日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
韓国、「保守派虐め」過去に執着し未来語らぬ「文政権」のリスク
保守政権の過去を糾弾
米中二股外交の危険性
(2018年1月13日)
文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、過去の保守派政権の弱点を暴き出すことに必死である。
「積弊一掃」の名の下にあらゆることが批判対象になっている。
日韓慰安婦合意の検証作業もその一環だ。ともかく、二代続いた保守党政権のあら探しに夢中である。
「悪い保守党」というイメージを確立して、今年の地方選挙で与党勝利を目論んでいるとしか考えられない振る舞いだ。
1月3~4日は、それを象徴するパフォーマンスが見られた。
3日に開かれた経済界の新年挨拶会に文在寅大統領が参加しなかったのだ。
大韓商工会議所が主催するこの行事は、企業家や政・官界はもちろん駐韓外交使節まで集まって経済活性化を確かめる場でもある。
1962年に始まったこの行事に大統領が参加しなかったのは今年を含めて4回だけという。
国会の弾劾訴追で朴槿恵(パク・クネ)前大統領が参加しなかった昨年に続き、2年連続で気の抜けた行事になったという。
文大統領の不参加理由は、政経癒着の輪を断ち切るという意志の表れと受け止められている。
韓国経済界が、新春で一同に会することはまたとない機会である。
大統領の欠席で、「韓国経済頑張ろう」という檄を飛ばす機会を逸した。
「反大企業主義」が鮮明の文政権である。
経済界は萎縮仕切っている。
こういう状況で経営者が前向きの設備投資や賃上げに取り組むとは思えない。
政府からの「攻撃」に身をすくめているのだ。
経済が不調であれば賃上げも不発になって、最終的には政府の責任となる問題だ。
こういう理屈が分からず、ただ「反大企業」で感情的な対応をしているに過ぎない。狭量な振る舞いだ。
一方、4日には元慰安婦8人を青瓦台(大統領府)に招請して昼食会を開いた。
国賓待遇と同じ厚遇で迎えたのだ。
この日、昼食会で文大統領は
「政府がおばあさん(元慰安婦)たちの意見を聞かず一方的に進めた内容と手続きが全部誤っていた」として
「おばあさんたちの意思に反する合意をしたことに対して大統領として謝罪の言葉を申し上げる」と話した。 経済界には素っ気なくしっぺ返しをしながら、翌日は元慰安婦を大統領府に招待する。
どう見ても、一国大統領の振る舞いではない。
大衆迎合が紛紛とする「低俗な大統領」と言わざるを得ない。このポピュリズムが、今のところ見事に成功しているのだ。
現職を含む歴代大統領の好感度調査で、文在寅大統領が35%の得票で昨年9月末から単独でトップを維持しているのだ。
文大統領に続き2位は26%で朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領、3位は20%で盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領となった。
世論調査専門機関のリサーチビューは1日に昨年12月28~30日の3日間にわたり調査をした結果を発表したもの(『中央日報』1月7日付)。
これだけ国民の人気に神経を払っている大統領は珍しい。
ひたすら、国民のご機嫌伺いに徹しているからだ。こういう政権が、韓国の将来にどのような負荷を与えるのか。有識者からは批判が上がっている。
保守政権の過去を糾弾
『朝鮮日報』(1月7日付)は、「過去ばかりで未来を語らない韓国政府」と題する寄稿を掲載した。筆者は、朴晟希(パク・ソンヒ)梨花女子大コミュニケーションメディア学部教授である。
筆者は、韓国の女子大学では最も有名な梨花女子大の女性教授だ。
言葉は優しいが核心を突いた厳しい批判を展開している。
韓国にこうした「良識派」が存在することに、安堵する面もある。
政治は未来を語ることが仕事であると指摘している。
文政権は、保守政権の過去を穿り返すという司法的なジャンルのことに夢中だ、と批判する。
韓国国民は、未来を語らない政権に拍手喝采を送っている。
ちょうど、「反日」で盛り上がる韓国世論を反映したものだ。
韓国の「事大主義」がそうであるように、全てが後ろ向きの思考に囚われている。
私は、こういう国家が発展できるはずがないと見る。
(1)
「世間を観察して分類することを楽しんだアリストテレスは、人間の言葉も3つに分類した。
過去にあったことを語る司法的ジャンル、
現在の価値を論じる提案的ジャンル、
そして、未来の政策を語る政治的ジャンルだ。
法廷では事件の当事者が過去の事件をめぐり、過去時制で争う。
これに対し、政治家は未来のビジョンを未来時制で示す。
彼らが売るのは夢と政策だ。格好良く聞こえるが、実現するかどうかは分からない。
それは政治家の言葉が虚しく聞こえる理由でもある。
政治家の意思疎通というのは、共同体のビジョンを共有する未来志向的な内容でなければならないが、彼らは依然として法律家のように過去にこだわり、裁判官のように断罪することに余念がないようだ」
アリストテレスは、人間の言葉を3つに分類した。
① 過去にあったことを語る司法的ジャンル。法廷では事件の当事者が過去の事件をめぐり、過去時制で争う。
② 現在の価値を論じる提案的ジャンル。
③ 未来の政策を語る政治的ジャンル。政治家は未来のビジョンを未来時制で示す。彼らが売るのは夢と政策だ。
前記3つの分類によれば、文政権は①の司法的なジャンルに没頭しており、
③の未来のビジョンを語らず、「積弊一掃」などとトンチンカンなことを大真面目にやっている。
慰安婦という過去の問題では、日本へさらに「謝罪せよ」と強制する。
北の核問題では、日米韓の強力な同盟結成という明確な指針も出せずに右往左往する。
これが、現実の文政権の素顔である。明確に、未来を語れるビジョンを持たないのだ。
(2)
「昨年新政権が発足したが、時間は過去にとどまったままだ。
青瓦台(大統領府)の古いキャビネットの中の書類、国家情報院の過去の資料が掘り出され、裁判所のパソコンのファイルも閲覧された。
建設中の原子力発電所の工事を中断させたまま、世論調査に時間を浪費した。
過去の政権による国際的な協定を『重大な欠陥』として世間に示し、歴代大統領の政策履行プロセスや過去のさまざまな行いが連日ニュースをにぎわす。
そうした言葉の羅列は韓国社会を過去に縛る呪文であることを現政権は知らないようだ」
このパラグラフは、強烈に文政権を批判している。
過去の問題を穿り返して、政治的なエネルギーを向けている。
だから、未来ビジョンを何ら出せずにいるのだ。
韓国の大学生の就職難解決のカギとして、韓国外交部の第2次官を日本に派遣し、協力を求めるという無様なことを恥ずかしげもなく行なっている。
自国内で就職問題を解決できない韓国が、日本の過去の問題を引っ張り出して騒ぎ立てて批判する。
つまり、日本を批判しながら、日本へ支援を求めているから不思議な行政感覚である。
韓国政府は、これを「ツー・トラップ」外交と呼んでいるが、日本からすれば不快きわまりない行為である。
(3)
「過去に関する論議が未来を圧倒する社会は、希望への出口が塞がれた社会に等しい。
そんな社会は過去と現在をピンポン球のように行き交うばかりで、PM2.5(微小粒子状物質)の問題よりも気がかりだ。
国民の税金で月給を払う公務員の数を増やす政策は、それなりの論理があるとしても、結局は我々が持てる資源を我々の中で回転させる政策にすぎない。
未来世代の負担について、政府が明確に説明したことはない。
最低賃金を引き上げ、正社員を増やす政策について、『我々は今後どうなるのか』と尋ねる商工関係者は多いように思える。
彼らの未来についても政府は説明を欠く。未来に関する論議に責任を持つのが政治家本来の任務だからだ」
「積弊一掃」という保守党弾圧政策は、過去の政治を詮索して犯人をつくり出そうという魂胆だ。それで野党勢力を押し込め、次回大統領選挙を有利に戦おうという野望に基づいている。
こうして、韓国の未来を語るビジョンは出ないのだ。
せいぜい、非正規雇用を正規化する。
公務員を増員する。
最低賃金を2020年までに時給1000円にすると言うが、
それを可能にする生産性上昇という具体案はない。
「反大企業」を鮮明にしているから規制を強化して、世界の潮流に逆行する行為をしている。
文政権が、中国や北朝鮮に親近感を持つのは、思想的に共鳴する部分が多いからだ。
つまり、「反資本主義」で通底している。
(4)
「未来が見えない韓
半島情勢の中で、国民は『戦争が起きればどうするのか』と政府に問う。
政府は核戦争に備えた訓練はむしろ不安をかき立てるとして、訓練はしないという。
国民が提示した未来論議を政治が拒否した格好だ。
遠いハワイで北朝鮮の核攻撃に備えた訓練の実施を決めたのは、訓練をしないよりも住民の生存可能性を高めるためだ。
韓国国民は未来の生存を心配しているが、政府は国民の生存率を高めるいかなる青写真も示せずにいる」
韓国大統領府は、「86世代」に支配されている。
前のパラグラフで指摘したように「反米・親中朝派」である。
だから、中国と北朝鮮への神経の使い方は異常なほどピリピリしている。
言いたいことも言わず、ひたすら「ご機嫌伺い」という卑屈な姿勢である。
北のミサイル開発に対する危機感も希薄である。
日本がいち早く危機対応策をとっていたにも関わらず、無策を通している。
韓国政府が、危機対応策をとると北を刺激する。こういう、理解不能はことを言っているのだ。
この理屈は、北核問題が米朝の関係という捉え方をしている結果だろう。
韓国政府は無関係であるゆえ、北が韓国を攻撃するはずがないという論拠だ。
仮に、米朝の軍事衝突が起こって、韓国に被害が出ても文政権に責任はない、と言い張って責任回避の腹積もりであろう。
文政権は、あくまでも未来ビジョンを語らない無責任な政権である。
(5)
「昨年発足した新政権が新鮮だとは思えなかったのは、前を見据えて行ったことよりも、過去を見て行ったことの方が多かったからだ。
新年は政治家が政治家らしい言葉を駆使し、未来を直視した前向きな言葉であふれる1年になってほしい。
場当たり式ではなく、外へと延びる政策を目にしたい。内部で消耗されるエネルギーは、国家を拡張する方向に使ってほしい。
今年が過去の延長となるか、未来の出発点となるかは視線をどちらに向けるという選択にかかっている」
文政権が、未来に焦点を合わせた政治をするとは思えない。
「積弊一掃」の旗印を立てて、革新政権を後2期程度続けて、保守派を根絶やしにする戦略を練っている。
そのためには、過去の保守党政治家の発言を徹底的に洗って事件化する。
そういう驚くべき野望を持っているからだ。
この問題は、このブログで紹介した。結局、韓国は過去の問題を穿り返すだけに終わり、前へ進めないであろう。
朝鮮李朝が自滅したように、現代の韓国政治は内輪もめで衰退する公算が強いと判断する。
文政権に見られる混乱から抜け出すには、「親中朝」という立場を捨てて、民主主義陣営の一員として生きる覚悟を決めることだ。
「親中朝」は、過去の延長である。
これこそ「積弊一掃」の対象になる事柄だ。
今さら、共産主義国と密接な関係を持つことが、韓国の経済と安全保障にプラスになるとは考えられなくなってきた。
中朝の抱く野望に気づくことだ。
中国は、ますます横暴になっている。
韓国が、中国と縁を切り米韓軍事同盟一本で行く姿勢を鮮明にすれば、中国は逆に韓国へ低姿勢になるはずだ。
韓国の後ろに米国が控えていることで慎重になる。
韓国は現在、米中の間をさまよっている。
中国はだから、韓国虐めをして中国陣営に引き寄せる策略を練っているのだ。
韓国は、過去1000年も中国の属国であった。
それだけに、中国は韓国を扱いやすい国と見ているのだ。
この錯視を断ち切るべく、韓国は旗幟を鮮明にすることだ。
米韓軍事同盟を再構築して、「中朝」と距離を置くことである。
それが、韓国の最善の生きる道となろう。
米中二股外交の危険性
『朝鮮日報』(1月7日付)は、「米中双方に尊敬されない韓国外交」と題する寄稿を掲載した。
筆者は、米下院議員のジェイ・キム=韓国名・金昌準(キム・チャンジュン)氏である。
筆者は、朝鮮戦争後に米国へ留学した移民一世である。
米下院議員になっており、米国から母国韓国の外交政策に大いなる不安を感じている様子が窺える。
米国は、朝鮮動乱で3万6000人の兵士が命を落として韓国を防衛してくれた。
その事実を忘れて、文政権が「親中朝派」であるのは信じがたいことであろう。
米国から母国の外交の不甲斐なさに忠告しているのだ。
(6)
「韓半島の歴代の王朝は中国に朝貢し、世子(せいし)の冊封まで中国皇帝の許しを得なければならなかった。
中国の臣下であるかのように視線をうかがい、そんな国家関係が体にしみつき、中国を怖がり、息を殺して暮らした。
中国は自分たちの必要に応じ、巨大な姿を現し、韓国に筋肉を振るい、脅すことをためらわない。
終末高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備するなという要求を聞かないからという理由で、中国が取った不当な報復措置を見てほしい。
もし米国が同じことをしたならば、すぐに光化門広場が反米デモ隊で埋まったはずだ。
米国は太平洋の向こう側にあり、中国はすぐ横にあるからだろうか」
韓国人は恩義を忘れた振る舞いをしている。
侵略者の中朝に親近感を持ち、韓国を防衛してくれた米国に反感を持つというあべこべの心理状態である。
なぜ、こういう逆立ち現象が起こったのか。
歴史的な「事大主義」と「民族主義」(南北統一)が織りなす、素朴な感情論であろう。ここには、民主主義や自由主義への高い評価は存在しない。
(7)
「文在寅大統領の中国公式訪問中、韓国の記者団が無残と言えるほど暴行を受けた様子を見て、私は憤りと心の痛みを感じた。
外国人記者を暴行するというのは、国際儀礼からみて想像できないことだ。
もし彼らが米CNNの記者だったならば、あれほど激しく殴打したか疑わしい。
この醜態をこのままなかったことにしてはならない。
国際社会に訴え、国連や国際ジャーナリスト連盟(IFJ)などを通じ、公式に抗議することが望ましい」
韓国は、保守・革新を問わず歴代政権が中国を恐れている。
歴史的に属国にされてきた恐怖感がDNAとして残っているに違いない。
同じ属国であったベトナムの独立精神を見るがよい。はるかに、堂々としている。
韓国の「負け犬根性」には腹が立つほどおどおどしている。
ところが、日本へは逆の態度を取るから不思議である。二重人格としか思えない振る舞いである。
(8)
「国際社会で一つの国として存在する限り、安全保障は単独で構築するものではない。
また、個人間にも同志と友人がおり、同志のために共に苦難を経験し、死を共にすることもある。
それが義理というものだ。
国家間にも当然義理があるべきだ。
我々は国家間のそうした義理を『同盟』と呼ぶ。
日本は原爆で数十万人が死んでも過去の傷を埋め、現在は米国と強力な『安全保障パートナー』になった。
どれだけ周囲を見回しても、韓国には米国ほどの同盟国はない」
韓国は、米韓軍事同盟があるにもかかわらず、安保面で中国に依存するような「二股外交」を行なっている。
これには、「バランス外交」という妙な心理が働いている結果だ。
南北統一をするには、中国の協力を取り付ける必要がある。
こういう意識が働いているのであろう。
だが、韓国一国の力で南北統一ができるはずがない。
米国の強い後ろ盾があって初めて可能にある。
こういう国際的な認識がなぜできないのか。そこが、外交音痴な証拠だ。
東西ドイツの統一も国際情勢の激変過程で実現したもの。西ドイツの外交力だけで実現したわけでない。旧ソ連崩壊があったからだ。条件の熟するのを待つほかない。
(9)
「現在韓国の現実からみて、中国は韓国にとって最大の経済パートナーであり、米国は国防同盟を結んだ安全保障パートナーだ。
中国と米国はいずれも韓国の国家利益に核心的な影響を与える重要な国だ。
だからといって、米中両国の間でバランスを取ろうとして、あいまいな姿勢を取れば、どちらからも尊敬されない状況を招きかねない。
韓国にとっては中国との経済協力も重要だが、米国が韓国と血を分けた同盟である事実を忘れず、安全保障と経済で何が優先なのかをはっきりと認識することが重要だ」
韓国の「バランス外交」は、盧武鉉氏が言い始めたものだ。
そうは言っても彼は、米国依存の外交路線を捨てなかった。
文氏には、「86世代」という強力な「反米・親中朝派」がプレッシャーをかけている。
米国へ感情的な反発が渦巻いている集団だ。
米軍が光州事件(1980年)で韓国民衆の蜂起を抑えたのが理由だ。
光州事件が成功していれば、民主派が韓国政治の実権を握り南北統一を可能にさせた。
米軍がそれを妨害した、と信じているのだろう。
余りにもナイーブな発想である。学生運動家上がりの考えつくことだろう。
「86世代」は、学生運動家上がりの闘士である。火焔瓶を投げて民衆闘争を支えた猛者である。
その彼らが、南北統一を夢に描いているのだ。
現在が、その絶好の機会と見て反米を煽っているに違いない。
この一握りの偏向集団によって、韓国の運命を狂わせてはならない。
文政権には、こうして外交的に極めてリスキーな行動をとる恐れがある。
(2018年1月13日)