勝又壽良
Sent: Thursday, May 2, 2019 5:00 AM
Subject: 韓国は1~3月期マイナス成長、ウォン相場急落し通貨危機の前兆
文政権が成長阻害要因
今年のGDP2%割れ
09年通貨危機再来も
日韓には通貨協定なし
韓国の1~3月期のGDPは、前期比マイナス0.3%という結果となりました。最低限でも0.3%の増加が見込めるのでないか。そういう当初の期待が消えました。詳細な検討は後で行ないますが、これまで輸出で支えてきた韓国経済が、半導体市況の急落によって打撃を受け、内需不振をカバーできなかったのです。
文政権が成長阻害要因
韓国の経済成長率は、2010年代に入ってから世界平均を下回るようになりました。その格差は当初、0.3ポイント前後と大きくなかったのですが、世界経済が本格回復傾向に入った2017年は0.6ポイントまで広がりました。実はこの年に、文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足しました。「反企業」という市場経済国にそぐわぬ旗を掲げた文政権が、企業の警戒心を呼び起こして、設備投資を慎重姿勢にさせたのです。
文政権の「反企業」政策では、大企業の法人税を引き上げました。理由は、大企業が独占的な利益を貪っているという先入観でした。世界の大勢は、法人税率を引下げて設備投資を刺激し、それが雇用を増やし経済を好循環に乗せる、という構図です。文政権はこの流れを断ち切ったのです。
これに代わって登場したのが、所得主導成長論でした。最低賃金の大幅引上げによって、個人消費を増やして経済を成長軌道に乗せるというもの。この政策が、完全に失敗しました。生産性上昇という前提を忘れて、賃金だけを引き上げれば賃金コスト増になります。生産性上昇は、この賃金引き上げ分を吸収する上で不可欠です。その大事な前提が存在しない以上、韓国経済は崖っ縁から墜落しました。
困ったことに、文政権にはその認識がありません。2018~19年の2年間で最低賃金は約30%も上昇しました。生産性上昇分の6~7倍もの最賃引上です。これを吸収できる企業は、大企業以外にありません。韓国経済が、この1~3月期にマイナス成長へ陥ったのは当然です。何ら、不思議なことではないのです。
文在寅大統領は4月30日、就任後初めて韓国国内のサムスン電子事業所を訪れました。これまで、サムスンの経営幹部に国内で会おうともしなかったのです。ところが、韓国経済のマイナス成長に驚き、サムスンの事業所を訪れ「拍手を送る」「新たな希望をもたらす」などと異例の賛辞を送ったそうです。文大統領は、就任当初に「所得主導成長」「公正経済」を掲げ、大企業と距離を置きました。だが、背に腹はかえられないとばかり、「敵へ塩を送る」仕儀となったのです。
文政権の行なった経済失政は、次の3点に要約できるでしょう。
1)大企業の法人税率引き上げ→設備投資削減
2)最低賃金の大幅引上げ→2年間で約3割引き上げにより雇用破壊と消費押し下げ
3) 場当たり的な雇用対策→財政赤字の拡大と3回の補正予算編成
文政権は、最低賃金の大幅引上げがもたらした雇用破壊をカムフラージュするべく、財政出動によって一時的にアルバイト増やしました。大学の教室では電灯を消すアルバイトを採用する、笑うに笑えない話まで流布しました。雇用促進は、民間企業の活発な生産活動によって実現するという認識がないのです。
文政権の支持基盤は、労組と市民団体です。ともに諸要求を出すことに長けていますが、モノをつくるという創意工夫に乏しい団体です。こういう組織に支えられている文政権です。民間経済活動への認識が、希薄という決定的な欠陥を抱えた政権と言えます。
今年のGDP2%割れ
今年の1~3月期の前期比GDP成長率が、マイナス0.3%になったことは、今年の予想GDP成長率を引き下げる要因となりました。GDPの計算では、1~3月期の成長率を「発射台」と呼び、これが高いほどその年の成長率を押上げる特性があります。このことから、韓国政府が目標とする今年の成長率2.6%達成は不可能となりました。韓国銀行(中央銀行)は、2.5%に引下げましたが、その程度の下方修正で済むはずがありません。
国際投資銀行(IB)のノムラ・ファイナンシャル・インベストメントが、今年の韓国の成長率見込みを従来の2.4%から1.8%へと大幅に引下げました。今年の韓国経済は2%割れという最初の予測が発表されたのです。これから多くの予測機関が、同様の厳しい数値を発表するものと見られます。
ノムラが成長率を1.8%へ引下げた理由は、次のようなものです。
1)1~3月期の設備投資が、前期より10.8%も減少したこと
2)輸出の不振が国内経済にマイナスの影響を及ぼしかねないこと
4月(1~20日まで)の輸出は、半導体輸出などの不振余波で前年同期より8.7%も減っていることを重視したようです。内需が堅調であれば、輸出減がストレートにGDPに響きません。しかし、昨年4~6月期、7~9月期の内需がマイナスであり、辛うじて輸出(純輸出)でカバーしていたのです。昨年10~12月期は、例の財政支出によるアルバイト募集が、内需を押し上げましたが効果は1期限り。今年の1~3月期は、息切れ状態で内需はマイナスに落込みました。
アルバイト募集では、韓国のプラス成長を継続できないことを、改めて文政権に教えた恰好です。文政権の経済知識は、残念ながらこの程度です。
韓国上場企業のうち、4月25日までに発表になった1~3月期営業利益は、上場企業67社(店頭市場を含む)で前年同期比41.5%も下回ったのです。主力業種である電子、化学分野の営業利益の低迷が目立ちました。
1)サムスン電子は前年同期比で60.4%減
2)SKハイニックスは同58.7%減
3)LG化学は同57.7%減
4)SKイノベーションは同53.5%減
これまで韓国経済を支えてきた主力企業が、1~3月期の営業利益が軒並み不振であるのは、輸出不振を反映したものです。今後の韓国GDPにマイナスの影響を与えることは不可避となったのです。
韓国 統計庁が、4月30日に発表した「3月の産業活動動向」によると、韓国経済の実態がかなり深刻であることが分ってきました。GDP統計では把握できない、韓国経済の構造的な弱点が浮かび上がりました。2009年、韓国を襲った通貨危機の再来を思わせる前兆現象に見え始めたのです。
それは、 1~3月期の製造業平均稼動率が、前期に比べて71.9%と、前期に比べ1.9%ポイントも低下しました。これは、2009年1~3月期の66.5%以降で最も低いものです。 一般的に稼動率は、生産量が増えれば上がります。だが、工場機械や設備など生産能力が、縮小されれば生産が増えなくても稼動率が上昇することがあるのです。最近は、設備投資が控えられてきたので生産能力は増えていません。その中で、稼働率が低下したことは、需要が相当に落込んでいることを裏付けています。
前記の通り、1~3月期の上場企業47社の営業利益は、前年同期比で41.5%も減益になりました。これは、4~6月期以降のGDPにマイナスの影響を与えることは避けられないでしょう。となると、2四半期連続でGDPがマイナス成長へ陥る危険性を示唆しています。文政権は、安閑としていられない状況に追い込まれてきました。
09年通貨危機再来も
ここで注目していただきたいのは、1~3月期の製造業平均稼動率が2009年1~3月期以来という落込みです。2009年1~3月は、韓国が通貨危機に陥った時期です。すでに、現在のウォン相場は当時を連想して、敏感に反応し始めています。1~3月期のGDP成長率が前期比マイナス0.3%に落込んだこと。同期の製造業製造業平均稼動率が、71.9%に低下したことで、ウォン相場が大きく売られたのです。
4月30日のウォン相場は、1ドル=1168.20ウォンと9.70ウォン安となりました。2017年1月20日に1169.20ウォンを記録してから2年3カ月ぶりのウォン安水準でした。昨日の5月1日は、1162.59ウォンとやや落ち着きましたが安心はできません。
ウォン相場は4月中旬まで、1130~1140ウォン台で推移していました。それが、4月25日に1~3月期GDPがマイナス成長発表で、一気に9.60ウォン安となり、1160ウォン水準を突破したのです。ウォンが敏感に売られたことは、2009年の通貨危機の生々しい思い出があるからでしょう。
ここで2009年の通貨危機について、振り返っておきます。これによって、今後の展開を予想する上で、貴重な手がかりが得られると思います。
2008年9月、ウォン相場は1ドル1200ウォンを割り込む状態になりました。このため中小企業が大きな損失を出すにいたりました。その後もウォン相場の下落が止まらず、10月末には1ドル=1465.9ウォンとアジア通貨危機(1997年)以来の安値を記録。ウォン安はその後も進行し、一時は1ドル=1500ウォンを超える水準まで下落したのです。
その後、米国との通貨スワップ協定の締結によって短期的に持ち直し、2008年末における相場は1ドル=1259ウォンまで回復しました。
しかし、2008年10~12月期のGDP(発表は2009年1月)は、前期比マイナス5.6%と大幅なマイナス成長となり、持ち直していた相場が再びウォン安に転じ始めました。そして、2009年2月20日には再び1ドル1500ウォンを突破し、米国との通貨スワップ限度額300億ドルのうち200億ドル以上を使い果たすなど、予断を許さない状況となったのです。
日韓には通貨協定なし
日本政府は韓国に対して300億ドルの通貨スワップ協定を2008年12月に締結しました。米国は10月に、中国は12月に韓国と締結していたため、韓国企画財政部長官はその後、日本メディアの取材に対し、「韓国が最も厳しい時に外貨を融通してくれたのは、米国、中国、日本の順で日本が最後だ。日本は出し惜しみをしている気がする」と批判する始末でした。これがその後、日本で波紋を呼びました。
当時も、日韓関係は良くなかったのです。ただ、日本の政治家に親韓派がいたので、日韓の通貨スワップ協定を締結できましたが現在、親韓派議員はゼロです。今後、韓国に通貨危機が起っても、日米が通貨スワップ協定を結んでいませんから、救命ボートの役割を果たしません。韓国はどうするのでしょうか。
文在寅大統領は、日本が「積弊対象」とまで言い切っています。今さら、その積弊の日本へ通貨スワップ協定締結という支援を求める訳にもいかないでしょう。口は災いの基と言います。文氏には、ズバリこれが当てはまります。