文大統領の政策運営を見るとさまざまな分野で混乱・停滞している
韓国、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の政策運営を見ていると、経済・外交・内政などさまざまな分野で政策が混乱し停滞してしまったようだ。
特に、経済政策に関しては専門家の中から、「文大統領は経済を十分に理解しているのだろうか」との疑問すら出ている。金融市場参加者の間でも、日韓関係の冷え込みなどから韓国経済の先行き懸念が増えている。
一方、文大統領の姿勢が一貫している部分もある。北朝鮮との融和を重視し続けている点だ。
8月15日の光復節の演説にて文大統領は、「2045年までに朝鮮半島の和平と統一を目指す」と表明した。北朝鮮がその主張を非難しても、全く懲りる様子も見せずに融和を呼びかけている。この姿勢は変わらない。それと同時に、文大統領は対日強硬姿勢をとり続けている。
この2つの主張を合わせて考えると、文大統領は対日強硬路線で国内の支持を取り付け、それをてこに北朝鮮との融和を進めようという魂胆が見え隠れする。
よく言われているのは、文氏は「国際世論を味方につけて、日本から南北統一に必要な資金を引き出そうとしている」という指摘だ。
仮にこの指摘が正しいとすると、文氏はわが国の世論をこれだけ敵に回してしまったことは、ある意味誤算と言わざるを得ないだろう。
混乱にのめり込む
韓国の政治・経済
文大統領の政策運営の下、韓国の政治、経済は大きく混乱している。
経済運営に焦点を当てると、文政権は成長の裏付けがないにもかかわらず、無理やりに最低賃金をひき上げた。この結果、中小企業を中心に経営内容が悪化する企業が増え、経済が疲弊した。
それに加え、外部環境も悪化している。
サムスン電子などの業績拡大を支えた世界の半導体市況は落ち込んでいる。加えて、米中の貿易摩擦から韓国の輸出は減少している。
一言で言えば、韓国がどのようにして自力で経済を安定させることができるか、具体的な方策を思い描くことは難しい。
外交面でも、国際社会における文政権の孤立感が高まってしまっている。
日米は、文大統領のことを、ほとんど相手にしなくなってしまった。
それに加え、文大統領が関係強化を目指してきた中国にも、韓国のことをかまうゆとりはない。中国との関係を修復できた北朝鮮も、文政権を当てにしなくなった。
安全保障に関しても、韓国がどのようにして自国の安定を目指し実現していくか、想像することすら難しくなっている。
特に、文政権が日韓のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)を破棄したことは、北朝鮮の時間稼ぎにプラスに働く。
それは、中国やロシアにとっても追い風となる。その状況が長く続くと、極東情勢の不安定感はどうしても高まるだろう。
徐々にはっきりしてきたことは、韓国国内において、文大統領がこうした混乱を食い止め、国内の安定と外交の修復に取り組む展開は期待できないとの見方が増えていることだ。
この状況に関して、韓国国内では経済界を中心に危機感が高まってはいる。検察がチョ・グク法相宅を強制捜査したことも、一部有権者の批判につながっている。
ただ、それが国全体に広がっているかというと、そこまでにはなっていないようだ。
大統領支持率を見ると、不支持が50%を超えた。
一方、市民団体などコア支持層は文氏をサポートしており、支持率が右肩下がりの傾向となっているわけではない。
当面、韓国では政治を中心に社会の停滞感が高まりやすい。
文大統領が夢想する
南北統一への道
文大統領は就任以来、一貫して北朝鮮との融和を重視している。文氏は北朝鮮との関係を深めることで、祖国の統一という悲願達成を目指す姿勢をアピールし、市民団体などからの支持につなげたいのだろう。
北朝鮮との融和にのめり込む文氏の姿勢を確認する材料には事欠かない。
2018年平昌オリンピックでは、女子アイスホッケー競技で南北の合同チームが結成された。8月15日の演説の中で文大統領は、「2032年にオリンピックの南北共同開催を目指す」とも述べた。
さらに、9月24日、文大統領は国連総会で世界各国に北朝鮮への体制保証をも求めている。文大統領は、北朝鮮からの批判など気にすることなく、金委員長へのラブコールを一方的に送り続けている。
実現の可能性はさておき、文大統領にとって、北朝鮮との融和政策をあきらめることは、市民団体など祖国の統一を夢見る人々の希望を奪うことにつながる。
文大統領は、今後も北朝鮮との融和を重視し続けるだろう。
問題は、どのようにして、その実現への希望を高めるかだ。それを経済的な側面から考えてみたい。当たり前だが、北朝鮮との融和、さらには南北統一を目指すには、インフラ開発などに莫大な資金がかかる。
国内の資本蓄積が厚みを欠く韓国が自力で北朝鮮との融和、さらには統一を目指す資金を確保するのはかなり難しいはずだ。
すでに韓国の大手財閥企業が、わが国の金融機関との関係強化に動いている。輸出の減少などを受けた景気先行き懸念から、資金は海外に流出しつつある。
もしかすると、文大統領には、海外の資金を当てにして、北朝鮮との関係強化に臨めばいいとの考えがあるのではないか。
特に、文大統領は、対日強硬姿勢をとり続け、元徴用工への賠償問題などに関してわが国の要請に応じていない。
前述した通り、文大統領の脳裏には、対日批判を足掛かりにして日本から資金を引き出し、それを北朝鮮政策に回そうとの思惑があるように見えてしまう部分すらある。
韓国政治の
さらなる混乱リスク
冷静に考えると、韓国が朝鮮半島の統一を実現することは、かなり想定しづらい。
そもそも中国が“緩衝国”としての北朝鮮を手放す展開は想定しづらい。
朝鮮半島で中国を庇護者とする北朝鮮と米国の同盟国である韓国が対峙し続けていることは、米中の直接対峙を避けるために重要だ。
また、経済成長が限界を迎えた中国は、国内をいかに統治し、共産党政権の支配を保つかという問題に直面している。
中国共産党にとって、経済成長率の低下は、求心力の低下に直結する。
香港での反政府デモなどが国内に広がらないようにするために、共産党政権は限られた財源を用いて統治体制を強化しなければならない。
北朝鮮という独裁体制国家の存在は、中国が中朝国境の管理よりも、国内統治に注力するために重要であり、むしろ都合がよいはずだ。
韓国主導による朝鮮半島の統一を想定すること自体、かなり現実離れしていると言わざるを得ない。
しかし、文大統領は北朝鮮との融和という夢をあきらめられない。
今後も文大統領は労組や市民団体に歓迎される主張を続け、左派政権として基盤の強化に努めるだろう。それ以外、文氏が自らの立場を守るすべは見当たらない。
文大統領が理想を追求するに伴い、韓国はさらなる国内の混乱と国際社会での孤立に向かうだろう。
今のところ、保守派は文政権への批判に徹しているが、本当に政権交代が必要だという機運が熟すには至っていないようだ。
韓国全体で危機感が共有されるには、まだまだ時間がかかりそうだ。
その間にも、企業は、文政権の政策運営に失望し、海外進出に取り組む。
外需頼みで景気持ち直しを実現してきた韓国経済は、かなり厳しい状況を迎え、社会心理はさらに悪化するだろう。
そうなれば、文政権は世論の批判が自らに向かわないよう、さらに強硬な姿勢で日本を批判し、歴史問題などへの対応を求める可能性が高い。
今後、戦後最悪の日韓関係の修復が、簡単には議論できないほどに冷え込んでしまう展開も想定される。
そうした展開を念頭に、日本は国際世論を味方につけつつ、自力で極東地域の安定を実現して国力の増強に取り組む必要がある。
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)