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韓国、「危機リスク」先行指数低下が暗示「家計債務に時限爆弾」

2018-01-29 13:36:27 | 日記
勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。



2018-01-29 05:00:00

韓国、「危機リスク」先行指数低下が暗示「家計債務に時限爆弾」

消え去った景気の上昇力

3回目の経済危機接近?


韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、平昌五輪で南北合同チームが編成できると得意満面である。

一方、国内では南北合同入場へ反発が大きい。文氏の浮ついたムードに、冷水を浴びせかねない、「景気の暗雲」が近づいている。

韓国景気に関する景気のOECD先行指数と、韓国統計庁が独自に算出している景気先行指数が、いずれも低下し始めているからだ。

この両先行指数の低下は、韓国景気が18年後半から落ち込むシグナルである。


平昌五輪で国民の不信を買い、さらに景気が落ち込む事態になると、文政権の支持率に悪影響の出るのは不可避。6月には地方選挙が行なわれる。文氏にとって、これから神経の休まらない季節が始まる。

私は、昨年12月8日のブログで、「韓国経済、『屋台骨揺らぐ』半導体市況に異変『来年前半が岐路』」と題する記事を書いた。どうやら、韓国景気はその方向に歩んでいるようだ。この記事では、半導体市況の下落と韓国企業の業況判断が悪化している事実を挙げておいた。要点は、以下の3点である。



① 景気の先行指数の循環変動値が、8月以降、101.8、101.6、101.3と下落。

② 製造業の平均稼働率が、8月から3カ月連続で低下。

③ 建設受注が、9月から2カ月連続で減少している。

これらデータの悪化は、韓国経済の先行きを占う上で、極めて無視できない悪材料になってきたと、指摘したのだ。


韓国景気の現状は、前記のような下降線上に接近しつつあることを確認させるものだ。


消え去った景気上昇力

『韓国経済新聞』(1月22日付)は、「OECD景気先行指数、38カ月ぶり100を下回る」と題する記事を掲載した。


景気循環では、先行・一致・遅行の3指標がシグナル役を果たしてくれる。経済は、必ず「山あり谷あり」で循環を繰り返えすものだから、いち早く「先行指数」の動きに注意を払えば、その6ヶ月後くらいに「一致指数」(景気の現状)へ反映することを把握可能だ。

その後、時間を置いて「遅行指数」に影響が出るというサイクルを描く。この、景気変動の循環性に着目すれば、景気予測が外れることは減るはずだ。


この記事では、OECDの観測している「一致指数」と韓国統計庁が発表する「一致指数」の二つが、同時にピークをつけて下降状態にあると指摘している。

この状態になれば、韓国景気が今年上半期中にピークをつけることは不可避と見られる。文大統領の願望を無視して、景気の実態はダウンするのだ。

韓国政府が、この状況を正しく理解すれば、まだ対策を打てる時間はある。労働市場の改革など行い、労働市場の流動化を促進する。あるいは、最低賃金の引上げ幅を圧縮するなどの緊急対応も俎上に上がろう。問題は、韓国政府にそれを行なう勇気があるかいなかである。


(1)「今年の韓国経済に対して楽観的な展望が相次ぐ中で、経済協力開発機構(OECD)で景気下降が予想される指標が発表された。

韓国統計庁が発表した景気先行指数も3カ月連続で下落し、景気回復に『警告』の信号が灯ったのではないかという懸念の声が出ている。

OECDによると、韓国の昨年11月基準の景気先行指数(CLI)は99.9となった。OECD景気先行指数は6~9カ月後の景気の流れを予測する指標だ。100を基準としてそれを上回ると景気拡大局面、下回ると景気後退局面と解釈する」


今年の韓国経済について、楽観論を流してきたのは文政権である。私は、逆に警戒論に立ってきた。文政権の経済政策が、全てあべこべであるからだ。企業への規制を強め、大企業への法人税を引上げるという中で、経済活動が活発化するなど期待できるはずがない。


OECD先行指数は、昨年11月に基準値の100を割った。韓国統計庁の先行指数は、昨年9月から連続して低下している。こうなると、韓国景気がタイムラグを置いて、一致指数の下降は不可避となった。二つの先行指数が同時に下降状態にあることは、指数特有の「ダマシ現象」とは言えない。


前述の通り、韓国ではこの先行指数の下降を重視していない。驚くほど鈍感である。警戒警報のサイレンが鳴っていることに気づかないとすれば、韓国政府は相当の「景気音痴」と酷評されても致し方ない。

(2)「韓国のOECD景気先行指数は、2011年7月(99.7)から2014年10月(100.0)まで3年以上100を超えていない。

そうするうちに2014年11月100.2で100を上回った後、着実に100以上を維持してきた。特に、昨年2月から3カ月間100.8となり、最も高い水準を維持したが、その後下降して昨年11月100を下回った」


先行指数は、景気の方向性を示すだけである。景気の厚み(成長率の高さ)を表示するものではないことに留意したい。

この前提で、OECDの景気先行指数を見ると、2014年11月から昨年10月まで100(基準値、好不況の分岐点)を上回っていた。

確かに、現実のGDPもそれを示唆している。だが、昨年11月に100を割った。一方、後のパラグラフで示されているように、韓国統計庁の景気先行指数は、昨年9月から100を割っているのだ。景気の一致指数が下降局面に入るのは時間の問題であろう。


(3)「韓国統計庁の先行指数は、昨年9月以降3カ月連続で下落した。統計庁は景気後退局面を予告すると解釈するのは時期尚早の判断だと明らかにした。

だが、専門家たちは半導体など一部業種の輸出好調に力づけられた景気好転がいつまで続くか確信することが難しい中で、内需消費増加が本格化しなければ今年上半期を頂点に景気が下り坂に入る可能性もあるという懸念の声も出ている」

昨年9月以降、韓国統計庁の先行指数が100を割っている事実を軽視してはならない。これは、「ダマシ現象」とは言えず、景気の下降は確定的と見るほかない。景気の楽観論は、政府が無策の言い訳に使っているとしか思えない。景気は「勢い」である。

いったん、「勢い」を失ってしまうと、後はダラダラと下落するものである。最近の韓国の失業率増加は、景気に「勢い」を失い始めている兆候と見るべきだろう。


すでに、韓国景気は「失速」を予測させる局面にさしかかっている。これに、駄目押しをするのが、各国での金利上昇である。これが、韓国へ波及すれば、家計債務の重圧に悩む韓国経済へのショックは相当なものになろう。


3回目の経済危機接近?

『韓国経済新聞』(1月22日付)は、「各国の国債金利が急騰、韓国の家計負債が爆弾になるか」と題するコラムを掲載した。筆者は、ハン・サンチュン客員論説委員である。


この記事は、かなり専門的である。私のコメントだけでも読んでいただきたい。

要約すると、韓国は、世界の「家計負債7大脆弱国」に分類されていること。また、韓国の負債返済能力を示す元利金償還負担率は7大脆弱国で最も高い、という事実である。

これは、韓国経済が重大な欠陥を抱えていることを示している。「3回目の経済危機」に陥る危険性が極めて高いと言い換えても良い。
(4)「各国の国債金利が急騰している。今年に入り米国債10年物金利は25bp(1bp=0.01ポイント)急騰した。

同じ期間にドイツと日本の国債金利もそれぞれ8bpと3bp上がった。各国は慌てている。

世界の負債が、開いた口が塞がらないほど途轍もなく増えたためだ。今年初めに国際金融協会(IIF)が発表した『グローバル負債観察報告書』によると、昨年9月末基準で世界の負債は233兆ドルに達することが明らかになった。世界の人口を76億人と仮定するならば1人当たり3万ドルに達する大きい規模だ」


長いこと、長期金利が低迷していたが、最近にわかに急騰に転じている。

米国の法人税率が、今年から21%に引下げられた結果、当面の財政赤字拡大によって国債増発が見込まれるためである。

昨年9月末で世界の負債は233兆ドルにも上がっている。世界人口1人当たり、3万ドルにも達する計算だ。世界経済は、危険な状態に入りかけていることを忘れてはならない。


(5)「世界の負債はさらに増えると予想される。各国の景気が回復しても負債償還能力が大きく改善されないためだ。

特に韓国のように銀行の利己主義まで重なり、政策金利と市場金利よりも貸出金利が速く上がる国では、国債金利上昇を契機に負債がまた別の負債を呼ぶ

『らせん形悪循環局面』に陥る可能性が高い。

世界の負債が過度に多くなれば最も懸念される逆効果は『通貨政策伝達経路(通貨供給→金利下落→総需要増加→景気浮揚)』がまともに作動しなくなることだ。その結果、金融と実体が別々に動く『二分法経済』に置かれ金融緩和をしても金融圏だけで回る現象が発生する」

世界の負債は、今後も増える見込みである。韓国の銀行は、利ざや確保が最優先の経営スタイルを貫いている。

これは政府が、銀行経営に規制を加えて、手数料を得られるビジネスを縛っていることにほかならない。

韓国の経済システム評価で、銀行が70位台にある理由は、政府の規制が厳しいことの反映である。

こうして、韓国は国債金利=長期金利の上昇が、貸出金利全般に波及する時間が極めて短い特質を与えられている。このパラグラフでは、これを「らせん形悪循環局面」と呼んでいる。貸出金利上昇が、新たな債務をつくるという意味でもある。


世界の負債が過度に多くなれば、逆に金融緩和効果が損なわれる事態になる。

金融緩和が実体経済を刺激しなくなり、金融だけが空回りする局面に移行する。世界経済は、こういうリスクに直面している。

このリスクを防ぐには、どこかで負債増加を断ち切る政策が求められる。

その意味で、米欧の通貨当局が金融引締めを旗印にすることは合理的判断である。よって、金利引き上げは避けられない。こうした前提に立って、韓国の家計負債問題を捉えなければならない。


(6)「韓国のような新興国の国債金利も上昇している。上昇速度で見るならば金融危機以降で最も速い。

韓国は家計負債7大脆弱国に分類されている。国際決済銀行(BIS)が家計負債の健全性を評価する信用ギャップ(GDP比家計負債比率がホドリック・プレスコット・フィルターで求めた長期傾向から抜け出した程度)が3.1ポイントで注意(2ポイント未満が普通、2~10ポイントが注意、10ポイント以上が警告)段階だ」


韓国は、世界の「家計負債7大脆弱国」に数えられている。これは、家計債務の対GDP比の高さが尺度になっている。問題は、その家計債務の対GDP比が、一定期間に急速に上がっていることだ。実は、韓国が急速に上がっている最大国である。家計債務の圧力が大きくなれば、家計破産が起こるのだ。

(7)「韓国の負債返済能力を示す元利金償還負担率は7大脆弱国で最も高い。低所得層であるほど深刻だ。

家計負債が多く低所得層であるほど負債償還能力が落ちる環境で国債金利上昇を契機に貸出金利がさらに上がれば貧富の格差が拡大する。相対所得仮説によると低所得層は高所得層より消費性向が高いので景気まで鈍化する懸念が高い」

韓国の可処分所得に対する元利金償還負担率は、7大脆弱国で最も高いという不名誉な事実がある。これは、低所得層であるほど深刻な事態になる。

今後に予想される長期金利上昇が、低所得層に与える影響は大きい。こうして家計債務の対GDP比の増加は、金利上昇によって一段と家計を圧迫し、消費を切り詰めさせるはずだ。韓国の経済成長率は鈍化必至である。


韓国景気の先行指数が、すでに反転している現実から逃れられない。その上、世界の長期金利上昇基調がもたらす影響によって、韓国が「家計負債7大脆弱国」のトップゆえに、浅からぬ傷を受けるであろう。本日のブログは、こういう結論になった。



(2018年1月29日)