勝又壽良
Sent: Monday, March 18, 2019 5:00 AM
Subject: 失業者の帰農急増が暗示、韓国経済崩壊へカウント・ダウン
零落する地方産業の実態
文政権の政策が最低最悪
帰農者急増は不況の前兆
韓国経済の底流では、地殻変動が起り始めています。
韓国政府は、原因が大幅な最低賃金の引上げにあることを知っているはずです。
その大幅最低賃金の引上げ幅は、2年間(2018~19年)で約30%になります。
その引上げ幅を修正すれば、問題は解決するのです。
しかし、文政権の支持基盤は労組です。
労組との関係悪化を回避する目的で、南北交流事業を突破口に景気回復への道を探ったのです。
その「離れ業」は、米朝首脳会談の失敗で水泡に帰しました。
ここに、韓国経済は回復への切り札を失ったのです。
タイトルの「失業者の帰農急増が暗示、韓国経済崩壊へカウント・ダウン」は、読者の興味をかき立てる「営業用」ではありません。
昨年から、農業就業者が増えたことは、都市部で失業してやむなく出身地へ帰らざるを得なくなった証明です。
経済用語では、こういう状態を「偽装失業」「不完全就業」と呼びます。
日本では、1960年代からの高度経済成長期に「死語」となりました。約60年前のことです。
韓国では「帰農者」の増加が、就業率を高めるという皮肉な結果を招いています。
正確には、「不完全就業者」の増加と呼ぶべきです。
韓国統計庁は、就業者が増加したと発表しています。実態は逆であり、雇用状態が悪化していると判断すべきなのです。
先進国では、自営農の急増する現象を景気低迷の前兆と解釈しています。
2008年の金融危機で、スペインとギリシャの経済が急激に悪化しました。
その際も、帰農=自営農が増えたのです。
日本でも「昭和恐慌」(1927~31年)の際、都会で失業した多くの人たちが、田舎の親元へ帰って農業に従事した歴史があります。
私は、今回の韓国における帰農者急増を、直感的に「不況シグナル」と捉えました。
文政権が、米朝首脳会談で北朝鮮寄りの姿勢を明らかにし、交流事業にこだわった理由は、景気回復のテコに利用する計画だったのです。
現に、韓国大統領府の文正仁(ムン・ジョンイン)統一・外交・安保特別補佐官は、米国の外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』への寄稿(3月15日発行)で次のように指摘しました。
1.文在寅(ムン・ジェイン)大統領は韓国で経済政策が行き詰まった時に、自らに政治的な利益をもたらす南北交流事業に賭けた。
2.文大統領が外交政策でも突破口を見いだすことができなければ、2020年4月の総選挙を前に苦しい立場で不確実な未来を迎えるかもしれない。
上記のような2点に基づき、文氏が南北交流に賭けていた以上、これが失敗に陥った影響は深刻です。
経済の悪化は必至であり、文大統領の政治的な立場が不利になることは否めません。
零落する地方産業の実態
以上の概略説明を足がかりに、やや詳しく韓国経済の実態を見て行きましょう。
『韓国経済新聞』(3月15日付け)に、次のような記事がありました。
「先月1週間、京畿道平沢(ピョンテク)から全羅南道霊光(ヨングァン)、釜山(プサン)、慶尚北道浦項(ポハン)、江原道高城(コソン)まで海岸線に沿って2400キロを回ったある教授の言葉が脳裏から離れない。
『話にならない。停止した工場、つぶれた飲食店、船が2隻だけの釜山(プサン)新港…憂鬱になるしかない』」というものです。
ここには、1965~90年までの25年間、「漢江の奇跡」と言われた高度経済成長の輝かしい跡は見られません。
「停止した工場、つぶれた飲食店、船が2隻だけの釜山新港」と暗い話が充満しています。
日本の技術と資本が、「漢江の奇跡」を支援したあと、韓国に新しい産業が興らないのです。
2002年に大統領に就任した盧武鉉氏以降、日韓関係が悪化して、日韓企業の関係は希薄化しました。
これによって、韓国企業へ世界の技術情報が伝わらなくなった面があるのです。
現在では、普通になった「第4次産業革命」という言葉すら、韓国メディアは2015年時点で知らなかったほどです。
技術情報ギャップが、イノベーション立ち後れ要因と解釈すれば、興味深いデータがあります。
国家レベルで見た「技術、法・制度、技術」などに基づく、総合的な生産性上昇の「実力」を示すものに、「全要素生産性」という尺度があります。
韓国租税財政研究院によると、全要素生産性の増加率は、次のような恐るべき低下に見舞われています。
2001~05年 0.83%
2006~10年 1.08%
2011~16年 -0.07%
「全要素生産性」が、2011~16年に急落した裏には、労働組合の賃金闘争が過激化して、「働かない・高い賃金・終身雇用」と実質的なサボタージュを始めたことと無関係でありません。
これに加えて技術情報ギャップが、韓国企業のイノベーションへの取り組みを遅らせたのです。
韓国は、日本から伝わった重厚長大産業(重化学工業)から脱皮できませんでした。
この分野は、中国が低賃金を武器にして韓国を追い上げています。今では、中韓の技術差は1年未満と接近しています。
文政権の政策が最低最悪
これから、韓国経済はどうなるのか。
全く「お先真っ暗」というのが実情です。
ここへ登場したのが文在寅政権です。
歴代韓国政権では、経済政策への定見を欠く意味で、「最低最悪」政権です。
しかも、前述のように「働かない・高い賃金・終身雇用」を旗印に掲げる労働組合が、文政権の支持母体です。
韓国の「全要素生産性」は、上昇するはずがないのです。
文政権は、任期を終えるまで後3年もあります。
あえて、「も」を付けざるを得ないほど、韓国経済を惨憺たる状態へ陥れてしまいました。
日本人の私が心配することはないのです。
ただ、経済を学んだ者として観察すると、余りにも常軌を逸したことの連続であり、なんとかならないのか。そういう思いに駆られます。
韓国経済は、「臨界点」にあります。
昨年の合計特殊出生率は、史上初めて「1」を割込み、「0.8」へ低下しました。
この数字の中に、韓国国民が自国将来に絶望している様子が読み取れます。
文政権は、そのため息を嗅ぎ取らなければなりません。
韓国の公務員家庭では、子ども3人が普通のようです。
非公務員家庭では、1人かゼロでしょう。
これだけの差があるのは、公務員が恵まれた生活を送っている結果と見られます。
公務員には、安定した生活が保障されています。
これを非公務員=民間企業で実現するには、「働かない・高い賃金・終身雇用」を守るのでなく、労働市場の流動化を促進して、多様な働き方を実現させることです。
そのために、政府は支持基盤の労組と手を切るべきです。
労組や市民団体という特別の支持基盤に立脚する政治は、「階級政党」と呼ばれています。
保守党の方が、はるかに「国民政党」に脱皮しています。
「階級政党」では、支持層が限られるので、余計に「ご機嫌伺い」の政策に落込みます。「最低賃金大幅引上げ」は、まさにその弊害です。
日本は今、転職が自由に行なわれています。ここへ来るまで、「年功序列賃金と終身雇用制度」が牢固として存在しました。
この状態では、労働市場の流動化は起りません。当然、労働争議は過激になります。
現在の韓国が、過激な労働争議を行い「労働貴族」と呼ばれているのは、「年功序列賃金と終身雇用制度」を政府が後押ししているからでしょう。
「働かない・高い賃金・終身雇用」が、雇用制度として保証されているからです。
韓国経済は、岐路にあります。
文政権が、労働組合のご機嫌取りに終始して、最低賃金の大幅引上げ路線を堅持するのか。
あるいは、労組の反発を受けても最賃引上げ幅を抑制し、生産性上昇に見合う程度まで戻すのか。
大きな決断の場に立たされています。
大統領府の文正仁統一・外交・安保特別補佐官が、米外交誌『フォーリン・アフェアーズ』で指摘したように、米朝交渉が行きづまり南北交流事業が実現できなければ、文政権は危機を迎えます。
国内経済はさらに一層、沈滞度合いを深めます。
来年4月の国会議員選挙で与党は敗北するでしょう。
そうなれば、文大統領はレームダックで機能しません。
次期大統領選で、与党候補が落選する公算が強まります。
ここまで、はっきりと今後の政治日程に見通せる中で、文氏は政策転換するでしょうか。
選挙運動になれば、労組と市民団体による大車輪の活動が始まります。
文氏は、この魅力に勝てず政策転換をしないでしょう。
そうなると、景気刺激策として、大型公共投資の乱発と財政資金による雇用増という最悪事態に踏み込むでしょう。
財政赤字がどれだけ膨らんでも、処理は後の政権の課題と捨て鉢の姿勢も想像されます。
こうして、韓国経済は悪化し続け、「雇用惨事」が一層その度合いを深めます。
韓国経済崩壊のカウント・ダウンの音が、確実に刻まれるでしょう。
雇用状態は、すでに抜き差しならぬ緊迫した事態を告げているのです。
帰農者急増は不況の前兆
1月の就業者増加幅は1万9000人に過ぎませんでした。
ところが、農林漁業分野の就業者は10万7000人も急増しました。
これは、他産業の就業者が、8万8000人も減っている計算になります。
2018年雇用動向の分析結果では、昨年の農林漁業就業者が前年より6万1540人増加し、このうち90%以上が農業就業者と推定されています。
今年1月の農林漁業就業者増加数だけで、昨年1年間の増加をはるかに上回る急増振りです。
2000年代以降、ずっと雇用を減らしていたのが農林漁業です。
それが、突然の就業増になった原因こそ、都会で失業しやむなく「帰農」したと判断すべきです。
日本の昭和恐慌では、「大学を出たけど」という歌が流行したほど、就職先はなかったのです。
街には失業者が溢れ、地方出身者は田舎に帰り就農して生活を立てました。
さらに、戦後の混乱期に農村は、海外からの引き揚げ者300万人を収容し、「偽装失業」、「不完全就業」のたまり場になりました。
これが、1960年代からの高度経済成長で、労働力として農村から都市に向かい、不完全就業は完全就業に姿を変えたのです。
韓国の帰農者には、前記の日本が辿ったような機会が訪れるでしょうか。
率直に言って、そういう機会は訪れません。
韓国の潜在成長率は、生産年齢人口(15~64歳)比率の低下とともに漸減していきます。
2021年から韓国の総人口が減って行く中で、経済成長率の2%割れは不可避です。
今後ますます、経済成長率が低下するので、雇用口は減少するでしょう。
本来ならば、今こそ最低賃金の大幅引上げを修正して、民間雇用先を確保しなければなりません。
文政権は、こういう正統派の政策を行なわず、財政資金を投入する「公的雇用」でお茶を濁し、「雇用が増えた」と宣伝するでしょう。
それは、間違った政策なのです。雇用は民間企業がつくりだすのが本筋です。
設備投資の増加と両輪となれば、韓国経済は一息入れられます。
政府の無策によって、自律回復の芽を摘んでしまうのは、残念というほかありません。
こういう、間違った経済政策を続けて国力が疲弊すれば、「反日」エネルギーは確実に低下するでしょう。
日本にとっては、皮肉にもそういうメリットが期待されます。