勝又壽良
Thursday, March 7, 2019 5:00 AM
建国70年、中国が遭遇する7つのリスクと韓国経済への影響
中国経済に迫る4つの重力
ソ連は満69年で没落した
習氏が掲げた7つのリスク
韓国経済への波及が現実化
北京では3月5日から、年1回の全人代(国会)が開催されています。
全国から集まった代表の宿舎には、今年始めて鉄条網が張られ、厳重な警戒体制が敷かれています。
今まで見られなかった現象です。全人代では李克強首相が、最初に政府活動報告を行ないました。
その際、横に座る習近平国家主席は李首相と目も合わせない冷たい仕草が写真とともに報じられました。
両氏の「不仲」が理由のような内容でした。
実際は習氏にとって、厳しい政府活動報告であることに忸怩(じくじ)たる思いがあったのでしょう。
昨年の全人代で習氏は、中国の指導者として絶対的な存在でした。
国家主席の「2期10年」の任期制限を撤廃させ、終身支配への道を固めていたのです。
「習近平思想」なるものまで掲げて他の追随を許さない立場を固めました。
しかし、あれから1年後の現在、習氏を取り巻く環境は大きく変っています。中国経済が、急減速に見舞われているからです。
昨年の春から始った米中貿易戦争が、大きな影響を及ぼしたからです。
中国経済に迫る4つの重力
私は、米中貿易戦争はきっかけに過ぎないと判断しています。
それ以前に、中国経済が景気循環上で、設備投資循環(約10年周期)と在庫循環(約4年周期)が重なる下落局面にあることです。
さらに、不動産バブル崩壊に伴う過剰債務が、「雪崩」のように覆い被さっています。
ここへ、米中貿易戦争が加わりました。
要するに、4つの重力が中国経済へ一度に集中して加わったと見るべきでしょう。これでは、中国経済が急減速して当然です。
米中貿易戦争は、3月中に予想されている米中首脳会談で決着の見通しが強まっています。
中国経済に加わっている重力の一つが消えるだけです。また、米中貿易問題がこれで「一件落着」ではないのです。
中国が、米国との約束を守らなければ、米国は一方的に関税を引き上げること。
その際、中国は報復できないという協定ができれば、中国にとって手足を縛られる状態になります。
米中貿易戦争は、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した2001年以来、WTOルールを破ってきた総決算と見るべきでしょう。
中国が、WTOに加盟できた裏には米国の強い支援がありました。
それにも関わらず、WTO規則破りの常連国となり、技術窃取するという「悪行」の数々を重ね、GDP2位の経済にまで上り詰めたのです。
このまま放置すると、米国の国益を損ねるという切羽詰まった末に起ったのが、米中貿易戦争の本質でしょう。
こう見ると、中国経済の運行軌道に赤信号が灯ったというべきです。
WTOルールの完全履行を迫られる中国経済は、従来の速度を落とさざるを得ず「慣性の法則」が働き、大きな衝撃が加わります。
「慣性の法則」について、卑近な例で説明します。乗り物が急停止すると乗客は前方に倒れそうになります。
乗客は「慣性」によって前に動き続けようとしているのに、乗り物が止まってしまうからです。
中国経済は、改革開放政策(1978年)以来、過剰債務のレールを走ってきました。
その結果が、対GDP比で約300%といわれる総債務残高を抱える事態になっています。
この状態を改善するためには、債務返済を優先すべく経済速度を落とさざるを得ないのです。
習近平氏は2012年の国家主席就任以来、逆に経済成長を優先しました。
自らの権力基盤を固めるには不可欠だったのでしょう。
これが、現在の中国経済にもたらした成長優先という「慣性」です。急減速によって、その衝撃は倍加されているのです。
ソ連は満69年で没落した
中国は、今年10月で建国70年を迎えます。
中国が手本とした「ソ連」は、建国満69年で崩壊しました。
戦争をして敗れ崩壊したのではありません。
「ソ連式社会主義」経済が行き詰まったのです。
中国は、「中国式社会主義」を標榜しています。中国式社会主義とソ連式社会主義とは、質的にどこが異なっているでしょうか。
共通点を上げます。
1.専制主義
2.軍事優先
3.領土拡張
4.市場軽視
ソ連と現在の中国は、驚くほど一致点が多いのです。
習近平氏は、毛沢東崇拝主義者ですから、習近平時代になれば毛沢東=ソ連型経済へ回帰して当然です。
私の持論ですが、習近平氏が国家主席にならず、李克強氏がなっていたとすれば、鄧小平→胡錦濤→李克強とつながり、中国は軟着陸に成功したかも知れません。
歴史に「if」はありません。
江沢民氏が、習氏を強引に国家主席へ指名した結果、経済は大きく左旋回したのです。
江沢民氏は皮肉にもその後、習氏から排斥されました。江氏は、任期途中で習氏を追放する計画が露見したからです。
ここら当たりにも、中国経済混乱の芽はありましたが現在、その混乱の芽は大きくなってきました。
中国は、建国70年を迎えるに当たり、旧ソ連と同じ矛楯を抱えています。
経済危機が、政治危機になるという専制政治特有の構造に直面しているのです。
民主国家であれば、経済危機は政権交代をもたらすだけです。
中国(ソ連も)は、共産党独裁ゆえにこれに代わる政党が存在しません。ここに、経済危機は政治危機に直結するリスクがあります。
習主席と中国共産党上層部との間に、一種のにらみ合いが生まれている。
専門家は、こう指摘しています。
習氏が過去1年、共産党の最も有力なメンバー380人で構成する党中央委員会の全体会議(中全会)を開いていないことが原因です。
習氏は開催を延期することで、幹部に諮らずに政策を独断で動かすことができました。
過去数十年を見ると、中全会は毎年秋に会合を開き、全般的な政策目標を了承することが多かったのです。
習氏は、この慣例を無視したと批判されているのです。
習氏は今年1月に党幹部を集め、中央党校でセミナーを開きました。
ここで幹部らの「気持ちの緩み」や「能力不足」を痛烈に非難したそうです。
また、経済的リスクをそのまま放置すれば、社会不安につながる恐れがあるとし、ゆくゆくはそれが党の評価に影響を与える可能性があると警告しました。
まさに、経済危機が政治危機になるという点を強調したのです。
一方、この話を聞かされる党幹部には不平・不満があるはずです。
習氏が「中全会」も開かずに少数幹部で政策を決めながら、今になって幹部らの「気持ちの緩み」や「能力不足」を痛烈に非難するのは見当違いも甚だしいからでしょう。
ここら当たりが、習氏の限界でしょうか。
習氏が掲げた7つのリスク
習主席は1月21日、前記の中央党校セミナーで、中国が「7つのリスク」に見舞われていると言及しました。以下に、それを羅列します。
1.個人消費の低迷
2.地方政府の債務急増
3.不動産企業などの債務不履行
4.失業者の拡大
5.大規模な抗議デモの発生
6.米中貿易戦争
7.世界覇権を狙う中国当局に対する国際社会の反発
旧ソ連は、満69年で崩壊しました。
中国は現在、建国後69年6ヶ月目です。
計画経済のもたらす矛楯が、溜まりに溜まっています。
具体的には過剰債務の重圧です。
ソ連崩壊は、米国との軍拡競争について行けず経済的な破綻が引き金となりました。
中国も世界覇権を狙って、米国との軍事力の差を縮小すべく軍拡中です。その点では、中国もソ連と似た状態になって来ました。
最近の国防費の伸び率とGDPの伸び率を示します。
国防費 GDP
16年 7.6% 6.7%
17年 7.0% 6.9%
18年 8.1% 6.6%
19年 7.5% 6.5~6.0%
軍事費が、GDP成長率を上回る伸びを続けています。
このことから、中国が軍拡に力を入れていることは疑いありません。
何が目的でしょうか。
台湾の「軍事解放」が当面の目的でしょう。
中国人民解放軍は、習氏の国家主席在任中に、台湾へ軍事力行使するというコンセンサスがあるようで、「早く戦争したい」と燃え上がっています。
この戦意昂揚のためにも軍拡に力を入れるとすれば、ますます「ソ連」と同じ道を歩む危険性が高まります。
前記の「7つのリスク」について、取り上げます。
1.
個人消費の低迷
文字通り、不動産バブルによる超高値の住宅を購入して、家計が高額住宅ローンを抱えていることが原因です。
毎月のローン支払いが、可処分所得を減らしているので、個人消費の低迷は当然でしょう。
2.
地方政府の債務急増
政府のインフラ投資は、多くが地方政府の財源調達によって行なわれました。
中央政府の財政バランスが崩れなくても、そのしわ寄せは地方政府が抱え込みました。
その資金は、「融資平台」という金融業務と土木事業を兼ねた特殊な公的企業に調達させました。
多くは高利資金です。
景気刺激が目的のインフラ投資のために、採算性を度外視しており、資金返済が滞っています。デフォルト(債務不履行)の融資平台が出てきました。
3.
不動産企業などの債務不履行
不動産バブルといわれるほど不動産は超高値になった結果、住宅需要が息切れするのは時間の問題でした。
当局も企業も不動産バブルが半永久的に続くと錯覚していました。
こうして強気経営を貫き、債務をテコに業況拡大を図ったのです。その強気の連環が、家計の過剰債務の重圧で切断されたのです。
4.失業者の拡大
個人消費や住宅販売が不振になれば、その影響は広範囲にわたります。
ここには自動車不振が入っていませんが、不動産と自動車でGDPの40%相当になるという試算があります。
失業者が増えるのは当然でしょう。
5.
大規模な抗議デモの発生
春節が終わって、労働者が地方から帰ってきたら、職場が消えていたという例は珍しくありません。
労働者に早めの休暇を出して帰郷させ、その後にメールで「解雇」通知が届く高等戦術を用いた企業のケースが報道されています。
また、退役軍人が年金などで不満を訴えデモ行進しています。これに、他の不満分子が合流すると面倒なことになります。
6.
米中貿易戦争
これは、心理的な不安要因を国民に広く伝播しました。
中国最高指導部の民族主義者は、「中国は世界一」と煽っていますが、誰もそんなことを信じる者はいません。
世界一の米国と貿易戦争して、勝ち目があるわけでないのです。これが、中国で萎縮ムードをかき立てました。
7.
世界覇権を狙う中国当局に対する国際社会の反発
世界覇権を狙うという習氏の発言は、もともと国内向けであったはずです。
景気付けに言った程度の軽い意味だったと思います。
習氏が、こうして「中国7つのリスク」に数えているほどですから、意図しなかったブーメランに驚愕しているのです。
中国は、もともと「大言壮語」の国です。
それにしても、習氏の言葉は度が過ぎたものでした。
米国が、中国の軍拡と重ね合わせて、「世界覇権論」の危険性を再認識したのは当然でしょう。
米中貿易戦争において、米国が容赦なく中国を攻め立てているのは、将来の禍根を断つという意味もあるのです。
ここで、米国が徹底的に中国を叩く戦術は致し方ないのです。中国というよりは、習氏の身から出たサビでしょう。
以上の7つの項目を見ると、習近平氏がすべて原因をつくっています。
不動産バブルも、習近平氏が国家主席に就任した2012年から再度、燃えさかったものでした。
胡錦濤政権では、不動産バブルの終息に向けて引締め政策を行ないました。
ようやく鎮火したと思ったら、習政権がバブルに火を付けて、高い経済成長率の目標を掲げたのです。
こうして、中国全土が大規模な不動産バブルに巻き込みまれました。
中国が、500億ドル以上も貸付けている南米のベネズエラは1月23日、社会主義を掲げるマドゥロ現政権の退陣を求める大規模なデモが行われました。
中国当局は、これに強いショックを受けたようです。
中国共産党中央政治局常務委員、党内序列5位の王滬寧氏は1月24日、党内に向けて、習近平国家主席の政治思想を学習する必要性を訴え、「最悪の状況に備えるべきだ」と述べました。
王滬寧氏といえば、習氏の側近で民族主義者とされています。
「一帯一路」計画を立てた張本人です。領土拡張に最も熱意を持つ人物とされています。
中国が、「第二のベネズエラ」となる危機感を持ったこと自体に驚かされます。
中国最高指導部は、ベネズエラの騒ぎに「明日は我が身」と構えざるを得ないところに、潜在的な危機感の大きさを示唆しています。
韓国経済への波及が現実化
中国経済は、今年の経済成長率目標を6.0~6.5%に設定しました。昨年は6.5%前後でしたから、下限を0.5%ポイント引き下げました。
当局は、6.0%は割らせないと「マジノ線」にしています。
仮にそうとしても、不動産バブルの崩壊という重大性を勘案すると、前記「7つのリスク」のうち1~5までは来年以降も続きます。
米中貿易戦争の関税引上げが、正常に戻っても前記のリスクは簡単に消えません。
今年の成長率が6.0%を割らないとしても、来年以降は6%を割り込むのは不可避でしょう。
来年以降の経済成長率が、さらに落込んでゆくとなれば、中国が輸出第1位の韓国経済にとっては重大事になります。
米中貿易戦争で中国は、米国から半導体輸入を増やすと申し入れています。
これが、韓国輸出のエースである半導体にさらなる負担をもたらします。
「メルマガ33号」で取り上げましたが、次のような影響が出てきます。
「米中の貿易交渉過程で、中国が今後6年間に2000億ドル相当の半導体を輸入すると提案したと報じられています。
米国が現在、中国に輸出している規模の3倍を超える金額と言われます。
年間平均では333億ドルになります。
米国からの半導体輸出は現在、約100億ドル程度です。
こうして、米国への割り当て増加分だけで、韓国の半導体輸出は200億ドルも食われます。
昨年、韓国からの半導体輸出は、1267億ドルでした。ここから、200億ドルが米国にシェアを取られる計算になります。約17%に相当します」
韓国へは以上のような影響が出てきます。
当面の半導体輸出では、すでに顕著な影響が出ています。
半導体輸出は、全輸出の20%以上を占めていますが、
中国向け輸出だけに限定しても、中国の経済成長鈍化などの影響で2月は、前年同月比17.4%も減り、
4カ月連続で減少しました。
半導体の輸出全体は、2月に前年同月比24.8%も減少しました。3カ月連続の減少です。
世界金融危機の真っただ中だった2009年4月のマイナス26.2%以来、最大幅の減少となったのです。
次に、韓国の輸出全体の動向を取り上げます。
2月の輸出では、前年同月比マイナス11.1%を記録し、2016年2月のマイナス13.4%以来、3年ぶりの大幅な減少でした。
昨年12月から3カ月連続で減っており、減少幅も大きくなっています。
韓国経済を支える輸出不振は、GDPを押し下げます。
もともと内需がマイナス寄与で、成長率の足を引っ張る存在となっています。
韓国経済牽引役は唯一、輸出しかありません。
その中でも、好採算の半導体輸出伸び率がマイナス状態では、GDPの伸び率は楽観できません。
韓国経済は、中国経済の影響を大きく受ける体質となっています。
Thursday, March 7, 2019 5:00 AM
建国70年、中国が遭遇する7つのリスクと韓国経済への影響
中国経済に迫る4つの重力
ソ連は満69年で没落した
習氏が掲げた7つのリスク
韓国経済への波及が現実化
北京では3月5日から、年1回の全人代(国会)が開催されています。
全国から集まった代表の宿舎には、今年始めて鉄条網が張られ、厳重な警戒体制が敷かれています。
今まで見られなかった現象です。全人代では李克強首相が、最初に政府活動報告を行ないました。
その際、横に座る習近平国家主席は李首相と目も合わせない冷たい仕草が写真とともに報じられました。
両氏の「不仲」が理由のような内容でした。
実際は習氏にとって、厳しい政府活動報告であることに忸怩(じくじ)たる思いがあったのでしょう。
昨年の全人代で習氏は、中国の指導者として絶対的な存在でした。
国家主席の「2期10年」の任期制限を撤廃させ、終身支配への道を固めていたのです。
「習近平思想」なるものまで掲げて他の追随を許さない立場を固めました。
しかし、あれから1年後の現在、習氏を取り巻く環境は大きく変っています。中国経済が、急減速に見舞われているからです。
昨年の春から始った米中貿易戦争が、大きな影響を及ぼしたからです。
中国経済に迫る4つの重力
私は、米中貿易戦争はきっかけに過ぎないと判断しています。
それ以前に、中国経済が景気循環上で、設備投資循環(約10年周期)と在庫循環(約4年周期)が重なる下落局面にあることです。
さらに、不動産バブル崩壊に伴う過剰債務が、「雪崩」のように覆い被さっています。
ここへ、米中貿易戦争が加わりました。
要するに、4つの重力が中国経済へ一度に集中して加わったと見るべきでしょう。これでは、中国経済が急減速して当然です。
米中貿易戦争は、3月中に予想されている米中首脳会談で決着の見通しが強まっています。
中国経済に加わっている重力の一つが消えるだけです。また、米中貿易問題がこれで「一件落着」ではないのです。
中国が、米国との約束を守らなければ、米国は一方的に関税を引き上げること。
その際、中国は報復できないという協定ができれば、中国にとって手足を縛られる状態になります。
米中貿易戦争は、中国がWTO(世界貿易機関)に加盟した2001年以来、WTOルールを破ってきた総決算と見るべきでしょう。
中国が、WTOに加盟できた裏には米国の強い支援がありました。
それにも関わらず、WTO規則破りの常連国となり、技術窃取するという「悪行」の数々を重ね、GDP2位の経済にまで上り詰めたのです。
このまま放置すると、米国の国益を損ねるという切羽詰まった末に起ったのが、米中貿易戦争の本質でしょう。
こう見ると、中国経済の運行軌道に赤信号が灯ったというべきです。
WTOルールの完全履行を迫られる中国経済は、従来の速度を落とさざるを得ず「慣性の法則」が働き、大きな衝撃が加わります。
「慣性の法則」について、卑近な例で説明します。乗り物が急停止すると乗客は前方に倒れそうになります。
乗客は「慣性」によって前に動き続けようとしているのに、乗り物が止まってしまうからです。
中国経済は、改革開放政策(1978年)以来、過剰債務のレールを走ってきました。
その結果が、対GDP比で約300%といわれる総債務残高を抱える事態になっています。
この状態を改善するためには、債務返済を優先すべく経済速度を落とさざるを得ないのです。
習近平氏は2012年の国家主席就任以来、逆に経済成長を優先しました。
自らの権力基盤を固めるには不可欠だったのでしょう。
これが、現在の中国経済にもたらした成長優先という「慣性」です。急減速によって、その衝撃は倍加されているのです。
ソ連は満69年で没落した
中国は、今年10月で建国70年を迎えます。
中国が手本とした「ソ連」は、建国満69年で崩壊しました。
戦争をして敗れ崩壊したのではありません。
「ソ連式社会主義」経済が行き詰まったのです。
中国は、「中国式社会主義」を標榜しています。中国式社会主義とソ連式社会主義とは、質的にどこが異なっているでしょうか。
共通点を上げます。
1.専制主義
2.軍事優先
3.領土拡張
4.市場軽視
ソ連と現在の中国は、驚くほど一致点が多いのです。
習近平氏は、毛沢東崇拝主義者ですから、習近平時代になれば毛沢東=ソ連型経済へ回帰して当然です。
私の持論ですが、習近平氏が国家主席にならず、李克強氏がなっていたとすれば、鄧小平→胡錦濤→李克強とつながり、中国は軟着陸に成功したかも知れません。
歴史に「if」はありません。
江沢民氏が、習氏を強引に国家主席へ指名した結果、経済は大きく左旋回したのです。
江沢民氏は皮肉にもその後、習氏から排斥されました。江氏は、任期途中で習氏を追放する計画が露見したからです。
ここら当たりにも、中国経済混乱の芽はありましたが現在、その混乱の芽は大きくなってきました。
中国は、建国70年を迎えるに当たり、旧ソ連と同じ矛楯を抱えています。
経済危機が、政治危機になるという専制政治特有の構造に直面しているのです。
民主国家であれば、経済危機は政権交代をもたらすだけです。
中国(ソ連も)は、共産党独裁ゆえにこれに代わる政党が存在しません。ここに、経済危機は政治危機に直結するリスクがあります。
習主席と中国共産党上層部との間に、一種のにらみ合いが生まれている。
専門家は、こう指摘しています。
習氏が過去1年、共産党の最も有力なメンバー380人で構成する党中央委員会の全体会議(中全会)を開いていないことが原因です。
習氏は開催を延期することで、幹部に諮らずに政策を独断で動かすことができました。
過去数十年を見ると、中全会は毎年秋に会合を開き、全般的な政策目標を了承することが多かったのです。
習氏は、この慣例を無視したと批判されているのです。
習氏は今年1月に党幹部を集め、中央党校でセミナーを開きました。
ここで幹部らの「気持ちの緩み」や「能力不足」を痛烈に非難したそうです。
また、経済的リスクをそのまま放置すれば、社会不安につながる恐れがあるとし、ゆくゆくはそれが党の評価に影響を与える可能性があると警告しました。
まさに、経済危機が政治危機になるという点を強調したのです。
一方、この話を聞かされる党幹部には不平・不満があるはずです。
習氏が「中全会」も開かずに少数幹部で政策を決めながら、今になって幹部らの「気持ちの緩み」や「能力不足」を痛烈に非難するのは見当違いも甚だしいからでしょう。
ここら当たりが、習氏の限界でしょうか。
習氏が掲げた7つのリスク
習主席は1月21日、前記の中央党校セミナーで、中国が「7つのリスク」に見舞われていると言及しました。以下に、それを羅列します。
1.個人消費の低迷
2.地方政府の債務急増
3.不動産企業などの債務不履行
4.失業者の拡大
5.大規模な抗議デモの発生
6.米中貿易戦争
7.世界覇権を狙う中国当局に対する国際社会の反発
旧ソ連は、満69年で崩壊しました。
中国は現在、建国後69年6ヶ月目です。
計画経済のもたらす矛楯が、溜まりに溜まっています。
具体的には過剰債務の重圧です。
ソ連崩壊は、米国との軍拡競争について行けず経済的な破綻が引き金となりました。
中国も世界覇権を狙って、米国との軍事力の差を縮小すべく軍拡中です。その点では、中国もソ連と似た状態になって来ました。
最近の国防費の伸び率とGDPの伸び率を示します。
国防費 GDP
16年 7.6% 6.7%
17年 7.0% 6.9%
18年 8.1% 6.6%
19年 7.5% 6.5~6.0%
軍事費が、GDP成長率を上回る伸びを続けています。
このことから、中国が軍拡に力を入れていることは疑いありません。
何が目的でしょうか。
台湾の「軍事解放」が当面の目的でしょう。
中国人民解放軍は、習氏の国家主席在任中に、台湾へ軍事力行使するというコンセンサスがあるようで、「早く戦争したい」と燃え上がっています。
この戦意昂揚のためにも軍拡に力を入れるとすれば、ますます「ソ連」と同じ道を歩む危険性が高まります。
前記の「7つのリスク」について、取り上げます。
1.
個人消費の低迷
文字通り、不動産バブルによる超高値の住宅を購入して、家計が高額住宅ローンを抱えていることが原因です。
毎月のローン支払いが、可処分所得を減らしているので、個人消費の低迷は当然でしょう。
2.
地方政府の債務急増
政府のインフラ投資は、多くが地方政府の財源調達によって行なわれました。
中央政府の財政バランスが崩れなくても、そのしわ寄せは地方政府が抱え込みました。
その資金は、「融資平台」という金融業務と土木事業を兼ねた特殊な公的企業に調達させました。
多くは高利資金です。
景気刺激が目的のインフラ投資のために、採算性を度外視しており、資金返済が滞っています。デフォルト(債務不履行)の融資平台が出てきました。
3.
不動産企業などの債務不履行
不動産バブルといわれるほど不動産は超高値になった結果、住宅需要が息切れするのは時間の問題でした。
当局も企業も不動産バブルが半永久的に続くと錯覚していました。
こうして強気経営を貫き、債務をテコに業況拡大を図ったのです。その強気の連環が、家計の過剰債務の重圧で切断されたのです。
4.失業者の拡大
個人消費や住宅販売が不振になれば、その影響は広範囲にわたります。
ここには自動車不振が入っていませんが、不動産と自動車でGDPの40%相当になるという試算があります。
失業者が増えるのは当然でしょう。
5.
大規模な抗議デモの発生
春節が終わって、労働者が地方から帰ってきたら、職場が消えていたという例は珍しくありません。
労働者に早めの休暇を出して帰郷させ、その後にメールで「解雇」通知が届く高等戦術を用いた企業のケースが報道されています。
また、退役軍人が年金などで不満を訴えデモ行進しています。これに、他の不満分子が合流すると面倒なことになります。
6.
米中貿易戦争
これは、心理的な不安要因を国民に広く伝播しました。
中国最高指導部の民族主義者は、「中国は世界一」と煽っていますが、誰もそんなことを信じる者はいません。
世界一の米国と貿易戦争して、勝ち目があるわけでないのです。これが、中国で萎縮ムードをかき立てました。
7.
世界覇権を狙う中国当局に対する国際社会の反発
世界覇権を狙うという習氏の発言は、もともと国内向けであったはずです。
景気付けに言った程度の軽い意味だったと思います。
習氏が、こうして「中国7つのリスク」に数えているほどですから、意図しなかったブーメランに驚愕しているのです。
中国は、もともと「大言壮語」の国です。
それにしても、習氏の言葉は度が過ぎたものでした。
米国が、中国の軍拡と重ね合わせて、「世界覇権論」の危険性を再認識したのは当然でしょう。
米中貿易戦争において、米国が容赦なく中国を攻め立てているのは、将来の禍根を断つという意味もあるのです。
ここで、米国が徹底的に中国を叩く戦術は致し方ないのです。中国というよりは、習氏の身から出たサビでしょう。
以上の7つの項目を見ると、習近平氏がすべて原因をつくっています。
不動産バブルも、習近平氏が国家主席に就任した2012年から再度、燃えさかったものでした。
胡錦濤政権では、不動産バブルの終息に向けて引締め政策を行ないました。
ようやく鎮火したと思ったら、習政権がバブルに火を付けて、高い経済成長率の目標を掲げたのです。
こうして、中国全土が大規模な不動産バブルに巻き込みまれました。
中国が、500億ドル以上も貸付けている南米のベネズエラは1月23日、社会主義を掲げるマドゥロ現政権の退陣を求める大規模なデモが行われました。
中国当局は、これに強いショックを受けたようです。
中国共産党中央政治局常務委員、党内序列5位の王滬寧氏は1月24日、党内に向けて、習近平国家主席の政治思想を学習する必要性を訴え、「最悪の状況に備えるべきだ」と述べました。
王滬寧氏といえば、習氏の側近で民族主義者とされています。
「一帯一路」計画を立てた張本人です。領土拡張に最も熱意を持つ人物とされています。
中国が、「第二のベネズエラ」となる危機感を持ったこと自体に驚かされます。
中国最高指導部は、ベネズエラの騒ぎに「明日は我が身」と構えざるを得ないところに、潜在的な危機感の大きさを示唆しています。
韓国経済への波及が現実化
中国経済は、今年の経済成長率目標を6.0~6.5%に設定しました。昨年は6.5%前後でしたから、下限を0.5%ポイント引き下げました。
当局は、6.0%は割らせないと「マジノ線」にしています。
仮にそうとしても、不動産バブルの崩壊という重大性を勘案すると、前記「7つのリスク」のうち1~5までは来年以降も続きます。
米中貿易戦争の関税引上げが、正常に戻っても前記のリスクは簡単に消えません。
今年の成長率が6.0%を割らないとしても、来年以降は6%を割り込むのは不可避でしょう。
来年以降の経済成長率が、さらに落込んでゆくとなれば、中国が輸出第1位の韓国経済にとっては重大事になります。
米中貿易戦争で中国は、米国から半導体輸入を増やすと申し入れています。
これが、韓国輸出のエースである半導体にさらなる負担をもたらします。
「メルマガ33号」で取り上げましたが、次のような影響が出てきます。
「米中の貿易交渉過程で、中国が今後6年間に2000億ドル相当の半導体を輸入すると提案したと報じられています。
米国が現在、中国に輸出している規模の3倍を超える金額と言われます。
年間平均では333億ドルになります。
米国からの半導体輸出は現在、約100億ドル程度です。
こうして、米国への割り当て増加分だけで、韓国の半導体輸出は200億ドルも食われます。
昨年、韓国からの半導体輸出は、1267億ドルでした。ここから、200億ドルが米国にシェアを取られる計算になります。約17%に相当します」
韓国へは以上のような影響が出てきます。
当面の半導体輸出では、すでに顕著な影響が出ています。
半導体輸出は、全輸出の20%以上を占めていますが、
中国向け輸出だけに限定しても、中国の経済成長鈍化などの影響で2月は、前年同月比17.4%も減り、
4カ月連続で減少しました。
半導体の輸出全体は、2月に前年同月比24.8%も減少しました。3カ月連続の減少です。
世界金融危機の真っただ中だった2009年4月のマイナス26.2%以来、最大幅の減少となったのです。
次に、韓国の輸出全体の動向を取り上げます。
2月の輸出では、前年同月比マイナス11.1%を記録し、2016年2月のマイナス13.4%以来、3年ぶりの大幅な減少でした。
昨年12月から3カ月連続で減っており、減少幅も大きくなっています。
韓国経済を支える輸出不振は、GDPを押し下げます。
もともと内需がマイナス寄与で、成長率の足を引っ張る存在となっています。
韓国経済牽引役は唯一、輸出しかありません。
その中でも、好採算の半導体輸出伸び率がマイナス状態では、GDPの伸び率は楽観できません。
韓国経済は、中国経済の影響を大きく受ける体質となっています。