勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
2019-05-27 05:00:00
韓国、「無責任」政府、17ヶ月後に最賃大幅引上げ「副作用認める」
テーマ:ブログ
文在寅政権ほど無責任な政府はない。
自らの支持基盤である労組の要求を鵜呑みにして、2年間で約30%の最賃大幅引上げを行なったからだ。
その結果、失業者が激増して自営業の廃業という社会的な混乱を生んできた。
それにも関わらず、一貫して「景気は好調」と嘯(うそぶ)く政府がどこにあるだろうか。最低最悪の政権である。
シンクタンクは、この政府の行状を見て見ぬふりしてきた責任も大きい。
韓国では、大統領府の権限がきわめて大きく、ここに睨まれたら出世街道から外れるという権威社会である。
エコノミストは、じっと沈黙を通してきたが、ついにそれも限界とばかりに一斉に発言し始めている。
これに押されて、韓国政府もついに、最賃大幅引上げによる景気悪化を認める羽目になった。
17ヶ月もかかったのだ。この間に、多くの国民が職を失い路頭に迷わされてきた。
『朝鮮日報』(5月23日付け)は、「最低賃金引き上げの副作用、認めるまで1年5カ月かかった韓国政府」と題する記事を掲載した。
(1)
「最低賃金引き上げが卸売・小売業、飲食・宿泊業、自動車部品製造業などの雇用に悪影響を及ぼしたという事実を雇用労働部(省に相当)が初めて正式に認めた。
同部の用役業務を引き受けた学会の深層調査の結果、従業員を減らしたり、営業時間を短縮したりしたことが確認されたというものだ。
国民が既にはっきりと気付いていることを認めるのに、なんと1年5カ月もかかったのだ。
これは頑固ではなく現実逃避だ。
報告書の内容は、最低賃金の急速な引き上げが始まった昨年以降、ほぼすべての専門家・報道機関・現場の雇用主らが粘り強く言い続けてきたことと同じだ」
文氏は、自ら「雇用政府」などと麗々しい宣伝文句を使って登場した。
結果は、真逆の「失業製造機関」であった。これほど、インチキな政府も珍しい。
労組のご機嫌取りであった。雇用体系が崩れた今になってやっと「副作用が確認された」と言って、店を閉めた人々や仕事を失った人々をいっそう絶望させている。
(2)
「これまで政府は、雇用の悪化は『最低賃金とは関係ない』という姿勢を崩さなかった。
一昨年まで年間30万件に達していた雇用増加数が、最低賃金を16.4%引き上げた昨年、突然9万7000件に急減した。
それでも政策当局者たちは『最低賃金引き上げによる雇用の減少はない』大統領府政策室長)、「『最低賃金引き上げで失業率が増加した』という主張に同意するのは難しい」(雇用部長官)と言い張ってきた。
今年に入ってから4月までの雇用が約17万件増えると、大統領府雇用首席秘書官は「画期的変化」と再び事実をごまかした。
この増加がゴミ拾いやおもちゃの消毒といった短期アルバイトの雇用を大量に急ごしらえした結果だということを知っていながらの発言だ。国民を欺こうとしたのだ」
文政権の言い逃れを見てきて気付く点は、進歩派と自ら言う政権ほどその実態は、胡散臭いということだ。
「86世代」という得体の知れない集団が、自らの利益のために国民を犠牲にしてきたことは疑いない。
こういう政治制度抜本的に改め、日本のように内閣に責任を持たせる「議員内閣制」にしなければ、どうにもなるまい。
大統領府へ政治に無経験の人間が入り込むと、今回のような悲劇が起こる。
(3)
「生産性と乖離した無理な賃金引き上げが雇用を悪化させるのは経済の常識だ。
韓国経済報告書を先日発表した国際通貨基金(IMF)調査チーム団長は「最低賃金が2年間で30%も引き上げられれば、どんな経済も持ちこたえられない」と言った。
韓国の経済成長率展望値を2.6%から2.4%に引き下げた経済協力開発機構(OECD)も「最低賃金引き上げで低熟練労働者の雇用増加が鈍化した」と分析した。
外国人の目にもはっきりと見えていることを政府が必死に認めようとしないのは、結局、所得主導成長論が「聖域」だからだ」
文氏好みの「所得主導成長論」なるものは、経済学の素人を引きつける魔力がある。
所得が上がって労働者が楽になる。このことに反対する向きは誰もいない。
ただ、生産性を引き上げる工夫も不可欠であるが、文氏は反企業主義に染まっている。
生産性向上は、企業を利するという錯覚に陥っているから、この部分は初めから切り捨てられた。
要するに、最初から失敗は不可避の「自爆型」政策である。
この簡単な理屈が、文氏には飲み込めないのだ。盲信とは恐ろしいものである。