【ソウルから 倭人の眼】
気づけば韓国孤立? 北にのめり込み自縄自縛
北朝鮮との関係に理想を描き、米朝の仲介者を自任している韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権だが、今や
韓国では「国際的孤立」を懸念する声まで出ている。
くすぶる日中との関係のほか、国内経済も悪化を続けている。
唯一頼みの米朝、南北関係も含め、先が一層見通せなくなっている。(ソウル 名村隆寛)
■最も落胆したのは
1カ月前、韓国では官民を挙げて、米朝首脳会談の成功への期待が異様に高まっていた。
韓国の政府やメディアは「何らかの合意や共同声明」が出ることを当然視し、米朝首脳会談を見守ったが、結局は物別れ。
韓国メディアは「残念な結果に終わった」と落胆を隠せず、直後の大統領府の会見もため息まじりの元気のないものだった。
五輪でメダルを逃した際の韓国の姿を見ているようだった。
文在寅大統領は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との会談を終えたトランプ米大統領から、引き続き「北朝鮮との仲介」を依頼されたという。
だが、米朝首脳会談を振り返れば、米朝両首脳とも直接交渉に集中し、韓国は眼中になかった。
韓国は会談の主人公のように最も盛り上がり、そして最も落胆したに過ぎない。
■米朝仲介を諦めない
文氏は3月1日、米朝首脳会談の“成功”を受けて、日本の朝鮮半島統治に抵抗して起きた「三・一独立運動」の100周年記念式典に臨むはずだった。
だが、目算は外れた。演説内容が直前に修正されたことは明白だ。
文氏はそれでも米朝首脳会談を「長時間、対話を交わし相互理解と信頼を高めたことだけでも意味ある進展だ」と評価。
「両国間の完全な妥結を必ず実現させる」と引き続き米朝の仲介役を続ける姿勢を示した。
これまで南北首脳会談や米朝首脳会談のたびに上がった文氏の支持率が、最近は芳しくない。
「韓国ギャラップ」が15日発表した世論調査結果で、文氏の支持率は同社の調査では最低の44%で、不支持(46%)を下回った。
「リアルメーター」の調査(14日発表)でも、不支持率が過去最悪の約50%で、約45%の支持を上回った。
「不支持」の最大の理由は経済問題で、対北問題への過度な注力や親北性向を挙げたのは24%で2位だった。
対北政策への期待度の半面、北朝鮮をめぐる情勢の不安定化は韓国の世論動向を確実に左右している。
■文大統領は仲間はずれ?
物別れに終わった米朝首脳会談を受け、韓国では「経済協力など南北関係強化の方針に固執すれば、韓国が外交的に孤立無援に陥る恐れがある」(朝鮮日報)との懸念も出ている。
米朝の仲裁を米国から求められた文氏は「北朝鮮に核放棄するよう説得せず、逆に対北制裁を解除しようと言った。
文氏には北朝鮮と金正恩が最優先だ」(同紙)という。
このため、米国の文氏に対する信頼は薄れ、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官さえも韓国を「仲介者ではない」と言い始めている。
文政権が北朝鮮、南北関係にこだわり、米国と距離が出る中、韓国の懸案は山積している。
低迷が続く経済に加え、外交的な孤立、特に日中との関係悪化への懸念は強い。
韓国では今月、微小粒子状物質「PM2・5」の濃度が、観測史上最悪を記録した。
文氏は「中国との協力案を出せ」と指示しており、韓国政府は中国と協力し人工雨を降らせたい考えだ。
しかし中国は、韓国でのPM2・5被害への中国側からの影響について「科学的根拠を示せ」(外務省報道官)と一蹴。
一昨年12月の訪中の際、冷遇されたように、文氏は中国から相手にされない状況だ。
韓国は日本との関係でも頭を抱えている。
いわゆる元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じた韓国最高裁判決と、同判決による日本企業の資産差し押さえ、慰安婦支援財団の解散、韓国海軍艦による海上自衛隊機へのレーダー照射、韓国国会議長による「天皇陛下謝罪発言」-。
いずれも韓国自らが招いた問題で、文政権は自縄自縛に陥っている。
■日本孤立の喜びはどこへ
昨年、平昌五輪への北朝鮮の参加や3回の南北首脳会談で南北融和ムードが高まった韓国では、「日本の孤立」を強調する論調がメディアで目立った。
「国際社会でのジャパン・パッシング(日本外し)で、つまはじきにされた日本が慌て、焦っている」と勝手に決めつけ、その思い込みで楽しんでいるかのようだった。
ところが今や、その韓国が自身の孤立を不安がっている。
日本は昨年来、慌ても焦りもせず朝鮮半島情勢を見守ってきただけだ。
それなのに、韓国では「米朝首脳会談の決裂は安倍(晋三首相)の策略だ」との珍説までが出る始末。
なぜかここでも、日本を悪文氏は「三・一独立運動」の記念式典で、現在の日本を直接批判せず、「朝鮮半島の平和のために日本との協力を強化する」と断言した。
李洛淵(イ・ナギョン)首相も国会で、日韓首脳会談を「今年上半期に実現することを期待している」と述べ、
6月に大阪市で開催される20カ国・地域(G20)首脳会合や、10月に外国元首らを招き行われる新天皇の「即位礼正殿の儀」などを挙げ、「機会を生かせるようにしたい。その前でも関係改善に努力したい」と述べている。
■北しかない他力本願
この半年間、日本を刺激し続け、日韓関係悪化の火に油を注いできた韓国が、どのように日本との協力を強化し、関係改善に努力するというのか。
文氏が対日関係改善の意思を示す中、韓国首都圏の自治体では「戦犯企業」と規定した日本企業製品の明示化や排除に向けた動きが出ている。
また、左派の文政権に反発する保守派は毎週末、ソウル中心部で集会を開いており、国会でも連日、理念闘争が繰り返されている。
「北朝鮮ではなく、韓国のことをまず考えねばならない」(韓国紙)はずの文政権は、それでも北朝鮮に望みをかけている。
ただ、頼みは米朝和解しかない。
和解してくれるのは米朝で、完全に他力本願なのだ。ひたすら待つしかない韓国では、経済低迷から抜け出す兆しはうかがえず、行き詰まった対日中関係の改善も展望できない。