韓国・ソウルの若者(写真:ロイター/アフロ)© JBpress 提供 韓国・ソウルの若者(写真:ロイター/アフロ)

 日本以上に少子高齢化が加速度的に進む韓国。

かつて女性は20代前半、男性も30歳までに結婚し、子供を3人以上持つといったライフプランが一般的だった。

しかし、現在ではそれも大きく様変わりし、最近の調査では、30代の未婚者の50%以上が親と同居しているという結果も出ている。

若者たちが夢を描くなった原因はどこにあるのだろうか。

 先月30日の聯合ニュースの報道で驚くべき調査結果が伝えられた。

韓国統計庁が20~40代の未婚者を対象にしたところ30代の未婚者で親と同居している人の割合は54.8%にのぼるという結果が出た。40代でも44.1%という結果である。

 これと併せて親と同居する20~40代の未婚者の42%が非就業であると判明し、経済的に自立が困難な若年、中年が多いことを示しているが、こうした成人は「カンガルー族」と呼ばれている。

 かつては、子どもは成人したら親から独立する代わりに、子どもたちが協力して親の老後まで面倒を見るのが一般的とされてきた。

親が年を取っても働き続け、成人した子どもの面倒を見ざるを得ない時代が来ることを誰が想像したであろうか。

 また、結婚の平均年齢についても2019年で男性は33.3歳、女性が30.5歳で、若干ではあるが日本よりも遅い傾向となっている。

ちなみに、2001年は男性29.6歳、女性26.8歳であり、約20年の間に3~4年結婚適齢期が遅くなったということである。

 2000年代初めまでは20代前半で結婚・出産をするケースもまだ珍しくなかったものの、現在は逆に20代で結婚・出産をするケースは稀になったと言える。

2020年からの新型コロナの影響もあり、今年、来年以降の結婚や出産件数もさらに減少するという悲観的な見方も出ている。

韓国の充実した子育て支援の中身

 女性が一生のうちに子どもを生む平均を算出した特殊出生率を見ると、韓国では2020年に0.84と遂に1を下回り世界最低水準を記録した。

周囲を見ても子どもの数は一人っ子または二人までいった家庭が目立つ。そんな中でも子どもが3人以上の家庭もあり、そうした家庭は「多子女家庭」と呼ばれる。

 少子化が顕著になる中で、子どもが3人以上いる場合、年配者たちがよく口にすることが「愛国者」という言葉だ。

つまり、子どもが少なくなっているこの時代に多くの生み育てていることが国に貢献しているということなのだろう。このあたりの感覚はいかにも韓国らしいというか驚きでもある。

 現在の50~60代が生まれた1950~60年代は日本のベビーブーム時代に匹敵するほど、出生率が高い時代であった。

そのベビーブーム世代のジュニア世代に当たるのが1970~90年代初めの世代である。

1973年生まれの李さん(男性)は高校生と小学生の子どもを持つ父親でもあるが、自分の時代を振り返りつつ、現代と比較してこう言う。

「娘の大学受験を見ているとやっぱり大変とは言え、自分の時代と比べるとずいぶんと楽になったものだと思います。

僕の時代は同学年が約80万人いる時代で、それこそ小学校の頃は1クラス50人が当たり前、その分、大学の数も少なく今よりも競争が激しい時代でした」

 確かに現在では、小学校の1クラスの生徒数は25人から最大でも30人程度までである。

大学は地方に至っては定員割れをしている大学も多く、学生の獲得に奔走している状態だ。

そういう意味では、李さんの言うように、昔に比べて教育環境が改善している状況だ。

大学も全入時代になりつつあり、恵まれていると言えるかもしれない。

しかし、子どもを育てる親側の負担は体力的にも経済的にも現在の方が重いと言えるかもしれない。

 前述のように3人以上の子どもがいる家庭のことを韓国では「多子女家庭」と呼ぶ。

そうした家庭に国や自治体も支援を積極的に行っている。

支援の一部を紹介すると、母親が未就業や非正規就業者の場合でも保育園への優先的な入園を可能にするといった措置、あるいは自治体にもよるが、施設の利用や買い物の際の割引カードの発行や、1年間の牛乳の無料提供など様々なサービスを実施している。

 また、一世帯あたりの子どもの数に限らず、未就学児や高校の無償化が始まっているほか、大学については2022年度より、世帯で3番目以降の子どもで所得制限が該当する場合は学費の全額免除を受けられるようになった。

この他にも、国の奨学金(返済不要)の受給など多子女家庭の教育費による経済的負担を軽減すべく、対策を打ち出している。

 このように、子育て支援が充実しているようにも見えるが、韓国では学校以外での私的な教育(私教育)にかかる比重が大きい。

ソウルの場合では、一人あたりの子どもにかける私教育の費用は1カ月32万ウォン(日本円で約3万1000円)というデータもあり、子どもの人数が多ければ多いほど、その負担もかさむ。

また、高所得者層と低所得者層の私教育費の差は5倍にもなるという。

国や自治体がいくら支援をしたとしても、根本的な経済的負担が解決しなければ、子どもを生み育て上げることへのビジョンが持てないだろう。それも少子化を加速させている一因と言える。

若者の減少が兵役に与える影響

 韓国の成人男性に義務として課せられている兵役。

芸能人やスポーツ選手の兵役をめぐる話題は日本でも時々取り上げられているのでご存知の方も多いだろう。実は、兵役にもこの少子化が影響を及ぼしている。

 1980年代には36カ月あった兵役期間が、90年代には26カ月、2000年に入ると24カ月、そして2020年には18カ月と短縮化が進んでいる。

これらはいずれも陸軍の兵役期間で、他の配属先によっては期間が異なる)。前

述したように韓国でも一人っ子や二人兄弟などが増えている。

家では自分の部屋を与えられるなど個人主義の傾向も強く、兵役で本格的な集団生活を送るにあたり、上官が取りまとめや指導に苦労するという話も聞かれる。

 また、学歴社会の韓国では、これまで中卒者、高校中退者の場合は補充役として兵役の義務者から対象外とされていた。

しかし、兵務庁は方針を転換し、2021年からは学歴に関係なく兵役が義務化されることとなった。

「学歴の壁」を取り壊した背景には、少子化による人員減少や確保のための苦心がうかがえる。

 まさかとは思うが、このままさらに少子化が進めば女性まで兵役の対象になる──なんて時代が来るのではといささか危惧するところである。

 このように、韓国の少子化は国の労働力や経済、軍事力の低下にもつながり切実な問題である。

それにしても、生活水準は明らかに向上しているのに、若者の非婚化と少子化に歯止めがかからないのはなぜだろうか。

 近年、将来に希望を見いだせず、恋愛や就職に始まり、結婚や出産までといったライフプランをあきめる若者たちを「N放世代」と呼ぶ。

Nは「すべて」を意味し、放は「放棄」を指す造語だ。

この「N放世代」の若者たちにとって、今の韓国社会は非常に生きにくく、閉塞感を感じている。

 今では信じられないかもしれないが、2000年初めの韓国では、ファストフードなどのアルバイトの時給は2000~3000ウォン(約200~300円)だった。

その後、物価の上昇と共に時給も徐々にではあるが上がっていった。

ところが、文大統領は「最低賃金の引き上げ」を公約に掲げ、それを実行すべく就任後、2年ほどで最低賃金は著しく上昇した。

 2021年現在の最低賃金は時給8720ウォン(約853円)であり、20年で4倍となった。その比例で物価も上昇し続けている。

以前は「ショッピング天国」などと言われ、日本からの韓国旅行の目的と言えば買い物であったがそれも今や昔である。

また、最低賃金の引き上げは雇用者側にも大きな負担となり、特に中小企業は高い賃金負担を守るに、雇用の削減や非正規雇用への切り替えといった対応を余儀なくされている。

子育て世代には手が出せない都市の不動産

 また、文政権下に於いてはソウルや釜山とその周辺の都市部を中心に不動産価格は高騰を続けている。

 特にソウル圏を中心とした人口の一極集中とアパート(日本で言う大型マンション)の需要が供給を上回っている状態だ。

ソウルのファミリータイプのアパートの価格は安くて5億ウォン(約5000万円)台で、10億ウォン(約1億円)の物件もざらだ。

新婚、子育て世代がこのような価格の物件を買うのは簡単ではない。

ソウルの高層マンション群(写真:YONHAP NEWS/アフロ)
© JBpress 提供 ソウルの高層マンション群(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 不動産高騰に対する国民の不満が高まっていたが、追い打ちをかけるように最近では文大統領をめぐる不動産疑惑も取り沙汰されている。

「若い世代や子育て世代のために」と謳った政策が裏目となり、さらには自らの疑惑で墓穴を掘るような自体となっているとは何ともお粗末な限りである。