勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
(2017年4月19日)
中国、「バブル大崩壊」国民は1人も助からないという「現実」
後遺症は「数十年続く」と悲観論が浮上
万年楽観論であった中国社会が、次第に夢から覚め始めたようだ。
改革開放の1978年から実に、40年近くも不動産バブルの波を楽しんできたが、どうやらその「終点」に来たという漠然とした不安が立ちこめている。
随分と「波乗り」を楽しんできたが、問題は住宅投機の後始末が上手くつくかどうか。手持ちの住宅を高値で売り抜ければ良いが、必ずババを掴む人も出るはず。それが、「投機の掟」というものだ。
『サーチナー』(4月5日付)は、「不動産バブル崩壊したら中国人は1人も助からない」と題して、次のように伝えた。
中国で、不動産バブル崩壊のリスクについて報じた記事は、これまでほとんど目にしなかった。
それが、ついに登場した背景には、迫り来る「バブル崩壊の影」が否定できなくなったに違いない。
中国政府が、昨年暮れに「住宅は投機の対象でなく居住が目的」と当たり前のことを公式文書に書き入れ始めたからだ。
この当たり前のことが、中国では何十年も無視されてきた。
これまで、不動産バブルで大儲けした話はゴロゴロしている。
北京などの都市部には不動産市場に関する「伝説」がある。
過去に80万元(約1288万円)で買ったマンションがその後800万元(約1億2880万円)になったという話や、商売に失敗して200万元(約3221万円)もの資金を失ったものの、かつて100万元(約1610万円)で購入していた不動産に1000万元(約1億6100万円)以上の値が付いたためにビジネス上の損失を埋め合わせることができたという話だ。
こういう話も、今後は聞かれまい。逆に800万元で買ったマンションがいくら下がって借金返済に困っている。
そういう、話が巷で普通に聞かれる時代が来るのかも知れない。習氏にとっては逆風が吹くのだ。
(1)「中国メディアの『新浪』(4月4日付)は、中国の不動産バブルが崩壊した場合について考察する記事を掲載し、もしそうした事態が生じれば『中国人は1人も助からない』と論じている。
中国では不動産価格が高騰しており、一般庶民にはなかなか手が出せない価格となっているが、記事は『中国不動産バブルが崩壊すれば、家が安く買えると喜ぶ人もいるかもしれない』と主張する一方、バブル崩壊による影響を受けない中国人は1人もいないと説明した」。
バブル崩壊による影響を受けない中国人は1人もいない。
こう言いきっているが、その通りであろう。個人どころか、企業までが不動産バブルに参戦して、莫大な利益を上げてきた。
土地公有制を逆手にとって、地方政府は地価(土地使用権売買)を吊り上げてきた。それが、限界を迎えたわけで、地方政府にとっても歳入減という痛手を受けるのだ。
私は、このブログを始めた2012年5月以来、中国の不動産バブルの崩壊を一貫して指摘し続けてきた。
この間、『人民網』は随分と間違えた記事を流してきた。「
不動産バブル」という言葉を人民網が使ったのは一度だけある。
私が、その事実を取り上げたら、その後は一切、「禁句」となって記事に現れることはない。
私が人民網を「大本営発表」と揶揄する根拠はこれだ。負け戦の報道はタブーなのだろう。いくら、「中華帝国」の宣伝機関でも、経済の現実認識ぐらいは正しく持つべきだ。
(2)「その崩壊の恐ろしい結果として、まず失業率が大きく上昇すると説明。失業者が街にあふれれば社会不安につながるであろうことは容易に想像がつく。
不動産業には鉄鋼、セメント、コンクリート、ガラス、家電、家具、内装など様々な産業が直接的あるいは間接的に関わっており、不動産バブルが崩壊すれば多岐にわたる産業において給与の減少あるいは解雇が起きる可能性があることを指摘した」。
1992~2010年までの年間平均経済成長率は、10.7%である。
この背景には、総人口に占める生産年齢人口(15~59歳)比率が上昇過程にあったという「人口ボーナス」現象が存在した。
これは、同時に住宅需要を刺激して空前の住宅ブームを生んだ。
中国の場合、「ブーム」でなく「バブル」となって経済を一層、押し上げた。この間の約20年間、中国社会は不動産バブルで経済活動が常軌を逸した展開になった。
もともと、中国社会は投機好きである。
真面目にコツコツ働くよりも、一攫千金を狙う「一発屋」が多い民族である。
不動産バブルは、文字通り、中国社会に最も受け入れやすい利殖手段になった。
「過ぎたるは及ばざるがごとし」である。
物事はほどほどが一番良いが、そのように理想的な終わり方はしない。
バブルと化し、しかも長期に及んだ住宅価格暴騰である。暴騰の後には暴落がついて回るのだ。
バブルの後遺症が短期間で終わるはずがない。
それが、世界のバブルの歴史の結果である。
近くは、1929年の世界恐慌、1990年の平成バブル。ともに長い後遺症をもたらした。
中国バブルだけ、後遺症が短期で終わるはずがない。
日中のバブル崩壊の共通項は、「人口オーナス期入り」である。
労働力減少過程では、潜在成長率が低下する。この局面で不良債権=過剰債務の処理という負担がふえるのだ。
米国は世界恐慌も2008年のリーマンショック後も10年程度の停滞局面で済んだのは、移民国家ゆえに生産年齢人口比率が一定水準を維持した結果である。
日中とは、人口動態面で決定的な相違点がある。
(3)「中国は、日本のように長年にわたる景気後退を迎えることにもなる。
先進国である日本でさえその影響が長期間に及んだ。
都市化が40%に満たない段階の中国は、『中所得国の罠』に陥り、不況は数十年に及ぶだろうと指摘した。
不動産バブル崩壊のあおりを受け、給与が減少、あるいはリストラされる人が増えれば、住宅ローンが払えなくなる人も増え、結果的に不良債権が増加、そして株価も暴落することになると指摘し、結果として『われわれ中国人は1人も助からない』と結論付けた」。
「中所得国の罠」は、1人当たりの名目GDPが1万ドル前後のレベルで経済発展が停滞することを指している。
多くの発展途上国が、この段階で経済成長が止まる現象である。
中国が、2016~20年までの5カ年間の平均成長率を「6.5~7%」目標にした理由は、「中所得国の罠」を脱出する上のポイントであったからだ。
だが、17年の成長率目標は「6.5%前後」に引き下げて事実上、「中所得国の罠」脱出を諦めた形である。
ADB(アジア開発銀行)では、18年の経済成長率は6.2%と予測している。IMF(国際通貨基金)は、6.0%の成長予想である。生産年齢人口比率の低下が、成長率減速の主因である。
平成バブル時の日本企業の抱えた債務総額の対GDP比ピークは、1994年10~12月期の149.2%である。
中国は、非金融部門(企業・家計・政府)の債務総額の対GDP比が、2015年7~9月期で約250%である。
その後、さらに債務は膨張している。
となると、280%を超えているはずだ。
日本では、バブルに走ったのは民間企業だけである。
中国は、地方政府・国有企業・民間企業・家計と全部門が関わっている。それだけに、バブル崩壊の傷は日本の比ではない。
この事実は、ぜひとも記憶に止めていただきたい。
中国の不動産バブル後遺症は、文字通り「空前絶後」と言っても過言でない。
日本が「失われた20年」であれば、最低限、「失われた30年」を覚悟すべきだ。
この記事では、「不況は数十年に及ぶだろう」と指摘している。
中国共産党政治が続く限り、国有企業中心の産業構造であろう。
純粋な市場経済システムに転換するはずがないから、不況が数十年に及ぶだろうというのも、あながち否定できないのだ。
「われわれ中国人は1人も助からない」という指摘は、決して誇大表現ではない。バブルと共に発展し、バブル崩壊と共に衰退する。これが、中国経済の辿る道であろう。
『レコードチャイナ』(3月26日付)は、「不動産バブルは終了か、多くの都市でもう値上がりしないー専門家」と題して、次のように報じた。
(4)「中国メディア『財経網』(3月25日付)は、国家金融・発展実験室の李揚(リー・ヤン)理事長が、中国の多くの都市で不動産がこれ以上値上がりすることはあり得ないとの見方を示したことを伝えた。
李揚理事長は、『中国では現在、十数カ所の都市で住宅価格が上昇しているが、大部分の都市ではもうこれ以上値上がりすることはあり得ない。
現在の都市ごとの規制政策は不動産リスクに対応する効果的な方法だ。
銀行の観点から見てもこれは良いことだ』と述べた。さらに李揚理事長は、『多くの事柄をさらに研究する必要があり、中国の不動産はもうすぐ崩壊して、中国経済の崩壊につながるというというのは言い過ぎだ』と主張した」。
国家金融・発展実験室の李揚(リー・ヤン)理事長が、中国の多くの都市で不動産がこれ以上値上がりすることはあり得ないとの見方を示した。
これは、政府の金融関係のトップの発言であるから、信憑性がある。単なる、憶測による発言ではない。事実、住宅金融は引き締めに向かっている。
『ロイター』(3月15日付)は、次のように伝えている。
(5)「中国で15日、新たに山東省青島市と江蘇省南京市での住宅市場規制が発表された。規制が導入された都市はこれで20以上となった。
青島市では非居住者の場合、少なくとも1年間地方税や保険料を継続的に支払っていることが条件となり、不動産売買は1軒に制限される。
青島新聞網によると、1軒目と2軒目の頭金の比率は各10%ずつ引き上げられ、それぞれ30%、40%となる。
3軒目については住宅ローンが利用不可になるという。
これらの規定は16日から発効する。同紙は、非居住者による不動産投資が増え地方市場でリスクが高まっていると指摘。『市場予測を緩やかに誘導する』ために『合理的で非常に必要な措置』だと述べた」。
この記事によれば、住宅ローンの条件を引き締めている。だが、「1軒目と2軒目の頭金の比率は各10%ずつ引き上げられ、それぞれ30%、40%となる。3軒目については住宅ローンが利用不可」とは、明らかに投機目的の住宅購入を前提にしている。
日本では考えられないビヘイビアである。ここまで投機ムードがまん延している中国だ。バブル崩壊後の衝撃の大きさは、この事実だけでも十分肯ける。