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韓国、「新不況産業」少子化で大学経営難「日本留学」促進策へ

2018-01-23 16:50:51 | 日記
勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。



2018-01-23 05:00:00

韓国、「新不況産業」少子化で大学経営難「日本留学」促進策へ

3割強の大学淘汰論が登場

大卒就職率が高卒を下回る


日本人の8割強は、韓国の慰安婦合意見直しを拒否するという世論調査が発表された。

韓国政府の「ゴールポスト」を動かす外交政策が不評を招いたものだ。

日本で、「嫌韓ムード」が高まっているのは当然としても今後、一切の交渉に応じないという強い姿勢を示せば十分であろう。

韓国外務省も日本の空気を読んで、「慰安婦合意問題で新たな要求はしない」とトーンダウンした。

今日のブログは、日韓の大学を巡る問題に焦点を合わせた。実は、日韓ともに少子化の影響で、大学の定員割れが起こっている。

日本でも、自分の卒業した大学の学部や学科が消えてしまうという例が出かねない状況である。

こうなると、韓国の大学事情が他人事には思えなくなる。韓国から大挙して日本へ留学してくることは、「歓迎」すべきことかもしれない。

大学教育における「日韓併合」が、新たな形で進む可能性が出てきた。

「嫌韓」と言わず、長い目で見るべきだろう。

日本にとっては、大学経営と企業の求人難の緩和という二つのメリットが期待されるからだ。

韓国では、すでに「経営不良大学」が指定され、自助努力で改善しない場合は認可取り消しもありうるという政策が進行中だ。

全国38校の国立大学についても政府が評価を行い、下位5校を「構造改革重点推進国立大学」に指定し、総長直接選挙制の廃止、学科の統廃合や改編、大学間の統廃合などの構造改革を求め、これを履行しなければ最悪の場合、入学定員の削減や予算減額などの措置を行なうというのだ。

これは、2011年当時の議論だ。最近では、韓国の大学数を100校(現在340校余)に絞るべき、とする議論が出始めている。

卒業して就職もできない大学を定員割れで放置しておく必要はない、としている。

大学を卒業しても約1年、就職できない現状は異常である。

このミスマッチを取り上げて、大学が教育を間違えているというのが、先の100校淘汰論の根拠だ。

この議論は乱暴である。就職難の責任は、企業の活性化を阻害している政府の企業規制にもある。

また、労働市場を改革して流動性を高めることが必要だ。終身雇用や年功序列を廃止する政策を取れば、韓国では新規部門への進出が容易となろう。

そうなれば、就職率も上がるはずだ。こういう議論が素通りである。議論が現象面だけに集中して、その原因についてはノータッチなのだ。

3割強の大学淘汰論が登場

『中央日報』(1月15日付)は、「大学を100校に減らすべき、軽く聞きながすべき話ではない」と題する社説を掲載した。

韓国政府は、日本よりはるかに強制力を以て大学の廃校を命じるようになっている。

日本では、学生定員が大幅に満たない大学について、国・公・私を包含した整理案を検討してところだ。

韓国は、学生定員割れが大きい大学について、単独で閉校させるという点で日本と異なっている。

韓国方式がいいのか、日本方式がいいのか、にわかに結論を下せない。

(1)「韓国において、大学構造調整の必要性は昨日今日のことではない。

持続的な学齢人口の減少で新入生が定員割れを起こす大学が増えている。

ここに大卒失業者を量産する『学歴と雇用のミスマッチ』が深化して、大学教育に対する根本的なメス入れが避けられない状況だ。

尹増鉉(ユン・ジュンヒョン)元企画財政部長官が数日前のマスコミインタビューで、『全国の大学を100校程度に絞る構造調整が強く推進されるべき』と強調したのもこのような理由からだ。

韓国の大学は専門大136校を含めて340余校に達する。これを100校に減らすというのは容易なことではないが、決して軽く聞き流すべき話ではない」

大卒失業者が「量産」されているのは、大学教育にも一班の責任はある。

工学部教育では実技を教えず、学外の塾で別途、学ばせるという非合理なことを行なっている。

実技も覚えずに卒業する「工学士」が誕生するのだ。日本の工学部教育では、実技もしっかり教え込んでいるから、大きな違いである。


韓国政府は、韓国の大学4年次を日本の大学に留学させる案を検討している。

外交部・教育部・労働部の3部(省)が、合同で韓国の56大学に説明会を開いたほどだ。

韓国の学生は留学して日本の大学を卒業する形になるが、日本の工学部で実技をしっかりと学ぶのだろうか。ただ、修得単位数だけを揃えて、「日本の大学卒」では羊頭狗肉になりかねない。

韓国が、大学100校を整理するとすれば、約3分の1が整理対象になる。

これは、ドラスティックな合理化策である。先ず、大学教員が大量に失業する。

この知的集団を「無」にするのは、大変な人材の損失であろう。

こういう荒療治をする前に、韓国の産業構造を変える努力が先決であろう。

「第4次産業革命」と言われる時代において、大学教員という最高の頭脳を活用できない政治とは何か。厳しく、その責任を問うべきだ。


(2)「昨年、4年制大学163校が定員割れを起こした。5年後の2023年には人員を補充できない大学入試の定員が16万人にのぼる。学生不足で限界状況を迎える大学の続出が避けられない。

教育部が一昨日に廃校の認可を下した大邱(テグ)未来大がその一つだ。

大学専門大で初めて自ら廃校の道を進んだ大邱未来大は昨年の新入生補充率がたった34.8%だった。

登録金(授業料)の収入が3分の1になった大学がちゃんとした教育をできるわけがない。廃校は当然の手順だ。

4年制大学の中では大邸外大、韓中(ハンチュン)大、西南(ソナム)大が昨年10月に教育部から閉鎖命令を受けた。自主的に廃校した大学は建東(コンドン)大など3校にすぎない」

韓国では昨年、4年制大学163校が定員割れを起こした。率にして48%である。

日本の私立大学(581校)では昨年、39%が定員割れになった。

一昨年の定員割れが45%であったから一見、改善された形であるものの、入学定員数を減らしたことが定員割れ比率を少なくした理由だ。

こう見ると、日韓ともに大学は厳しい「冬の時代」である。

ただ、韓国では日本より少子化の進行が早いだけに、否応なく「日本の大学」依存を強めるに違いない。


この現実は、冷静に受け止めるべきだろう。日本は、「嫌韓」感情もさることながら、将来の人材確保を考えると、韓国の大学生3年生を大量に日本への留学生として受け入れるメリットが大きいのだ。

その理由を、整理しておきたい。


① 日本の大学が定員割れを起こしている以上、4年次の留学生でも受け入れることが経営的に楽になる。

② 日本の企業は、韓国留学生の求職活動によって求人範囲が広がる。日本留学で少なくも1年間は日本語の研修を受けており、言葉の面での壁が低くなる。

③ 日本の労働力確保が可能になる。高度の知識を習得した人材を日本に迎え入れることは、必ずプラスになるはずだ。


(3)「定員割れ大学廃校の動きが始まっているが、この程度の速度では目の前に近づいている人口絶壁の危機を乗り越えることはできない。

教育部が、ことしから推進する2周期大学構造改革評価は定員縮小が目玉だ。

構造調整が緩やかになった点で懸念される。

定員縮小よりは定員割れ大学の数を減らしていくほうに方向を定めてこそ正しい。

定員割れ大学が自主廃校することができる退出経路づくりを急がねばならない理由だ。大学構造調整は今や選択ではなく必須だ」。


韓国が、定員割れ大学の廃校を急ぐことは、韓国の将来に暗雲をもたらすであろう。

高等教育は、国家経済の宝になるからだ。

日本では、大学教育の無償化に向けた一歩を踏み出そうとしている。

私は、拙著『バブルで衰退する中国 技術力で復活する日本』で、大学教育の無償化を提案した。

一国経済における生産性向上の必須条件は、その国家が教育費を対GDP比で増やしている国ほど、有利な状況になっているのだ。

これは、OECD統計で立証されている事実である。教育の公費負担増は、生産性向上として果実を生む。


日本では、この大学授業料無償化について随分、見当外れの議論をしている。

遊びほうけている大学生の授業料を国家が面倒見ることはない、としている。

勉強しない学生の授業料を無償にする必要はないが、「人材教育」という広い視点で見るべきなのだ。

極論すれば、4年間大学で学んだことは、最低限一つや二つは身についているはずである。

社会へ出て、必ず「応用能力」として発揮されるであろう。

大学の学部生を「エリート教育」にしてはいけない。北欧が、この理想型に移行しており、民主主義を定着させ経済を発展させる上で、高等教育が果たす役割が極めて大きいのだ。


韓国は、この大学教育の効果を政治自らの「改革放棄」で投げ捨てている。

大学での教育成果を自国経済の発展に利用できず、日本へ留学させて日本の経済発展に供しようとしているのだ。

こういう視点で眺めると、韓国からの大量の日本留学生は大いに歓迎すべきことかも知れない。韓国から日本経済発展に必要な人材の援軍が来るからだ。


大卒就職率が高卒を下回る

『中央日報』(1月14日付)は、「高卒よりも働き口得られない韓国の大卒者」と題する記事を掲載した。


韓国では、「大学を出たけれど」という就職難が襲っている。

高校卒の就職率が大卒のそれを上回っているほどだ。

大卒の就職難は、韓国経済の底流が冷え切っていることの証明でもある。

韓国の経済システムでは、金融と労働が最も遅れた分野として国際的にランキングされている。

いずれも70位台に低迷している。

2017年世界経済フォーラム(WEF)において、韓国の金融市場成熟度は137カ国中74位。労働市場効率性(73位)と共に国家競争力を大きく引き下げている主犯だった。

理由は、政府の規制が厳しいことである。これが、韓国の大卒就職市場に大きな負担になっている。これは同時に、韓国の経済成長の足を引っ張っている要因である。


文在寅政権は、歴代の保守党政権よりも一層、規制を好んでいる。

「反大企業」を旗印に掲げており、およそ経済政策の本流を外れたことに執着する政権である。

その結果、大卒の就職難がさらに厳しくなっており、日本への大量留学=日本企業就職に救いを求めているのだ。


(4)「大卒以上の高学歴者の失業率が高卒の失業率を上回った。大卒者が希望する働き口を確保できず、高学歴失業者が増えるなど学歴と雇用のミスマッチが本格化したものだ。

統計庁がこのほど発表した経済活動人口調査結果によると、2017年の大卒以上の高学歴者の失業率は4.0%。高卒者の失業率3.8%より0.2ポイント高かった。

大卒以上の失業率が高卒より高いのは、現在の方式で失業率の集計が始まった2000年以降で初めてだ。統計庁はこの日、『社会全般の高学歴化と大卒以上の求職者の希望の高さの問題が複合的に作用したためとみられる』と説明した。昨年全体の失業率は3.7%だった」


韓国で、学歴と雇用のミスマッチが本格化しているのは、経済政策の失敗に他ならない。

日本が、アベノミクスによる雇用の大幅改善は、経済政策が成功したから起こっている現象である。この伝で言えば、韓国の「規制第一主義」が大卒の職場を奪っている最大の原因であろう。


韓国国民は、「積弊一掃」という文政権のアドバルーンに惑わされて、味噌も糞も一緒にして朴槿恵政権批判で溜飲を下げている。

これは、同時に大学生から職場を取り上げていることなのだ。前政権も褒められた存在でなかったが、現政権よりはましな存在であった。

規制緩和への動きがあったからだ。若者に職場を提供できない政府は、それだけでも負の存在と言えよう。



(5)「今回の調査で大卒以上の失業者数は50万2000人に達した。全失業者102万8000人の半分ほどを占める。

2015年に42万5000人だった大卒以上の失業者数は2016年には45万6000人に増えた。

これに対し2016年に44万3000人だった高卒失業者数は昨年40万9000人と3万4000人減少した。

このため4.1%だった高卒失業率は3.8%で低くなった。

ソウル大学行政大学院のチョン・グァンホ教授は、『大企業や金融業界のように大卒以上が好む雇用は減っているが、中小企業など相対的に雇用余力がある部門では大卒以上の高学歴者が就職を望まない雇用のミスマッチが明確になっているため』と説明した。

これまでは高卒の失業率が、大卒以上の失業率より少し高いのが一般的だった。

2000年から2016年まで両グループの失業率を比較すると、2002年に3.7%で同率を記録したのを除くと継続して高卒の失業率が高かった」


大卒以上の失業者数が、50万2000人もいる。

全失業者102万8000人の半分ほどを占めているのだ。

大卒者の失業者50万人は、ちょうど年間の大卒者に匹敵している。

この人々が、静かに就職の機会を待っているのも奇妙に見える。

これは、旧李朝まで続いた「科挙」試験の名残であろう。

科挙試験では何年でも浪人して官僚になるのが普通であった。この感覚で、時期の到来を待っているとすればなんと、悠長なことかと呆れる。



「大企業や金融業界のように大卒以上が好む雇用は減っている」ことが、大卒失業者を生んでいる理由だという。

これは、先に私が指摘したように、韓国の金融と労働の分野での規制が厳しいことの裏返しであろう。

企業が新分野へ進出したくても、非効率分野の解雇ができないゆえに、新規採用を行えないのだ。

労働市場の活性化とは、激変する産業構造に合わせて労働力の再配置を容易にさせることである。

決して、労働者の切り捨てでなく、新産業を起こす上で不可欠な手続きである。

この分かりきった理屈が、韓国ではどうしても通用しないのだ。日本でも、その傾向が強い。




(2018年1月23日)