【羽田 真代】文在寅の大誤算…日本に対する強い反発が“から騒ぎ”に終わった事情 「福島原発処理水問題」をめぐって
2021年4月20日 6時0分
4月13日、日本政府は福島第一原発で生じた処理水の海洋放出を決定した。実施は2年後をめどとしている。
この決定を受け韓国政府はすぐさま反発、遺憾の意を表明した。
そして、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は国際海洋法裁判所への提訴を検討するよう指示まで行ったのだが……。
大統領府が提訴を検討していると公表したのも束の間、すぐに問題が浮き彫りとなった。
政府の合同タスクフォースが昨年10月に「福島原発汚染水関連現況」というタイトルの対策報告書を作成、海洋に処理水を放出しても問題ないと結論づけていたことがメディアやSNS上で取り上げられたからだ。
日本に対して強固な姿勢を取り、支持率回復を見込んでいた文在寅大統領にとって誤算というか出鼻を挫かれた格好となった。
この報告書についての論争が広がると、国務総理室は「一部の専門家の意見が政府の立場にはなりえない」という資料を公表。
文在寅政権下に作成された政府組織による報告書が、“政府の立場にはなりえない”とは、かなり苦しい言い訳である。
拳を勢いよく振り上げたまでは良かったが、その持って行き場がない状況のようだ。
「信頼できるのは韓国産だけだ」
差し当たって、韓国国内では“食の安全性”への不安が広がっており、実際にSNS上では「日本は汚染水問題…中国は衛生問題…信頼できるのは国内産だけだ」といった投稿が上がっている。
中国の衛生問題というのは、今年3月に映像が流出した“キムチおじさん”のことを指している。
このおじさんは、泥水に裸のまま腰まで浸かって韓国の国民食であるキムチを作っている。さすがに韓国でもまず見られない光景であった。
しかし、韓国は日本や中国に言えるほど、自国で信頼に値する食品を生産していると言えるだろうか。
韓国国内の下水処理施設は未だ十分に完備されておらず、糞尿や汚泥を海洋放出するケースが多い。
現に、日本国内においても過去に韓国産輸入食品から大腸菌群が検出されたという報告が何度も上がっている。
また、韓国の大型スーパーで食材を購入しても、買った食材にはカビが生えていたり、腐っている野菜や果物が混ざっていたりすることがしばしばだ。
小型スーパーでは野菜や果物の腐った部分を切り落として販売もされているため、店舗内であってもハエがたかっている光景をよく目にする。
さらに、昨今はPM2.5の影響も非常に深刻だ。
視界が真っ白な中で作られた農作物の安全性はどうなのだろうか。
韓国国民が誇る屋台フードは衛生的と謳えるのだろうか。
今回の原発処理水で俎上にあげられるトリチウムは、体内に取り込まれたあとに特定の臓器に蓄積することはなく、他の放射性物質と比べて速やかに体外に排出される。
しかし、PM2.5は非常に小さい粒子が肺の奥深くまで入り込むため、呼吸器や循環器系の疾患が起こる可能性があるとされている。
スーパーで販売されている土まみれの洗浄されていない野菜は、PM2.5が全く付着していないといえるだろうか。
〔PHOTO〕gettyimages
“日本製品不買運動”が再燃
日本政府が処理水を海洋放出すると発表した結果、最近和らいでいた“日本製品不買運動”に再び火が付いた。
イーマートやロッテマートなどの大型マートでは「原発事故が起こった2011年から日本産の水産物は販売していません」と旭日旗にバツマークをつけた張り紙を貼り、商品の安全性を主張。
ロッテ百貨店や新世界百貨店など大手デパートでも、ほぼ同時期から日本産の水産物は扱っておらず、今後も扱わない計画であると発表した。
また、韓国の農協が運営するハナロマートでも「われわれの売り場では日本産の水産物を取り扱いも販売もしません」という横断幕を掲げ出した。
韓国の農村経済研究院の発表によると、原発事故発生直後、韓国国内の水産物消費量は77.5%減少したとある。
当時も今も日本産水産物は厳格な基準を超えたものだけが市場に流通しているのだが、それはともかく、韓国の各小売店は風評被害で大打撃を受けたわけだ。
だから今回は先手を打って、消費者に対してこのようなアピールを行ったことになる。
日本産の水産物を取り扱う水産市場では、放射線量を明示し何とか販売に繋げようと努力している姿が見受けられる。
ソウル市内にある鷺梁津(ノリャンジン)水産市場では、日本産の水産物を対象に週3回、放射線量の測定を行っている。
ただでさえ新型コロナの影響で売り上げが減少している最中、文在寅政権が日本の処理水放出に大反対したため、客足がさらに遠のいているという。
文在寅政権は国際海洋法裁判所への提訴を検討していると公言したが、日本政府の決定は国際原子力機関(IAEA)からの支持を得たものだ。
国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシ事務局長は、「海洋放出はどこでもやっている。目新しいことではなく、スキャンダルでもない」と言及している。
ラファエル・マリアーノ・グロッシ 〔PHOTO〕gettyimages
また、米国のプライス報道官も「この特別かつ厳しい状況で、日本は選択肢と効果を検討し、その決定に関して透明かつ国際的に受け入れられる核安全基準を満たしてアプローチを採択したものとみられる」と述べている。
そして、アントニー・ブリンケン国務長官も「我々は、日本が福島第一原発から出た処理水を処分する決定をする上で、努力をしてくれたことに感謝する」と自身のツイッターに投稿している。
国際原子力機関事務局長の発言通り、日本が予定している処理水の海洋放出はどこの国でも行っていることで、日本より濃度の高い処理水を放出している国も多くある。韓国もそのうちのひとつだ。
韓国が放出している処理水よりも低濃度の処理水を放出するだけであり、国際機関からもお墨付きを得た科学的事実に基づいた方針であるにもかかわらず、文在寅政権が必要以上に騒ぎ立てたため、一般市民や企業にブーメランとなって返って来ているようだ。
この構図は、2019年に日本が韓国を貿易管理上の優遇措置を受けられる“ホワイト国”から除外した時とよく似ている。この時は、韓国の航空会社などが倒産した。
釜山市のずさんな検査体制
釜山港に搬入される日本産の水産物は1年で約13,000トンあるという。
2011年の原発事故以降、釜山市は「随時、日本産水産物の安全検査を行っていく」と公言していた。しかし、蓋を開けてみると今年3月の放射線検査は全58件で、そのうち日本産は19件(全て加工食品)しかなかった。
日本産水産物の件数だけを見ても、3年間で49件。釜山市の力のこもったアピールの割に実態が伴っていないのではないかとニュース番組で指摘されたのは無理もない。
これに対し、釜山市の担当部署は「依頼がなかったため検査しなかった」と釈明。
ニュース番組では、「釜山市のこのようなずさんな管理にさらに追い打ちをかけるように、日本政府は“汚染水”に関する情報を提供しない。そのため、国民の不安をさらに煽っている」と締めくくったのだが……。
駐韓日本大使館側は「東京駐在の外交団を対象にこれまで100回以上の説明会を行った」と明らかにしている。
また、茂木敏充外相も今後も説明していく方針だと述べている。韓国側で言われている、“日本政府は情報を提供しない”という指摘は的外れだ。
韓国の一連の動きは「空騒ぎ」
韓国の政治家をはじめとする処理水海洋放出反対者らが頼りにするのは、ドイツの海洋研究所(GEOMAR)のクラウス・ボーニング氏、エリク・ベーレンス氏らが2012年7月6日に発表した「福島第一原発からの放射能汚染水の海洋拡散シミュレーション」だ。
これに依拠し、処理水を放出してから7ヵ月後には韓国の海へ“汚染水”が到達すると主張している(参考)。
しかし、原子力安全委員会のキム・ユヌ防災環境課長は、「シミュレーションには放出量、放出期間、放出濃度の3つの重要情報が絶対に必要となるが、具体的に発表されたものがないため、世界的にも行った所はないと認識している」と述べている。
また、韓国原子力研究院のソ・ギョンソク環境・災害評価研究部長も、
「シミュレーションを行うには正確な放出情報を知らなければならないが、情報が出てこないため始められない」と述べており、さらには、海洋科学技術院の関係者も「まだ海洋放出のシナリオがないため予測が始められず、準備が不十分な部分を補完し続けている段階」と同様の意見を述べている。
改めて述べておくが、処理水放出は2年後である。
現時点で市場に出回っている水産物は日本政府発表前のものと何ら変わりない。紹介したように国際機関のみならず韓国内の専門家も冷静な反応を見せている。文大統領以下、韓国内の一連の動きはから騒ぎ、という他あるまい。