年金制度が崩壊したということですか?」韓国人が“2000万円問題”に大注目の理由
ここ最近、韓国人と話していると「ところで‥」と話題を切り替えられることが多い。
相手が40代、50代だからか、日本の輸出規制の話ももちろん出るが少しだけ、たいていこの話に持っていかれてしまう。
ずばり、「年金問題」だ。
韓国でも大注目の「年金2000万円問題」
日本の「年金2000万円問題」は韓国でも大々的に報じられた。どこも論調は、「日本でも足らないのに韓国は大丈夫か」という自分たちの足下を振り返るものだった。
知り合いの50代の会社員は、「他人事ではないですよ。韓国は少子高齢化も日本とは比べものにならないほど早く進んでいますし、老いは誰にでもやってきて生活に直結する切実な問題です。あらためて老後資金にいくら必要なのか、計算し直しました」とやや興奮ぎみに話していた。
年金問題で訊かれることは大きく2つ。「日本では年金制度が崩壊したということなのですか?」と「日本は老後資金が2000万円で十分に余裕のある生活ができるんですか?」。
日本以上のスピードで少子高齢化が進む韓国
周知のとおり、韓国では猛スピードで少子高齢化が進んでいて、65歳以上の人口が14%となる高齢社会に突入したのは2年前。
そのかかった年数といえば日本が24年だったのに対し、韓国は17年という世界でも類のない速さで進んでおり、2026年には超高齢社会になると予測されている。
一方、出生率はじわじわと下がっていて、昨年の合計特殊出生率は遂に0.98人と1人を割った。
ちなみに日本は同年1.42人で3年連続下がっているが、韓国はそれをさらに下回っている。
政府も支援に躍起になっているが今のところ効果は見えない。
そもそも若年層の失業率が高いため、未婚の理由に経済的な事情を挙げる人も多く、20~44歳では男性は58%、女性は48%が未婚(2015年)といわれている。
構造上の問題にくわえて、教育熱の高い韓国では子供に投資する傾向が高く、ちょうど今の40代50代は自分の親と子供に挟まれて出費がもっとも高い世代といわれ、老後資金の準備にまで気を配れないのが現実だ。
かつての儒教精神は遠い昔。
「親世代は、大家族が多かったので、老後の面倒は同居したりして、子供がみてくれるものというのが当たり前でした。
ですが、今は、自分たちの生活だけで精一杯。その時になったら考えよう、どうにかなるという友人も周りには多い。それだけ今の生活がたいへんなのです」(同前)。
韓国では老後3000万円が不足する?
韓国で国民年金制度が整ったのは1988年。
日本で導入された1942年と比べると歴史は浅く、そのぶん年金の恩恵に与かれない世代もあり、「日本のように『100年安心の制度』なんていう概念はもともとない」(同前)。
韓国の各メディアで日本と同じ条件(夫65歳以上、妻60歳以上共に無職の場合)で老後資金をシミュレーションしていたので実態を引用してみよう。
いずれも平均値で、韓国の平均寿命で計算されている。
「国民年金と基礎年金を合わせた公的年金は85万ウォン(約7万7000円)、その他の賃貸収入などが21万ウォン(約1万9000円)。
ここに貯蓄5371万ウォン(約483万4000円)から夫婦共に19年間、月に24万ウォン(約2万2000円)で暮した場合を想定しよう。
月合わせて130万ウォン(約11万7000円)となるが、適正とされる生活費は243万ウォン(約21万9000円)といわれ、113万ウォン(約10万2000円)が不足する。
もし、19年後に夫が先立ち妻だけがさらに8年間暮すと月76万ウォン(約6万8000円)足りなくなり、合計3億3060万ウォン(約2975万円)が不足となる」(朝鮮日報6月18日)
とある韓国人50代会社員の場合
では、老後資金を見直したという前出の50代の会社員の例をみてみよう。
中堅規模の企業に勤める55歳で、子女はひとり、年収は1000万円弱。子女はすでに社会人となり、こちらは互いに経済的負担をかけ合わないことで合意しているという。
一般にイメージする韓国社会とかけ離れているように感じるかもしれないが、家族の在り方もどんどん変貌していて、それほど韓国社会の変化はめまぐるしい。
話を戻そう。この会社員は国民年金制度が始まった1988年に国民年金に加入し、支給開始年齢は63歳で、支給予想額は月180万ウォン(約16万2000円)だ。
夫人は専業主婦(53歳)でやはり国民年金に入っていて64歳以降月50万ウォン(約4万5000円)が支給される予定で、ふたり合わせると230万ウォン(約20万7000円)が毎月の生活費となる。
旅行にも行きたいし、贅沢しなくとも余裕のある生活を維持することを目標としていて、40代半ばに単身者向けワンルームのマンションを購入し、貸し出している。
こちらの家賃収入は毎月150万ウォン(約13万5000円)ほど。
さらに、銀行の積立式の年金保険にも2つ加入していて、63歳になる2027年には、それぞれ1億ウォン、合わせて2億ウォン(約1800万円)のまとまった金額がはいってくるという。
これだけみれば十分に余裕のある生活ができるだろうと思うが、
韓国は物価が年々上昇しており、「病気などどんな事態が起こるか分からないですから、日本の2000万円問題のニュースを知って、
積立預金を始めるとか、今の家を売って少しでも安いところに移って差額を元にもうひとつ単身者向けのマンションを購入しようか検討中」と話す。
今年初めから不動産市場が停滞しているといわれているが、それでも韓国では不動産投資は根強い人気で、別の50代の知り合いの夫人は毎週のように不動産セミナーに参加して資産をどうすれば増やせるか余念がないそうだ。
定年退職後も働く人は半分以上
この知り合いの場合は恵まれたケースで、だからこそ話してもくれたのだろうが、国民年金受給者の半分ほどが現役時代から比べると生活レベルは落ちたと感じており、定年退職後も働く人は全体の半分以上にのぼる(ハナ金融グループ報告書)。
以前、バイク便ならぬ「お年寄り宅配」の取材をしたことがあった。
これは地下鉄が無料になる65歳以上の高齢者が軽量の荷物や書類を運ぶ仕事のことで、この仕事で月5万円ほどの収入を得ていた70代の男性がいた。
企業に勤めた後、起業したがあまりうまくいかず、年金は夫人と合わせて3万円程度。
彼らが受給しているのはは、年金に加入しそこねた65歳以上の低所得者層に支給する基礎年金(約9000円~1万8000円)で、2014年から始まった。
この男性の場合、子供たちが生活費を補充してくれているので生活に不安はないと話していて、「月5万円でも孫たちにおこづかいもあげられるし、社会に出ていることは気分がいい」とも語っていた。
こう書いてくると、ふと思う。
日本も韓国もこれから到来する超高齢、そして超超高齢社会に耐えられるのだろうか、と。
早いスピードで社会構造が変わる韓国のほうが意外に早く年金の本質的な議論が始まるかもしれない。
(菅野 朋子)