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李 相哲(龍谷大学教授)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

2020-06-16 18:18:02 | 日記
李 相哲(龍谷大学教授)【佐藤優の頂上対決/我々はどう生き残るか】

国際 韓国・北朝鮮 週刊新潮 2020年6月4日号掲載

李相哲教授

4月に20日間消息不明となり、一時は死亡説も取り沙汰された北朝鮮の金正恩委員長。5月1日に1度姿を現したが、その後の動静は伝えられていない。

かねて健康不安が囁かれていた金正恩に不測の事態が生じた時、北朝鮮はどうなるのか。北朝鮮研究の第一人者が分析する朝鮮半島の未来。

佐藤 日本でなら私と李先生は同じ学年になりますが、先生は中国でお生まれになった朝鮮族の2世だとうかがいました。

李 黒竜江省三江平原北部の村が故郷です。1930年代に韓国南部の慶尚道から集団で移住してできたところです。


佐藤 日本統治時代の満洲ですね。

李 当時はやっぱり満洲という場所にロマンがあって、両親はそれを追いかけて移り住んだそうです。

佐藤 その地を開拓された。

李 ええ、稲作です。それまで人の手が及ぶことのない土地でしたが、日本人が山の反対側にある松花江の水を、トンネルを掘って引っ張ってきた。

もともと肥沃な土壌でしたから、欲しいだけ米が収穫できました。ただ寒いところで、稲が実るまで100日以上かかる。そのタネは北海道産です。だから幼い頃から北海道という地名は知っていましたね。

佐藤 李先生が10代の頃、中国は文化大革命の真っ最中です。当時は北朝鮮が憧れの対象だったそうですね。

李 1976年くらいまでは、もう全中国の若者が北朝鮮に憧れていました。

だから中国東北部から10万人を超える朝鮮族の知識人が北朝鮮に渡っていきましたね。

北朝鮮は先進国だったんです。私たちには北朝鮮の映画の影響が非常に大きい。映画の登場人物が非常に魅力的でした。

佐藤 私も学生時代に北朝鮮の映画をかなり見たのですが、朝鮮戦争を扱った「崔鶴信(チェハクシン)の一家」は牧師が主人公で、北朝鮮におけるキリスト教がどういう位置づけだったのかよくわかって、興味深かったです。

李 もう50年以上前の映画ですね。私もよく覚えています。牧師はリチャードというアメリカ人で、実はCIA局員でした。朝鮮戦争が勃発して、2人の青年が韓国のある村にやってくるというシーンから始まる。

佐藤 はい、そうです。最後はB-29による空襲で教会が燃え落ちるところで終わります。

李 懐かしいですね。

佐藤 それから、私はもともとチェコスロバキアの共産党政権下の教会と国家の関係が専門だったのですが、現地で北朝鮮の教会に関して、面白い話を聞いたことがあります。平壌で世界青年学生平和友好祭をやったことがありましたね。

李 1989年です。平和友好祭は、いわば社会主義国のユニバーシアードで、北朝鮮がソウル五輪に対抗する形で開催しました。

佐藤 その時に各国からクリスチャンがたくさん来るので、カトリックとプロテスタントの教会を一つずつ作ることになった。

ところが神父も牧師もいないわけです。

そこで朝鮮労働党は、カトリックは東ドイツに、プロテスタントはチェコに留学生を派遣して学ばせることにしたのですが、彼らが言うには、内容はいいから儀式だけ教えて欲しいと。

李 北朝鮮らしいですね。

佐藤 工作員を受け入れるようなものですから、チェコスロバキアがスイスの世界教会協議会に相談すると、是非受け入れなさい、形だけでもいつかその器の中に人が入ってくる可能性があるから、と言われたそうです。それで留学生を3年ほど受け入れた。

李 日本統治下の平壌は「東洋のエルサレム」と呼ばれていました。

佐藤 そうですね。布教が盛んで、神学校も教会もあった。

李 金日成の父・金亨稷(キムヒョンジク)の通った崇実中学は朝鮮半島でもっとも優秀な学校でしたが、ミッションスクールです。また母・康盤石(カンバンソク)の「バンソク」という名前は聖書から採っている。

佐藤 岩の意味を持つ「ペトロ」ですね。

李 金日成の母方の祖父は教育者で、有名なキリスト教信者でした。だから金王朝の家系はキリスト教と関係が深い。

佐藤 金日成の回顧録『世紀とともに』の第1巻には、子供の頃、母と一緒に教会へ行った話や、愛の教えと主体(チュチェ)思想は非常に近いということが書いてあります。

李 実際、近いですよ。しかも金日成の著作は聖書のように扱われ、統治システムも金日成がイエス・キリスト、労働党の何々細胞委員長が教会長老の役目を果たしている。キリスト教がカルト化した感じです。

佐藤 おっしゃる通りで、昨年、同志社大学神学部の授業で北朝鮮の映画「月尾島」を見せて、キリスト教的要素がどこにあるか、と質問してみました。

学生たちは、教会が朝鮮労働党でイエスが金日成だ、と答えました。

個人の命は有限でも、教会に属しイエスのために死んでいくのが救済、という構造を映画からきちんと読み取っていました。

金正恩重体説

佐藤 その金日成体制を引き継ぐ金正恩が、4月に20日ほど姿を見せず、死亡説まで流れました。これをどのようにご覧になっていますか。

李 金日成の誕生日である4月15日の太陽節に、金日成の遺体が安置されている太陽宮殿へ参拝しなかったことからこの騒ぎが起きました。

そして4月20日から24日まで、米韓で戦略爆撃機B-1Bも参加した空軍演習が行われましたが、いつもは口汚く罵る北朝鮮が無反応でした。

佐藤 さまざまな情報が飛び交いました。

李 主に三つの説がありました。

一つ目は、心臓のステント手術をして、それが失敗した。

ステント手術はこれまでに2回受けているといわれています。本来なら手術にフランスから医師を呼びますが、コロナの影響でそれができず、北朝鮮の医師が行なった。

しかしうまくいかず、中国から医師団を呼んだというものです。

佐藤 中国からの医師団派遣はロイターが報じました。

李 4月23日に出発したとありましたが、私が情報を得たのは22日。19日あたりからまず6名の医師が行っています。

ロイターの報じた23日の50人の医師団というのは、医師団を装った政府代表団じゃないかと考えていました。

佐藤 私もその頃、脳死状態にあるのではないかという情報が中東ルートで入ってきました。

李 北朝鮮は中東でマネーロンダリングしていますからね。

二つ目は、4月14日の巡航ミサイル発射実験で事故に遭ったというものですが、彼と出歩く幹部たちが無事ですから、これはありえない。

三つ目は、金正恩が放心状態で何もしたくない状態だという説です。

佐藤 メンタルですね。

李 はい。もともと金正恩は鬱病だという話があります。

今年は経済を独自路線で立て直すはずが、頼りの中国からの観光客がコロナで来られなくなった。

自ら国境を封鎖してしまいましたからね。習近平は年間100万人の観光客を送ると約束していたんです。

それがなくなり、打つ手なしの状態でした。

佐藤 でも5月1日に順川リン酸肥料工場の竣工式に姿を現しました。

李 翌日、まずその様子がラジオで報じられ、次に写真、映像が公開されました。

映像を見ると、歩く際に左足が遅れていたり、カートで移動したりし、顔写真では顔がむくんでいます。

映像は本物だと思いますが、完全に健康不安を払拭できたかといえば、そうではない。

しかもその後の動静が伝えられていない。また、雲隠れしていた20日間、どこで何をしていたのかという疑問も解消されていません。

佐藤 何らかの異変が起きていた。

李 台湾の情報機関である国家安全局の邱国正局長が国会答弁ではっきり病気だと述べています。

金正恩が20日以上、姿を現さなかったことは5回あるとされていますが、少なくとも今回はその間、仕事ができない状況にあったのは間違いないと思います。

佐藤 金正恩重体説の第一報はアメリカのCNNでした。でも北朝鮮の情報に強いのはやはり中国とロシアではないですか。

李 今回の情報の多くは中国から出てきました。

北朝鮮ではいま、中国の諜報員2千人が活動していると聞いたことがあります。

今回は当初から健康不安を打ち消していた韓国は、昔はヒューミント(人を介した諜報)があったのですが、金大中の左派政権以降、情報網が大きく毀損され、文在寅政権では、ほとんどなくなっていると見られています。


後継者は妹・金与正

佐藤 今回、もう一つ注目されたのは、妹の金与正(キムヨジョン)でした。後継者説がずいぶん取り沙汰されました。

李 昨年の終わり頃から、金与正が兄に代わって、内外の政治に関わっていることが確認されています。

12月に「尊敬する金与正同志」と書かれた指示文書が出ていますが、「尊敬する」という敬称は、北朝鮮ではトップにしか使えません。

そしてその文書を読むと、彼女は農業にも女性兵士の生活改善にも関わっていることがわかります。

佐藤 私は外務省時代、ロシアが収集する北朝鮮情報も担当していました。

その頃、旧ソ連共産党中央委員会の朝鮮課長だったワジム・トカチェンコ氏から聞いたのですが、かつて金永南(キムヨンナム)外務大臣が訪露した際、北朝鮮大使館でレセプションがあったそうです。

そこで彼に「ダラゴイ金永南同志」と言ったら、その場が凍りつき、彼も「国に帰れなくなる」と、ものすごい勢いで怒り出したそうです。

ロシア語のダラゴイを直訳すると「尊敬する」ではなく「親愛なる」なんですけどね。

李 それでも反逆罪に問われるかもしれない。

佐藤 李先生がご著作で触れられているロシアの極東連邦管区大統領全権代表だったコンスタンチン・プリコフスキーは、金正日を個人的によく知っています。

彼の回想録には、政治的な資質があるのは金正恩と金与正だと、金正日が言っていたことが書かれていますね。

李 実質的にいま金正恩の後継者は金与正しかいません。ただ彼女の権威はまだ非常に弱い。彼女には軍の経歴がまったくありません。

佐藤 金正恩もほとんどなかったわけですが、金正日が亡くなる前に大将になっている。

李 大将になってから、軍事委員会の副委員長にも就任しています。

北朝鮮の最高権力者は軍部の最高司令官も兼ねますが、果たして軍経験のない32歳の女性に、70代、80代の将軍たちが従うのか、という問題があります。

そして何よりいまの権力序列では、金与正は30番以下です。その上に政治局委員が20名ほど、候補委員が10名以上います。

佐藤 彼女は候補委員になったところですからね。

李 そこから政治局委員、常務委員になって最高権力者になるわけです。いくら北朝鮮でも、一足飛びに最高指導者になるわけにはいきません。

佐藤 いまは金正恩がいるから、権力を笠に着ることができる。

李 また彼女が権力を受け継ぐには中国とロシアが認めるかもポイントになります。

ロシアは北朝鮮をどう見ているんでしょうか。

佐藤 金正恩になって少しマシになりましたが、プーチンは金正日をとても嫌っていました。

6カ国協議のロシア代表はアレクサンドル・ロシュコフで、私の友人です。

彼が言うには、国家元首は騙さないのが古今東西のルールだけど、金正日は違った。

彼は核開発について、やりたいけれども能力がないし貧しいからやれない、と言った。

それをアメリカに話してくれ、と頼むので、プーチン大統領が伝えたら、それは嘘で、大恥をかかされたそうです。


李 金正日はほんとうに狡猾な人で、北朝鮮は1980年代から一度たりとも核保有を諦めたことはありません。

佐藤 いまある核も絶対に手放しませんよ。

リビアでは核放棄したら、カダフィ政権は崩壊してしまったし、かつて南アフリカが大きな影響力を持っていたのは核のおかげです。

李 特に金正恩は絶対に放棄しません。彼の功績は、北朝鮮を核保有国にしたことです。

核は彼が指導者たる資格や権威とつながっていますから、手放すはずがない。

佐藤 核があるから、外交関係もないのにトランプ大統領をシンガポールに呼び出すことができるし、板門店に駆けつけさせることができます。

李 そもそも核を奪ったら、金正恩はただの36歳の青年ですよ。

佐藤 しかも生活習慣病をかなり抱えた不安定な指導者です。

李 トランプが、核を捨てたら豊かな国になりますよ、と説得しようとしましたが、金正恩はそんなことは望んでいない。

豊かになれば体制が崩壊します。

かろうじていま体制維持ができているのは、移動を制限して、適当に飢えさせ、一部の人には特権を与えて人心をコントロールしているからです。

佐藤 私も、大量消費文明が入ってきたら金体制は崩壊すると思います。

ソ連崩壊の一番の原因は、モノの流入を認めてしまったことです。

かつてロシア共産党のイリイン第2書記は、ゴルバチョフは愚か者でブレジネフは頭がよかったと話してくれました。

彼はサーティワン アイスクリームの話をするんです。

モスクワには3種類のアイスしかなかったけども、サーティワンが入ってきて31種類になった。

否、上に載せて2個にするなら31×31から900通り以上になる。すると人間はそれらをすべて食べたくなるんだと。

ブレジネフは人間の欲望がいくらでも膨れ上がることに気がついていた。だから欲望を膨れ上がらせず、昨日より明日のほうが少しだけよくなるようにしていた、と分析していました。

金正恩しか見ない韓国

李 ただ北朝鮮で体制が少しずつ緩んできている兆候はあります。

おっしゃるように社会主義国は配給によって豊かさを調整してきたわけですが、いま北朝鮮では一部のエリート層以外、配給が行き届いていない。

人民は非合法な市場で生計を営むしかありません。

市場には多くの人が集まり、情報も飛び交いますから、不満が一気に爆発する可能性がある。

また携帯電話もいま500万台以上といわれています。人口は2500万人ですから、ほぼ普及したといっていい。だから情報流通もあります。

佐藤 それは危ない状態ですね。

李 私は北朝鮮でのクーデターとか人民蜂起はあり得ないと思っていたのですが、もし金正恩に万が一のことがあれば、その可能性は高まります。

後継者は金与正しかいません。

他の幹部では、たちまち混乱に陥るでしょう。

ナンバー2の崔竜海(チェリョンへ)も、実は4月から動静がわからなくなっています。

だからとりあえず金一族と運命共同体の幹部たちが、金与正を中心に、いまの路線でいこうとするでしょうが、問題は、北朝鮮が生きていかなければならないことです。

佐藤 そのためには制裁解除が必要になってくる。

李 北朝鮮は、工場の稼働率が20%しかないし、農業も振るわない。だから外国の援助が必要です。

でも援助を受けるには、核の放棄と人権問題、日本なら拉致問題を解決しなければならない。

そこで路線闘争が起こって、クーデターや人民蜂起につながる可能性は大きいと思います。

佐藤 金正恩の息子はいま何歳ですか。

李 10歳といわれています。金正日から金正恩が後継者に指名されたのは、2009年1月です。その後、李雪主(リソルジュ)と結婚し、10カ月くらい後に長男が生まれたと推測されています。

佐藤 そうすると、金与正がその息子までの中継ぎをするのは難しいですね。

李 そんな長い期間は持たないでしょう。つまり金正恩が亡くなれば、金王朝はもう終わりです。

その後、短期間の混乱を乗り切り、南北再統一をするプランが必要ですが、いまの韓国の文在寅政権は、金正恩が永遠に生きていることを前提に物事を考えている節があります。

2032年に南北共同オリンピックをするとか。

佐藤 韓国の情報は、国民とか世界ではなく、金一族だけに向けている印象がありますね。

李 北朝鮮を支えている思想は、主体思想です。

もはやマルクス主義からはかけ離れ、人間中心の哲学などと言っていますが、つまりは、人間はバラバラだと何もできないから組織化して、それを動かす頭が要る。

それが首領様で、首領様がいるから人民がいるという考えです。

佐藤 「人民福・首領福」と言いますね。こんな人民を持った首領様は幸せで、こんな首領様を持った人民は幸せ、というわけです。

李 文在寅の哲学も「人間が先」だというものです。

「サラム(人)」と言いますが、彼は若い頃に金日成の著作を少し齧ったのかもしれません。

ただ左派政権であっても、マルクス主義も本来の金日成の哲学も本質的には理解できておらず、ただ表面的に追随している感じです。

佐藤 私は韓国の左派を見ていて、マルクス経済学の影響が薄いと感じています。

要するに労働力の商品化を脱構築するところが弱い。だからスターリニズムなんです。

国家機能を大きく強化することで再分配を行う政体で、これは国家主義というか、ファシズムに近い。

李 そこは北朝鮮に通じるところがあるかもしれない。

これからのコロナ後の世界は、米中に二分される可能性が高い。

その時、韓国は中国側につく可能性がある。

THAADを追加配備せず、「自由で開かれたインド太平洋」構想にも参加しない。アメリカを怒らせて、韓国から駐留軍を撤退させるのを望んでいる節もあります。

佐藤 その動きに北朝鮮も大きな影響を受けますから、話はややこしい。俯瞰すれば、日韓関係や北朝鮮情勢は、米中関係のいわば従属変数です。米中関係によって大きく変わってくる。

李 中国も北朝鮮問題をどうしたいのか、はっきり打ち出していません。目標がないからこうした状況になっている。

ただコロナ後には何か大きな変化があるかもしれません。

李 相哲(りそうてつ) 龍谷大学教授

1959年中国黒竜江省生まれ。

北京中央民族大学卒。82年共産党機関紙「黒龍江日報」に入社し、87年上智大学に留学、95年に同大学院で博士号取得(新聞学)。

98年に帰化し、同年龍谷大学社会学部助教授、2005年教授。

著書に『北朝鮮がつくった韓国大統領』『金正日秘録』『金正日と金正恩の正体』『朴槿恵の挑戦』など。

韓国産業界「日本頼み」からの脱却が絶対にできない理由

2020-06-16 17:18:58 | 日記
NEWSポストセブン

2020年02月17日 07:00

韓国産業界「日本頼み」からの脱却が絶対にできない理由

コロナウイルス騒動ですっかり過去のことのように思われているかも知れないが、韓国への輸出規制を強化したことによる日韓関係の悪化は改善されていない。

韓国の産業界で“脱「日本頼み」”が進んでいるという報道もあるが、そんなことが可能なのか。

経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。

 * * *

韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じた「元徴用工」訴訟に対抗し、

日本が半導体やディスプレイの製造に必要な化学材料3品目(フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素)の韓国への輸出規制を強化したことで過去最悪の状況になった日韓関係は、今なお凍てついたままである。

『朝日新聞』(1月21日付朝刊)によると、

日本の対抗措置で輸出総額の2割を占める半導体産業が深刻なダメージを受けた韓国は、素材や部品、製造装置の脱「日本頼み」対策(ジャパンフリー)を官民挙げて猛スピードで推し進め、成果を出し始めているという。

では、これから韓国は「日本頼み」から脱却することができるのか? 

経営コンサルタントの仕事や講演などで韓国を200回以上訪れ、韓国の全財閥と付き合ってきた私に言わせれば、絶対にできないと思う。

 
なぜなら、日本の素材の力は3年や4年で追いつけるような底の浅いものではないからだ。

化学メーカーだけでなく、半導体の基板メーカーや電子線描画装置メーカー、ガラスメーカーなどが信頼関係に基づいて連携しながら、何十年もコツコツと研究開発を続けなければならないのである。

しかし、韓国の産業界にそういうカルチャーはない。

今回の輸出規制で「寝た子を起こした」と見る向きもあるようだが、象徴的な言い方をすれば、3人くらいは起きたとしても、300人は寝ているだろう。

なぜか? その理由は韓国産業界のメンタリティにある。

もともと韓国人の多くは、自分たちのほうが“先輩”であり、あらゆる面で日本よりも進んでいたと考えている。

たしかに、それも一理ある。明仁天皇(現・上皇)も「桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると続日本紀に記されていることに韓国とのゆかりを感じています」と述べている。

ところが、日本による植民地化と圧政で抑えつけられ、さらに戦後は南北に分断された。

その結果、日本の後塵を拝することになった。

だから韓国の悲哀は「すべて日本のせいだ」──。

韓国の政治家や年配者は、自分たちのだらしなさを棚に上げ、伝統的にそう説明してきたのである。

そもそも韓国で戦後に財閥が誕生して繁栄したのは、役人の許認可権限が強いからである。

政治家と癒着して役人とつるんだ財閥が、儲かる産業や不動産などの利権を独占してしまうのだ。

このため役人と財閥企業の正社員以外は

「ヘルコリア」(※地獄の朝鮮。韓国人が就職率・就労率の低さや労働環境の劣悪さなどを念頭に置いて自国を自虐的に呼ぶ言い方)で、夢も希望もない状況になっている。

 
そして財閥は、日本や欧米に追いつき追い越すためにかなり無理をしている。

韓国の中小企業によれば、彼らが品質改善や生産性向上、コストダウンなどで良いアイデアを出したり新しい技術や製品を開発したりしても、財閥に全部吸い上げられてしまい、自分たちは割を食って細るだけなので無駄な努力はしないという。

だから韓国では中小企業が育たず、産業の裾野が広がらないのだ。

前出の『朝日新聞』の記事によると、今回の局面では、財閥の大企業が率先して脱「日本頼み」に動き出し、素材や部品の開発を目指す中堅・中小企業に多くの大企業が生産ラインを開放しているという。

だが、前述したように、素材などの開発には多業種の企業が連携して何十年もかかる。

韓国の産業界にそれができるメンタリティと研究基盤はなく、財閥のトップが号令をかけたらその間は進むかもしれないが、長続きはしないだろう。

しかも、限られたエリートが役所や財閥企業に就職し、そこから落ちこぼれた人たちは中小企業に入って、いくら努力をしても財閥に土足で踏みにじられるという歪んだ構造がある限り、脱「日本頼み」を達成するのは無理だと思う。

 
また、韓国ではエンジニアが冷遇されている。

象徴的なのは社屋や工場だ。

財閥企業の文系ホワイトカラーは高層ビルの本社オフィスにいるが、エンジニアは工場の天井から吊り下げた中二階のような環境が悪い一画に押し込められていることが多い。

韓国でエンジニアになるということは、文系ホワイトカラーの“しもべ”になるのと同義と言っても過言ではない。

インドや台湾などの場合は文系ホワイトカラーよりエンジニアのほうが優遇されているし、日本では文系も理系も現場勤務からスタートするケースが多いが、韓国では稀だろう。

エンジニアを下に見る韓国のメンタリティの“伝統”は、今後も変わらないと思う。

輸出規制強化の対象になった3品目をはじめとする日本製の素材や部品の中には、韓国が日本に頼らずに製造できるものもある。

ホワイト国(※輸出管理制度上の優遇措置の対象国。現在は「グループA」。以下、グループB、C、Dと呼ばれる)や台湾経由で迂回輸入するという方法もすでに使われている。

実際、サムスン電子は輸出規制が強化された直後に副会長が来日し、迂回輸入で調達できるように奔走していた。

韓国に工場を建設する日本企業もあるかもしれない。

だから、もちろん油断は禁物だが、本質的な意味で韓国に脱「日本頼み」はできない、と私は見ている。

※週刊ポスト2020年2月28日・3月6日号

一部のメディア等は国民の不安を煽るだろうが、この損失が原因で年金が減らされたり、ましてや年金制度が破綻する心配などは不要だ。

2020-06-16 17:02:29 | 日記
「年金巨額損失」というニュースの正しい読み方

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.279]

金融研究部上席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾


1―はじめに

年金に関する批判的な報道が再び増えそうだ。新型コロナウイルスの影響で世界中の株価が急落し、年金積立金の運用が大幅な損失となった可能性が高いからだ。

一部のメディア等は国民の不安を煽るだろうが、この損失が原因で年金が減らされたり、ましてや年金制度が破綻する心配などは不要だ。

決して鵜呑みにしてはいけない。


2―2019年度は「大幅損失」か

年金の積立金はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国内外の株式や債券に投資している。2019年度は8兆円程度の損失となった模様だ。


損失の大半は国内外の株式投資によるものだ。株価が下落した2015年や2018年も「ギャンブル性が高い」などの批判が噴出したが、今回も同じような論調が増えるだろう。

2019年度は8兆円程度の損失


3―累計では57兆円の黒字

年金不安を煽りたいメディア等は今回の損失ばかりをクローズアップしがちだが、GPIFが運用を始めた2001年度からの累計では57.8兆円の黒字で、その大部分は国内外の株式投資によるものだ。

そもそも“ギャンブル”とは「たまに大当たりするがトータルでは負ける」ものだが(1大勝9敗のイメージ)、過去19年間のGPIFの運用実績は12勝7敗だ。

ギャンブルと基礎研レポートは正反対で「3年に1度は損失が発生したが、トータルではプラス」が正しい評価だ。


4―株式を増やさなかったら・・・

実はGPIFは2014年10月末に株式の投資割合を増やした経緯がある。従来は資産全体の24%だったが、ほぼ倍増して株式への投資割合を50%にした。


当時は日本の金利が低下傾向にあり、10年国債の利回りがついに0.5%を下回った時期だ。

資産の6割を国債に振り向けても必要十分な利回りを確保しづらい等の判断から株式投資を増やしたが、「ギャンブルだ」などの批判が散見された。

GPIFは株式の割合を増やした


では、もし2014年に株式の割合を増やさなかったら、どのような収益結果になっていただろうか。GPIFの詳細な売買内容は公表されていないので、各資産の運用ベンチマーク指数の収益率を用いて試算してみよう。

株式の投資割合を増やすと発表した2014年10月末を100とすると、変更前(株式の投資割合24%)は2020年3月末時点で111.3なのに対して、変更後(株式50%)は113.3と2ポイントほど高い。

変更当時の運用資産総額(約130兆円)をベースに考えると、約2.6兆円のプラス効果だ。

株式の投資割合を増やした方が高収益だった


確かにグラフからは、変更後( 株式50%)の方が今回のコロナショックによる株価急落の影響が大きい様子がわかる。

しかし約5年半のトータルでは、コロナショックを考慮しても株式を増やしたことによる資産価値への弊害は認められない。

GPIFの株式投資拡大は、一部メディア等が報じるように「年金を破綻に導いた」どころか、「将来世代への給付をより確実にしている」と言えるのではないだろうか。



従来どおり日本国債中心なら運用損失による批判を受けずに済むだろう。

しかし、今やマイナス金利の日本国債に資産の過半を投資し続けることが、国民の大事な財産である年金積立金を預かる者として本当に責任を全うしているといえるのか、大いに疑問だ。


5―年金の支給に積立金はほとんど使われていない

ところで、「年金は積立金から支給される」と考えている人が多いようだ。

だからこそGPIFの運用で損失が発生すると「年金破綻の危機!」などの過激な文字がメディアを賑わせ、さらにネットで拡散して大騒ぎになるのだろう。これは大きな間違いだ。

具体的な数字で示そう。2018年度の公的年金の支出総額は約53兆円で、その99%以上が年金の給付だ。

財源は3つあり、

( 1)現役世代から集めた保険料(約38兆円)、

( 2)税金など(約13兆円)、

( 3)積立金など(約2兆円)となっている。

つまり、保険料と税金が95%以上を占めており、積立金の貢献度は3.5%に過ぎない。

15年度以降の推移をみても、積立金の貢献は年間2兆円~5兆円程度だが、その積立金の残高は約170兆円ある(2019年末時点)。

仮に積立金の運用で10兆円規模の損失が数年続いたとしても、年金が減ることもなければ、ましてや年金制度が破綻することもないと考えるのが合理的だろう。


例えるなら、定常的な収入(給与や親からの仕送り)だけでは少し足りず、170万円の貯蓄から年間2~5万円を取り崩して生活している人が、貯蓄が20~30万円減ったからといって直ちに生活費が足りなくなったり、生活そのものが破綻すると言えるだろうか。


6―100年先まで、積立金は年金支給の1割程度の見込み

厚生労働省によると、年金支給に占める積立金の貢献度は100年先まで1割程度で推移する見込みだ。

しかも、この試算は6つの経済シナリオのうち悪い方から2番目(実質経済成長率0%が続く前提)の場合である。

今後も景気サイクルや災害などの影響で年金積立金の運用で大きな損失が発生することはあるだろう。

大事なことなので繰り返すが、積立金の貢献度が1割程度ならば、運用による巨額損失が原因で年金が減額されたり年金制度が破綻することは考えにくい。


積立金の貢献度は1割程度


7―まとめ

2019年度は年金積立金の運用で8兆円程度の損失が発生した模様だ。

GPIFが運用結果を公表する7月頃には「年金が減らされる」とか「年金破綻の危機」といった過激な報道が増えるだろう。

また「2014年に株式投資の割合を増やしたことが失敗だった」などの批判も出そうだ。

確かに2019年度は大幅な損失となったが、GPIFが運用を始めた2001年度からの累計では約57兆円の収益を確保している。

また、2014年に株式投資を増やしたことでコロナショックの影響は大きく受けたが、14年以降の累計では運用収益が増えた可能性が高い。

そもそもの話として年金給付に占める積立金の貢献度はここ数年5%前後だ。

今後100年間についても1割程度と見込まれており、積立金の運用で大きな損失が発生したからといって年金が減額されたり、年金制度が破綻することなど考えにくい。

GPIFの運用が本当にギャンブル性が高く、中長期的にマイナスとなることが確実視されるのであれば、いずれ積立金が枯渇して年金制度は破綻の危機に直面するだろう。

しかし、実際の運用がギャンブルとは程遠いものであることは先述の通りである。

こうした点に触れずに、年金積立金の運用で巨額損失が発生したことばかりを取り上げて世間の恐怖心を煽るのは無責任である。

無論GPIFは長期的な視点に立ちリスクを見極めて適切な運営を継続する必要があるが、一部メディアは十分な理解がない中で誌幅や放送時間の制約もあり、インパクトのあるトピックスとしたいのは致し方ない面もあるかもしれない。

年金運用については断片的な情報を鵜呑みにすることなく、本質を見極める姿勢が重要だ。

遂にスラム化が始まる!? 逃げ切り世代に牛耳られた“高齢化マンション”の末路

2020-06-16 16:21:45 | 日記
遂にスラム化が始まる!? 逃げ切り世代に牛耳られた“高齢化マンション”の末路

6/16(火) 11:00配信


文春オンライン

マンションの管理運営は基本的にはマンションごとに結成される管理組合で行われている。

管理会社が行っていると勘違いしている人もいるが、マンション管理会社は組合から業務を委託された存在にすぎない。

つまり、管理会社はマンション管理に関わる実務を執り行うだけで、意思決定は組合の判断にゆだねられることになる。



その管理組合では、理事会が結成される。通常は理事長と複数の理事から構成される。

理事会ではマンションの管理運営に伴う様々な意思決定事項を協議し、決定された内容を管理会社に指示し、その実施状況を管理していく。

理事会で決定できる内容は日常業務に関わるものであり、その多くが管理規約などで定められた業務内容のものに限られる。

大規模修繕については組合総会で決議
 
一方で、組合員である区分所有者による決議を必要とする大規模修繕などの内容については、随時管理組合総会を開催して、合議によって決議するというのが一般的な手法だ。

さてこの決議だが、一般的には区分所有者それぞれが一住戸一票(マンションによっては区分所有面積比による票)を所持し、多数決で決議されることになる。

100戸のマンションであれば51票の賛成があれば議案は可決する。

議案の内容により、総会の議決を行うに足るだけの出席者がいれば、委任状の提出者を含む出席者の議決権の過半数で議案は可決される。

一方で、大規模修繕のうち共用部の大幅な変更を伴うような内容のものは議決権の4分の3以上の賛成が、建替えでは5分の4以上の賛成が必要になる。


マンションは“日本社会の縮図”
 
マンションは複数の区分所有者によって構成される、居住のための共同体だ。そのマンション全体の運営に関わる問題について、合議で決定していくことは民主主義の原則として理にかなったものと言える。

言ってみれば、マンションという共同体は町や国といった仕組みの縮図なのかもしれない。

マンション内には様々な価値観を持った人々が暮らしている。

その社会の中で平穏に暮らしていくためのルールを定め、全員がそのルールを守って健全な生活を送っていくことが必要だからだ。

ところがこの仕組み、最近ではいろいろな齟齬が生じている。

高齢者の「終の棲家」に選ばれはじめた
 
マンションの老朽化に伴い、区分所有者も高齢化していることで、共同体を今後も維持していくためには不都合な所有者構成となってきているのだ。


本来はマンションという共同体は区分所有者が徐々に入れ替わり、新陳代謝が行われていくことを前提としてきた。


マンションは戸建て住宅を購入するまでの一時的な棲家として認識されていたこともあり、どちらかと言えば若い人たちの一次取得としての住宅という意味合いがあった。

つまり、最初にマンションを購入した人はやがてそのマンションを売却し、戸建て住宅を購入し移転をする。

そのあとには若いファミリーが入り、戸建て住宅が買えるようになるまでそこのマンションで暮らすといった、「住宅すごろく」が成立していたのである。

しかし、次第にマンションという生活スタイルは、都心部のみならず郊外部あるいは地方でもすっかり定着し、マンションに永住しようとする人が多数を占めるようになってきた。



そうした中で、特に老朽化マンションの中にはその区分所有者のほとんどが高齢者によって構成されるマンションが増加してきた。死ぬまでここで暮らそうという「終の棲家」に選ばれ始めたのだ。


「死ぬまで住めればよい」
 
一方で、親の住んでいるマンションを相続して住もうという子供もいなくなっている。少子高齢化の影響もあれば、不動産価値の減退によって相続価値を認めない子供が増えたことも原因だ。

こうした事態になればなるほど、現在の区分所有者である高齢者は「死ぬまで住めればよい」という考えを持つようになる。

つまり、マンションという住宅は子供の代に引き継ぐものではなく、自分が「住みつぶせればよい」という存在になっている。

ここから生まれる発想はどうしても「自分さえ満足であればその他のことはどうでもよい」というわがままな考えにつながる。

とにかくカネのかかることはやりたくない
 
具体的には、とにかくカネのかかることはやりたくない。

自分が生きている間にどうしても必要な事はやらざるを得ないが、特別なことはしなくてもよい、だからなるべくこのままがよい、こういった発想になりがちなのだ。

実はこの発想は、マンション管理の現場だけで起こっている事象ではない。

日本という国家全体にこの発想が蔓延している。

今や日本国内の有権者の半数以上が50歳以上だ。

つまり、日本で国会議員になりたければ高齢者層の支持を受けなければならない。

彼らが好む政策を打ち出していかない限り、その地位は危ういものとなってしまう。

この状況をマンション管理に当てはめればどうなるだろうか。高齢化した区分所有者が望む施策しか、理事会は実行しなくなるだろう。それこそがマンションという共同体の運命でもあるからだ。


給排水管の交換も外壁の修繕も必要ない!?
 
では、マンションにおける区分所有者の年齢構成が大きく高齢者側に偏ると、他にはどんな事態が生じるだろうか。

マンションは共同体として、今後も資産価値を維持し続けていく必要のある建物だ。だが、問題となるのは時間軸である。

マンションを今後10年という時間軸で見るのか、あるいは30年という時間軸で見るのかで運営管理上必要とする施策は異なったものとなる。

今後30年という時間軸で見るならば、たとえばマンション内の給排水管の交換、外壁の修繕はもちろんのこと、設備の更新、共用部のリニューアル、全館のバリアフリー化、災害時に備えた防災設備・防災用品の整備は必須となる。

マーケットでも競争力を保ち、新たな所有者や賃借者にとっても魅力的な物件であり続けるために必要な修繕は、継続的に行っていく必要がある。

ところが、多くの区分所有者が「自分の代だけ住めればよい」という発想に立つと、施策のほとんどは「俺たちには関係ない」ということで却下されるようになる。


共用部を今の時代に適したデザインや仕様に変更して若い世代に借りてもらう、買ってもらうようにしたくても、高齢者たちの「ありのままでよい」というセリフで掻き消されてしまう。

そしてマンションのスラム化が始まる
 
新陳代謝の行われないマンションは商品としての魅力を急速に落としていく。

結果として、亡くなったり、高齢者施設に収容された区分所有者の住戸は、「魅力のない」「古臭い」マンションとして、貸すことも売ることもできない状況に陥り、空き住戸のまま放置されていく。

空き住戸が増えていけば、その先に待っているのはマンションのスラム化だ。

スラム化したマンションは相続財産としての価値もなくなり、誰にも引き継がれないまま野ざらし状態になっていく。

今後大量のマンションが、築40年のステージに入ってくる。日頃の入念で手厚い管理と建物寿命を伸ばすための大規模修繕を施すことで、不動産価値は保たれていく。

だが、将来に引き継ぐ施策を実行していかない限り、世の中にスラム化マンションが溢れかえることになるだろう。

今後10年が大きな転機になる
 
こうした事態を防ぐには、時間軸を長く持ち、マンションという共同体を継続させようという区分所有者や居住者の意思が必要不可欠だ。


日本社会に到来した少子高齢化問題が、マンションに大きな影を投げかけ始めている。日本の問題の縮図として、マンションの今後の存続が問われていると言い換えることもできるかもしれない。

マンションの区分所有者が自分の都合だけに拘泥せず、不動産価値を全員で維持・向上させていくことは果たして可能だろうか。

日本は欧米などと比べて私権の強い国と言われる。

一見すると欧米は個人主義で私権が強いように考える人が多いが、欧米は「個」に対する意識の強さと裏腹に、「コミュニティー」に対する従属にも大きなウェートを置いた社会だ。


つまり、コミュニティーという社会の中におけるプライバシーが確立された社会なのだ。

したがって、コミュニティーにとって有害な個人の主義、主張は排除される傾向にある。

放置された空き家などは近隣住民が勝手に入り込んで草刈りをしたり、地域社会にとって危害を及ぼすと考えられるような場合には強制的に空き家を撤去することも、日本と比べて比較的容易に実行できる。

一方の日本では空き家対策特別措置法はできたものの、個人の住宅の敷地内に他の住民が入って草を刈るなどという行為は不法侵入の罪を免れない。

私権の強い日本でこうした欧米のような発想が浸透するのか、高齢者が中心の社会構造の中でどこまでマンションのスラム化は防げるのか、これからの10年ほどが大きな転機となるだろう。


牧野 知弘