近所の大手スーパーの写真関係の売り場で、アルバイトをした。仕事は写真の現像の受付である。
そこにはものすごーく暗い、まるで亡霊のような24歳の社員の女の人がいた。
ばっさばさの手入れの悪い髪を長く伸ばし、顔色も青黒くて、思わず「だ、だいじょうぶですか」と言いたくなるような人だった。
面接に行くと彼女は煙草をふかしながら、「仕事さぁ、すっごーーく、つまらんよ」と言った。
「はあ、それでもいいんです」少しでもお小遣いが欲しい私は、多少の時給の安さには目をつぶっていた。
仕事がつまらなくても別によかった。
とにかく冬休みの間に、万単位のお小遣いが欲しかったのである。
「なんだかんだ文句ばっかし言って、金を返せっていう客もいるからね」
「はあ、そうですか」
「万引きする奴もいるんだ」
「はあ、そうですか」
「あ~あ」
「・・・・・・」とにかく彼女は、ものすごく自分に与えられた、仕事を嫌がっていた。
現像を頼みにきた人も彼女が暗い顔でざんばら髪をかきあげながら、面倒くさそうに「表面はつるつるですか、それとも絹目ですかあ」と言うと、皆、怯えてのけぞるくらいなのだ。
彼女の上司として、その売り場には27歳の既婚の男性がいた。
彼女とは、うってかわって明るくて、目のクリクリした、魚屋さんのおにいちゃんみたいな元気のいい人だった。
私の顔を見て、「時給も安いし、面白くない仕事で悪いね。ま、よろしくお願いしますよ」彼はそういって、あわただしく出掛けて行った。
亡霊の話によると、この売り場はスーパーの直営ではなく、テナントの経営だった。
そして彼はその地域一帯の店の統括をしているのだった。
「年末から春先まで、結構、フィルムとかカメラが売れるのよ。だから、ここんとこ、ちょっと忙しいの」
「はあ、そうですか」
けだるい亡霊の話を私は、はあはあと聞いていた。
「明日、また新しいバイトの子が来るよ。高校2年って言ってたかな。年下だから気にすることないよ」そう言って亡霊は音もなく去っていった。
私は同年輩の女の子がきて、これで亡霊と顔をつきあわせなくても済むと、ほっとしたのだった。
翌日、売り場に行くと何となく妙な雰囲気が漂っている。
「この人たち、きのう話した新しいバイトの人」
そう言われて亡霊の傍らをみると何とそこには絵に描いたようスケバンが二人、マスクをして長いタイトスカートのポケットに手を突っ込んで、肩をいからせているではないか。
彼女達は下からすくい上げるような目つきをして「うっす」と挨拶をした。
つづく
シミ、シワ、タルミ専門店
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