勝又壽良
Sent: Monday, March 25, 2019 5:00 AM
経済より南北問題 文氏は支持率上昇だけを目的の最悪政治
経済より南北交流を優先
50%切る個人消費比率
老齢化した韓国経済の弱味
韓国の文在寅大統領は、記者会見で「われわれが進む道は正しい。そのため政策を見直すことはできない」と言い切りました。
文氏は経済の実態が悪化しても、政策を見直す意思がないとなれば、「独善主義」と呼ばざるを得ません。
なぜ、ここまで政策に自信を持っているのでしょうか。
これは、韓国朱子学の道徳主義によるものでしょう。
いずれ、失業率は下がるという認識と思われます。
しかし、生産性を上回る最賃引上は、フランスの先行事例でも証明されているように、失業者を増やす逆効果しか生まないのです。
この事実を理解しないのか。不思議でなりません。
経済より南北交流を優先
文氏がここまで強硬であるのは、「経済よりも南北」という政治選択をしていると見られています。
高失業率は、財政資金を支出して救済すれば良い。
それよりも南北問題に取り組み、大統領としての政治実績にするという選択をしているのです。南北交流は、南北朝鮮の悲願です。
文氏には、次期政権も与党から出さなければならない事情があるのです。前政権の幹部クラスを次々に告発し、投獄させました。
その関係者の懲役年数を合計すると、100年にもなると言われます。
この間、数人の自殺者が出ました。次期政権が保守党になれば、文大統領は告発されるでしょう。
告発理由は、何なりと付けられます。それに該当する「事件」はすでに2~3上がっています。
北朝鮮が、核の完全放棄をしない曖昧なままで南北交流を始める。
その場合、韓国は「核の人質」になる重大な危機に直面します。
韓国は、北朝鮮の無法な要求を飲まされる危険性が高まります。
そのリスクを抱えながら、南北交流→南北統一の意義があるのかが問われます。
韓国国民は、文政権が掲げる南北政策を吟味する必要があるのです。
隣国日本は、北朝鮮が核を持った状態を受入れられません。日本が、文政権の早急な南北交流に危機感を募らせるのは当然でしょう。
IMFの勧告には、内需の相当な冷え込みを予想していると思われます。
その前提として、韓国の最低賃金層が雇用全体の中でどの程度占めているか。それを見ておきます。
米国の場合、最低賃金対象の就業者比率は全体就職人口の2.3%と言われます。
韓国ではこの比率が13.3%にも達しています。
飲食宿泊業・卸小売業は、かなり高いのです。特に零細自営業は72.3%にのぼると推測されます。
ここから言えることは、韓国は、最低賃金労働者によって支えられている経済ともいえます。
この労働者が、低賃金で働いているのは、経営者に搾取されているのでなく、生産性が低い結果と言えます。
生産性を引き上げる政策が、先ず行なわれなければ、大幅な最賃引き上げ策が破綻して当然でしょう。
前述の通り、自営業の7割余が最低賃金就業者という現実は、韓国経済に重い事実を突付けています。
韓国では、40代で企業を退職して自営業に転じる人たちが多いのです。
理由は、職場での「出世競争」に見切りを付けて、一国一城の主に収まるのです。
その人生を賭けた独立の夢が、今回の最低賃金の大幅引上げで砕かれました。
40~50代の失業率が高まっている背景には、最低賃金の大幅引上げがあったのです。
50%切る個人消費比率
一国の経済構造の安定性を見る上で重要なのは、GDPに占める個人消費(民間最終消費支出)の比率です。
個人消費は比較的、安定しているからです。韓国は、この比率が次第に下がっているのです。
名目GDPに占める個人消費比率
韓国 日本
2010年 50.32% 57.75%
11年 50.96% 58.25%
12年 51.37% 58.64%
13年 50.91% 58.96%
14年 50.35% 58.40%
15年 49.31% 56.62%
16年 48.65% 55.69%
17年 48.09% 55.50%
先ず、韓国では個人消費の対名目GDP比率が、50%に達していません。日本との差が8%ポイント見当になっています。
韓国では現在、長期不況論が注目されています。
文在寅政権は、「経済よりも南北」を重視し、自らの後継政権をいかに長く続けさせるか。それに腐心しているのです。
しかし、国内経済が泥沼状況になれば、文政権の後は革新派でなく保守派に移るはずです。
文政権はそこまで頭が回らないほど「南北問題」に傾倒しています。
経済問題がお留守になるという意味です。文字通り、韓国経済に危機が到来することは容易に想像できます。
今後の韓国経済は、1998年の通貨危機当時より厳しい長期不況が訪れるという見方があります。
その理由は、世界経済の長期沈滞によるものです。IMFは、2023年まで世界経済が停滞すると予測しています。
韓国は、対GDPの輸出依存度(37.7%=2017年)が高いので、輸出環境が悪化すれば、内需主導でカバーできるのかという問題が提示されています。
2018年の韓国経済は2.7%成長でした。この成長率の中身を見ると、財政支出の成長率寄与度が0.9%ポイントを超えたのです。
最低賃金の大幅引上げにより、失業者が増えました。
韓国は、1998年の通貨危機でIMFから緊急支援を受けました。この時の名目GDPに占める個人消費比率は、49.84%もありました。
2017年の48.09%よりも高かったのです。この危機を乗り越えたあと、経済は急回復して、2002年の名目GDPに占める個人消費の比率は55.54%にも達しました。
これは、「韓国経済が若かった」ということです。
つまり、総人口に占める生産年齢人口(15~64歳)比率が上昇局面にあったから可能でした。
老齢化した韓国経済の弱味
この点は重要ですので、少し説明させて下さい。
生産年齢人口比率が上昇するのは、家計で考えれば一家の中で働き手が増えることです。仮に、一家を5人家族とします。
このうち3人働く家庭と2人働く家庭では、全体の所得は前者の方が多いはずです。
1998年の韓国は、3人も働いていたケースです。これからの韓国は、人口の高齢化で2人しか働けなくなります。
韓国経済は今後、生産年齢人口比率の減少によって、GDPの伸び率は小さくなるのです。
こういう生産年齢人口比率低下の中で、世界経済の停滞が起れば、どうなるでしょうか。
輸出依存度の高い韓国経済は、1998年当時と異なって回復力が鈍くならざるを得ません。
ましてや、肝心の韓国政府は「経済よりも南北」に関心を向けています。
今後、韓国の輸出が減少すれば、個人消費も不振でGDPをカバーできません。
こうなると、過去30年間で昨年を含めて3回、財政支出拡大で経済成長率を支えた「特殊ケース」が、常態化するでしょう。
韓国の財政状態は急速に悪化していく懸念が強まります。
こうした事態は、別の表現もできます。最低賃金の大幅引上げという「所得主導成長」の実態は、財政によって雇用減をカバーする「財政主導成長」でもあるのです。
財政主導成長政策は、韓国経済のバイタリティを奪う危険性があります。
それは、雇用減を財政支出で埋めるという異常な事態が起るからです。
雇用は企業が生み出すものです。それにも関わらず、文政権は公的支出で雇用をカバーする変則事態に何の疑問を持っていません。
これは、文政権の「反企業」意識と強いつながりがあります。
「反企業」とは、企業が労働者を搾取するという古典的な企業観を指しています。
そこで企業は、できるだけ管理しなければならないと考えています。文政権はこうして、最低賃金の大幅引上げ、法人税率の引上げ、労働時間の大幅短縮を実行しました。
前記の3つの政策のうち、法人税率引上げは世界の大勢に逆行しています。
残り2つは方向としては正しいのですが、時間を掛けてやるべきことがらです。
短期間での完全実施は不可能で、雇用破壊につながっています。
こういう点で十分な時間調整が行なわれず、そのしわ寄せは、すべて労働者が失業という形の負担を背負わされています。
文政権は、この被害を財政でカバーする「トンチンカン」なことをやっているのです。
文政権が続く限り、韓国経済の成長基盤は弱体化していきます。