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Good Times Roll

一昨年の暮れに「Cradle of Love」で記事を書いて以来の、久々の洋楽ネタ更新です。
語りたい曲やアーティストなど、構想はいろいろと頭の中にあるのですが、
悲しい哉、それを形にするエネルギーが衰えてしまっています。

その代わりというわけでもないですが、最近は車ネタに走る傾向が顕著となっております。
車ネタの記事を書き始めてから、検索エンジン経由の参照回数がグンと上がったのは事実で、
古今東西、車ネタはやはり鉄板なのだなぁと感じており、そんなこともありながら、
わたし自身としてはここ最近、楽しくブログを更新しているのですが、

しかしやはり、「80年代洋楽」こそが、おっさんのアイデンティティー。
感性および文筆が、どんなに衰えていこうとも、
約40年前、学ランを着た高校生だったわたしが、80年代洋楽の門戸を叩き、
出会った名曲、思い出の曲の数々を、今の自分の言葉で綴っていくのみです。



洋楽ネタの更新頻度は下がったが、車で移動中は相変わらず、洋楽を聞いている。
車はなぜか、全て HONDA 車。
最初は 3代目フィット(ガソリン)、その次が 4代目フィット e:HEV。
そして、思わぬきっかけから新型 CIVIC e:HEV に乗り換えて、現在に至る。

車がグレードアップすると、乗り心地や走りが良くなるのに加えて、
搭載されているオーディオシステムの性能も向上する。
特に、新型 CIVIC の BOSE プレミアムサウンドシステムで聞く音楽は、格別。

手持ちのありったけの MP3 / FLAC 音源を、USB メモリに入れてナビに繋ぎ、
全アルバムを順番に再生し、肩肘張らずに流し聞きしながら、ドライブする。
すると、意外な発見がある。
馴染みのアルバムや曲だけでなく、長年お蔵入り状態で埋もれていたアルバムが、
BOSE プレミアムサウンドで再生・復刻され、当時の思い出とともによみがえる。
これが、楽しくてしようがない。



そうやって、新型 CIVIC e:HEV でドライブ中に、約20年振りの再開を果たしたのが、
2005年にリリースされた The New Cars のアルバム 「It's Alive」である。

2005年 「It's Alive」

米国のロックバンド The Cars のヒストリーを、知る人にとって、
The New Cars という名前は、ある種、特別な響きを帯びていることだろう。

1988年に解散した The Cars の再結成を、世界中のファンが待望したが、
リーダーの Ric Ocasek にその気がなく、そうこうしているうちに、
2000年、もう一人の看板メンバーだった Benjamin Orr が病気で亡くなった。
The Cars 再結成の夢はこれで潰えたと、ファンは一様に落胆した。

そんな矢先の 2005年、新しいバンド The New Cars が結成された。
Ben は既に他界し、リーダーの Ric もノータッチで我関せずだったが、
バンドには、The Cars のオリジナルメンバー2人(Greg、Elliot)が顔を揃え、
フロントマンを務めた Todd Rundgren の面長の顔は、どこか Ric を彷彿とさせた。

アルバム「It's Alive」と同時リリースされたシングル「Not Tonight」は、
Greg のキーボードと Elliot のギターソロがフィーチャーされた名曲に仕上がり、
「Todd Rundgren is god(トッド・ラングレンはネ申)」と称賛された。
それらの新曲3曲が、ボーナストラックとして収録されている以外は、「It's Alive」は、
The Cars の往年のヒット曲+αが演奏されるライブ・アルバムとなっている。

The New Cars に、The Cars の夢の続きを見ようとしたファンは多かった。



自分も 2005年当時、「It's Alive」の CD を、輸入盤を探して買い求めた。
但し、その目的は、シングル「Not Tonight」の音源を手に入れるためだった。
「Not Tonight」以外の、ライブ演奏のトラックには、大して興味はなかった。
なので、CD を買い、「Not Tonight」を Walkman に入れた後は、あまり聞くこともなく、
MP3 音源となってパソコンのハードディスクに埋もれたままになっていた。



そして、時は隔てて 2023年。

無い袖を振って、新型 CIVIC e:HEV を購入したことがきっかけで、
「It's Alive」と約20年振りに再開することになった。

BOSE プレミアムサウンドで再生される、音の素晴らしさによる高揚感と、
あれから約20年という歳月の長さを、実感として理解できないもどかしさ。
その2つの感情の狭間で、気持ちは「心ここにあらず」となって、宙を彷徨い、
そんな状態にしばらく身を任せた(let them leave you up in the air)。

約20年振りの再開は、そんな風に、予期せず突然に訪れた。
以来、車中では「It's Alive」をヘビーにリプレイしているここ最近である。



そんな「It's Alive」には、私的な感動ポイントがいくつかある。
まずは、オープニングが「Just What I Needed」であることだ。
The New Cars 登場の幕開けに、実にふさわしい選曲だ。

「The New Cars ? 本物の The Cars とは違う偽物なんだろ?(笑)」

そんな声も、Greg のキーボードのあの旋律が鳴った瞬間、行き場を失う。
「確かに、The Cars とは違うけど、このキーボードは紛れもない本物やからね」
Elliot のギターソロで聞かせる、間奏の場面もそうだ。
「言っとくけど、このギターソロも本物やから、模造品の紛い物じゃないからね」
The Cars の歴史を知る者にとって、このグイグイ来る展開は、たまらないものがある。

2005年に「It's Alive」を買って聞いた当時は、自分はそれを分かっていなかったが、
約20年の時を経た今は、このオープニングに込められている意味を理解できる。



「It's Alive」2つ目の私的感動ポイントは、9曲目に演奏される「Drive」だ。
ベースを担当する Kasim Sulton が、素朴に訥々と歌い上げていく感じがいい。
これは、2005年に CD を初めて買って聞いたときから、印象的だった。

時は 2023年、車の中で久し振りに聞いたときも、変わらぬ感想を持った。
そのとき、自分はふと思った。
2018 年のロックの殿堂の受賞セレモニーで、The Cars が最後の演奏を披露したあのとき。
Ben の代わりを務めて、後ろに立っていたのは、Kasim Sulton だったのか。
もしそうであったとしたなら、何という運命の巡りあわせなのだろう ・・・・
そんなことを、つい想像してしまった。



「It's Alive」3つ目の私的感動ポイント。
それは、エンディングが「Good Times Roll」であることだ。
1978年に The Cars が世に出るきっかけになった曲は 「Just What I Needed」だが、
同年に出たデビューアルバム「The Cars - 錯乱のドライブ」の第一曲目、すなわち、
The Cars のヒストリーの出発地点と言ってもいい曲が「Good Times Roll」である。
ということだからだ。

let the stories be told
let them say what they want
let the photos be old
let them show what they want


記憶は 薄れていく
それは 仕方のないこと
写真は 色褪せていく
それは そういうもの

let them leave you up in the air
let them brush your rock and roll hair


それがあれば 心はあの頃へ 飛んでいける
自由奔放だった あの頃へ

let the good times roll
let the good times roll
let the good times roll


楽しかった あの頃を
素敵だった あの頃を
一緒に 思い出そうよ

アルバム「It's Alive」の(ライブ演奏部分の)ラストで、
会場の観客が声を合わせて "good times roll" と合唱する様は、感動的だ。§ ̄∠ ̄*§

The New Cars は、結果的に、いろんな意味で成功したとはいえなかった。
というのも、後の 2011年に本家 The Cars が新作アルバム「Move Like This」を引っ提げて
24年振りの再結成を果たし、それまでの全ての鬱憤、溜飲を下げたからだ。

2019年に Ric が他界して、The Cars の歩みは実質的に終わりを告げている。
The New Cars は、その歴史の谷間に一時咲いた、あだ花だったのか?
自分はそうは思わない。
来る The Cars 再結成のプロローグを奏でてくれた、思い出深いバンドだ。

何より、アルバム「It's Alive」は、オープニングの「Just What I Needed」で始まって、
ラストの「Good Times Roll」で終わるまで、The Cars へのリスペクトに満ち溢れている。

「かつて存在した、The Cars というロックバンドの世界へようこそ」
「あの頃を、みんなで一緒に思い出そうよ」

そう言って、The Cars のヒストリー全体を指して "let the good times roll" と、
その時代その時代のリスナーたちに、呼びかけ続ける。
「It's Alive」は、そのような意義深い作品であると思う。

It's Alive(playlist)
https://www.youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_nq1ouup7ieRfrfkNLqbY30OvadHr9DbeA
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