2021年03月25日
ついに本格化した日本のデジタル・ガバメント。その実現のポイントは
2020年12月に「デジタル・ガバメント実行計画」が閣議決定され、日本でもデジタル・ガバメントが本格化しつつある。
必要な行政サービスをいかに迅速に、かつコストを最適化しつつ提供するか――。
これは多くの官庁や自治体に共通したテーマだといえるだろう。
この実現には、クラウド活用がカギを握る。
しかし、現在は「個別最適化」や「運用」「セキュリティ」「人材不足」といった課題もあり、そのメリットを十分に生かしきれていないのが実情だ。
日本のデジタル・ガバメントのあるべき姿と、それを支えるクラウドソリューションについてデジタル・ガバメントや官公庁マーケットを担当するNECの林 良司に聞いた。
デジタル・ガバメント先進国デンマークに学ぶその成功要デジタル先進国の多くが、電子行政に舵を切っている。
なかでも世界有数のデジタル先進国として知られるデンマークの取り組みには学ぶべきところが多い。
国連の電子政府ランキングで1位、幸福度ランキングでも2位のデンマークは、約50年も前に日本のマイナンバーに相当する国民ID「CPR」を導入した。
2011年にデジタル化庁を創設し、政府主導で電子私書箱やパブリックデータの相互利用などのデジタル化を推進している。
日本の「マイナポータル」に相当する市民ポータルサイトでは、約2000もの行政手続きをオンラインで利用でき、満足度も93%と非常に高い。
この仕組みを活用することで、コロナ禍でも迅速な給付金支給を実現し、役所も住民も混乱することがなかったという。
「デンマークはデジタルに精通していない方も含めた国民全員が参加し、誰もが社会システムから取り残されない仕組みが実現されています」とNECの林 良司は説明する。
こうしたデンマークのデジタル化を支えてきた企業の1つが、2019年からNECのグループ会社となったKMD社だ。
同社は、デンマーク最大手のIT企業であり、40年以上にわたりデンマークのITインフラを開発してきた。
その一例がデジタル行政の基盤となっている「自治体共通デジタルプラットフォーム」である。
「国民情報管理、企業情報管理、雇用情報管理など行政サービスを支える機能をクラウドのプラットフォーム上に共通モジュールとして配置。
この共通モジュールを用いることで、さまざまなベンダーがヘルスケアや教育などさまざまな行政サービスを提供できるエコシステムを実現しているのです」(林)。
さらに同社は、組織内外の情報連携を支援する「WorkZone」という統合情報管理プラットフォームも提供している。
これは、職員自らがビジネスロジックを定義し、申請を行うワークフローやデータ管理システムなどを容易に作成できるもの。
「誰もが社会システムから取り残されない仕組みづくりと、素早く試せるプラットフォーム(クラウド)の活用。
この2つがデンマークのデジタル化成功のポイントといえるでしょう」(林)。
「作らず使う、素早く試す」
クラウド活用で実現するアジャイル行政
日本も「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル社会」を目指している。
この実現に向けて重要となるのが「アジャイル行政」だ。
アジャイルとは、システム開発を行う際に、短い期間で実装・改善を繰り返す進め方のこと。
つまり、この考え方を行政に適用したのがアジャイル行政というわけだ。
行政分野では、従来、政策立案からシステム運用開始まで数年かかることも珍しくなかった。
これでは社会環境の変化や利用者のニーズに機敏に対応することは難しい。
例えばコロナ禍では「タッチレス」や「リモート」といった新しい価値を素早く提供する必要が生じた。
もちろん、地震や台風などの自然災害時にも、迅速な行政の対応が求められる。
「そこで、政策立案からそれを支えるシステムの企画・設計、開発・検証のプロセスを同時進行していけば、その時に必要な行政サービスをスピーディーに提供できるようになります。
NECはこうした考え方のもと、デジタル・ガバメントを支援しています。
もちろん、その実現には工夫も必要です。そのポイントは『作らず使う』と『素早く試す』の大きく2つです」(林)
日本でも官庁や自治体の行政機関でクラウドの活用は始まっているが、そのメリットを十分に活かしきれていない。
それにはいくつかの問題があるからだ。
まず、さまざまなクラウドサービスが存在する中で統一的な管理や利用は難しく、個別最適化している点が大きい。
クラウド事業者によってプラットフォームや基盤技術が異なるため、横の連携が取れず、スキルや運用ノウハウの共有も難しくなっているのだ。
運用面の課題も大きい。
そもそも行政機関にはIT専門人材が少ないため、管理や保守にはとても手が回らない。
またパブリッククラウドはリソース使用量やデータ転送量に応じて課金される。
利用状況をきちんと把握していないと、想定以上にコストが膨らむ可能性がある。
クラウドは外部のデータセンターを利用するため、サイバー攻撃をはじめとするセキュリティ対策も極めて重要になる。
しかし、セキュリティ人材はIT人材の中でも特に慢性的な人手不足だ。
デジタル・ガバメントを実現するNECのソリューション
こうした行政機関におけるクラウド利用の課題を解消し、アジャイル行政を実現する。
その手段としてNECが提供しているのが官庁向けのクラウドサービス(以下、ガバメントクラウド)」「ガバメントクラウドソリューション」である。
このソリューションは4つのブロックで構成される。
「クラウド基盤」「アプリケーション」「運用」「セキュリティ」である。
その最大の特長は、従来、個別に設計していたクラウド基盤、アプリケーション、運用、セキュリティを“部品”として利用できること。
多様な業務要件をカバーするメニューがあり、ドキュメントもそろっている。
「文字通りブロックを組み合わせるように、行政機関のクラウド活用要件に対応した最適なクラウド環境を容易に実現できるのです」(林)。
NECは長年にわたり行政サービスや社会インフラを支える公共系システムの構築・運用を担っており、行政が抱える課題や求める解決策に対する理解も深い。
こうしたナレッジを基に開発したのがガバメントクラウドソリューションというわけだ。
多様なニーズに柔軟に対応し、なおかつ容易に利用できるようにするため、クラウド環境を支える主要機能を4つに分け、その組み合わせによる活用を可能にした。
それでは4つのブロックはどのような価値を提供できるのか。
まず「クラウド基盤」では、NECの国産クラウド「NEC Cloud IaaS」をベースにした「官庁向けクラウドサービス」を提供している(図1)。
「顧客拠点とクラウドをつなぐセキュアなネットワークもワンストップで提供します。
最新のセキュリティ技術と耐災害性を備えた国内のデータセンターで運用しており、信頼性・可用性も非常に高い。
政府情報システムのためのセキュリティ評価制度『ISMAP』に対応し、政府のクラウドサービス調達におけるセキュリティ水準も確保しています」(林)。
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図1 官庁向けクラウドサービスの全体像
NEC Cloud IaaSをベースに、拠点やAWSをはじめとするマルチクラウドをつなぐセキュアなネットワークも一体的に提供する。
ISMAPに対応し、行政機関のクラウド活用要件に対応した最適なクラウド環境を実現できる
NEC Cloud IaaS以外のパブリッククラウドを組み合わせるマルチクラウド環境にも対応。
複数のパブリッククラウドとNECのデータセンターを結ぶ閉域網ネットワークも提供可能だ。
AWSと戦略的協業契約を締結しており、大規模なクラウドシステム構築案件にも柔軟に対応できる。
NECグループのAWS認定資格保有者は今後3年間でさらに1500人育成し、現状のデリバリー体制を倍増させる予定だ。
「アプリケーション」はローコード開発プラットフォーム(高度なコーディングを必要とせず、最小限のコーディングで済むプラットフォームのこと)を提供し、そのスキルトランスファーまで支援している。
画面テンプレート、データモデル、ビジネスロジックなどを画面上で組み合わせるだけでシステムを開発できるため、「作らず使う、素早く試す」アジャイル行政を加速することが可能だ(図2)。
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図2 ローコード開発を加速させるアセット群
基本機能に加え、NECが持つ業種別・業務別ノウハウを活用したアセットも豊富にある。
これを活用することで、より簡便にシステムを構築できる。作成したアセットは再利用可能なので、ナレッジも蓄積されていく
「運用」に関しては、官公庁向けの運用ノウハウを集約した「ITサービスマネジメントセンター」が中心となり、「クラウドを活かす運用」をサポートする。
具体的には高いスキルを有するオペレーターを配置したサービスデスクが、クラウドのアップデートに伴う疑問や問い合わせに対応する。
さらに、コストの最適化に向けた性能コントロールも支援するほか、ITIL®に準拠した運用プロセスやドキュメントの提供などを通じて、標準化・自動化されたオペレーションにより運用を大幅に効率化する。
運用のさらなる高度化にも積極的に取り組んでいる。
「専用のサービスポータルでセルフサービスやユーザのお問い合わせを効率的に管理することも可能です。
サービス要求の作業を自動化するツールを活用すれば、開発・運用の品質向上とさらなる効率化につながります」(林)。
この運用サービスを活用した一例が、2020年10月から稼働を開始した「第二期政府共通プラットフォーム」である。
NECはこの運用管理業務を受託。
「単にオペレーションだけではなく、標準化・自動化・効率化やコスト検証の支援、継続的なサービス改善をトータルで推進し、クラウド活用のメリットを最大化する政府の取り組みに貢献しています」(林)。
そして最後の「セキュリティ」については、NECグループのアセットと人材を活かしたトータルなサポートを展開している。
具体的には、セキュリティ専門会社であるインフォセックやサイバーディフェンス研究所が有するサイバーセキュリティのトップ人材が中心となって、現状把握から対策検討、セキュリティシステムの構築、その運用まで支援するという。
デジタル・ガバメントの推進は、裾野が広い上に、恒久的な取り組みとなる。
それだけに多くの企業・組織が持つさまざまな技術や知見を組み合わせ、新たな価値創出に挑戦していく必要がある。
そこでNECは4つのブロックに加え、DX人材や政府経験者など多彩なメンバーによる専門チーム「GovTech Team」を編成。「行政機関のクラウドやゼロトラストセキュリティを技術面から検討・検証し、お客様と共にデジタル・ガバメントの実現とその価値向上に取り組んでいます」(林)。
共通化・標準化を軸に自治体基盤のクラウド化も支援
デジタル・ガバメントのメリットを広く国民が享受するためには、官庁だけでなく、自治体もほかの行政機関とスムーズに連携できる仕組みを進める必要がある。
ただし、前述したように、各自治体が個別最適なクラウドシステムを構築してきたことにより、標準化が進んでいない。
このままでは、自治体間や国との連携の弊害となり、結果的に行政サービスの質の低下、また社会全体のコスト増大化へとつながってしまう。
「NECは自治体のIT化も数多く支援しています。その経験から多くの自治体が抱える課題をいかに解決するかを考えてきました。
これからの自治体は地域情報連携を視野に、クラウド基盤および行政の共通機能について標準化を進めることが重要です」(林)。
これを実現するための仕組みが「NEC自治体クラウドサービス」である(図3)。
これは、ガバメントクラウドソリューションを構成する4つのブロックをパッケージ化したサービスだ。
クラウド基盤はNEC Cloud IaaSをベースにした共同利用環境を提供。これにより、自治体クラウド基盤の共通化を推進可能だ。
デジタル・ガバメントの基盤となる「ガバメントクラウド」との連携にも対応していく。
加えて、システムの運用・保守やセキュリティ監視をアウトソーシングすることもできる。
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図3 NEC自治体クラウドサービスの全体像
クラウド基盤を共同利用することで、各自治体の基盤の共通化が進む。運用・保守、セキュリティ監視はNECが対応する。
自治体共通的なシステムは予め用意されている。AIによるデータ解析やRPAによる自動処理を組み合わせて利用することも可能だ
自治体業務を支えるシステムは標準化を軸に多様なシステムが構築されており、すぐに使い始めることができる。
2020年9月に総務省から公開された「住民記録システム標準仕様書」をはじめ、各業務主管府省が策定する標準仕様に準拠し、法改正にも対応する。
「ITコストと職員の運用負荷を大幅に削減できるため、住民のために真に必要とされる業務に、職員リソースをシフトできます」(林)。
デジタル・ガバメントの実現には、クラウドの活用が欠かせない。
今後もNECはガバメントクラウドソリューションの提供を通じ、「作らず使う、素早く試す」アジャイル行政と「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル社会」の実現に貢献していく考えだ。
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